第26話
大会役員からリーンの襲撃を受けた翌日、事態はさらに悪化した。
「そ、そんな…」
アンの表情は青ざめていた。無理もないだろう。昨日の襲撃事件で襲われたのはリーンだけではなかった。なんとアンの師匠、ダースまでもが襲撃され、負傷。
致命傷ではないが大会の参加続行は不可能となり不戦敗になった知らせが朝に届いたからだ。
さらに被害者は、アンと一回戦を戦った魔結剣ベリアルの使い手ネクロ、リーンと戦った爆結剣・ニトロの使い手、エネガーと今大会に参加した結剣持ちの八人のうち四人が襲されるという事件にまで発展した。
ダースの対戦相手だった選手は昨日の試合が終わってからすぐに街を旅立っているため、無事であるらしい。
街は警備隊を出動。結剣トーナメントは中止となった。
勝ち残った二人が残ってたが結剣持ちに被害者が偏っているため二人の安全を考慮しての判断となったそうだ。現在二人は警護隊の施設で保護されている。旅人として同行していたヨイチも一緒に待機していた。
しかし…、
「師匠のところへ行きます」
そういって強引に動こうとするアンをなだめていたヨイチだが彼女の意志の強さに押され、警護を二人つけてもらい街の病院に足をはこんだ。
「師匠!」
「アン!どうしてこんなところにいるんだ!警護施設で待機といわれていたじゃないか!」
「どうしても心配で!師匠、よかった…」
「アタシがこの程度でくたばると思ったのかい?なめんじゃないよ!」
安堵した声とともに目じりに涙を浮かべたアン。旅に出てから面倒を見てくれていた身内の安全を確認してホッとしたようだった。
「何があったんですか?」
アンが少し落ち着いたところでヨイチが尋ねた。
「警護隊にも話したんだが、食事をしに外に出た帰りにやられちまった…、ちょうど暗くてよく顔が見えなかったのが最悪だな」
「初めからそこを狙って襲われてたってことか…」
「あぁ、それと相手は結剣持ちしか狙っていないが、相手も結剣を使っている」
「そうなんですか?」
「そうなると八人のもう一人結剣持ちがこの街にいるってことに」
『それはありえません』
そこでスカジの声がわって入る。
『現在この街にある結剣は七本。ダース様が相手をされた選手を除いて昨日、大会にでた結剣はまだこの街にとどまっています』
共感覚。結剣が使える異能の一つ。結剣同士はお互いの場所をある程度把握でき所有者もそれを感じとることができる。近ければ近いほどその異能の効力は高くなる。
「じゃあ、師匠のアレースに聞けば…」
「そいつは無理だね」
アンの声を遮ったダースが瞬時に否定する。
「多分そうだね」
その否定をヨイチも同意した。
「どういうことなんですか?」
一人だけ意味が分からないといった表情をしているアンにダースが言葉を続ける。
「多分だが、スカジの神経というか感覚領域というかそれはほかの結剣よりもずば抜けている。少なくともアレースには無理だ。近くにある結剣を感じ取れるくらいだからな」
ダースが言ったことは的を得ていた。スカジの共感覚はほかの結剣と比べてレベルの次元が違う。現にこの間のラティモスとの一件のときはスカジは時結剣クロノスの存在を感じ取れていたがララナットがもつ二本の結剣はそれができていなかった。
「それと犯人についての情報がもう一つ…。私も含めた被害者全員一瞬でやられた」
「え!」
「それって…」
今回のトーナメントでアンがかかった時間は一〇分ほど。逆にほかの勝者たちは一瞬で白星をもぎ取っていた。そして、そのうち二人が襲撃されているということは…、
「アン、気を付けるんだよ、特に夜。であるいちゃだめだからね」
「大丈夫です。無理はしません」
心配の表情を浮かべるダースにアンは安心させる声音で言う。
そのままヨイチと部屋を出たアンはスカジの共感覚に最大限の集中力をむける。
バトルトーナメントで一瞬で勝ったうちの一人。襲撃から免れたレアールの動向に目を光らせていた。
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