第23話

中央に長方形に広がったフィールドを三六〇度囲む観客席。大絶叫、大熱狂の観客席の中にヨイチはいた。さすがはこの街一番のお祭り。


コロッセオの前の露店もすごかったが、中の方まで所狭しと続いていた。通路には売り子が走り、ぶら下げているカゴのドリンクを交換している。


熱気に充てられたヨイチもドリンクを一つ購入し中央寄りの席に着いた。

[皆様、こんにちは!]

場内アナウンスが鳴り響く。

[これよりウタタカ・タウン、バトル・トーナメントを開催します!]


――ワァァーーー!!


そのアナウンスとともに場内からは拍手と歓声鳴り響く。

[ではここでルールのおさらいをしますね。今回の使用武器は結剣のみ。結剣に選ばれた者だけが参加できるトーナメントになっています。制限時間は二〇分。勝敗は相手を場外に出すか、戦闘不能にするか、です。くれぐれも殺さないようにしてください。その場合は棄権になります。]


聞いた話によると過去にも死亡者が出たこともあり、敗戦になるルールが大分緩くなったそうだ。ほかにもただただ痛めつけるだとかで勝負をつけずにいる選手もいたそうだ。そのためルールは改正を重ね、今の形に落ち着いているらしい。


[そして優勝者には巨額の賞金を贈呈します。今回は選ばれし結剣持ということもあって賞金額がふえているそうですよー!]


噂では今回の賞金はほかのトーナメント戦に比べて二倍近くになっているらしい。

[では一回戦第一試合、選手入場です!]


そのアナウンスとともに二人の選手がフィールドの両脇にある出入り口から出てきた。この試合の勝った方がアンの次の相手となる。


――もっとも、アンが勝てないと次はないんだけどね…。


それでも勝った時のためにデータ収集は集めなければとヨイチは思っていた。

〔リーン選手、エネガー選手、準備はよろしいでしょうか?〕

アナウンスにうなずくフィールド上の二人。


〔それではウタタカ・タウン バトル・トーナメント!一回戦第一試合バトルスタァーート!〕


観衆の大熱狂とともに始まった一回戦は早々に決着がつくこととなる。

エネガーの爆結剣・ニトロが先制して爆破攻撃を敢行。いきなりダメージを与えたかに見えたがそれを難なくかわしたあと、リーンの音結剣・ミューズの能力がさく裂。相手を睡眠に陥れる音色を使い、睡眠状態に。

そのまま悪夢を見せる音色を奏で戦闘不能。試合時間はなんと一分をきった。


――あの音の攻撃は厄介だな。対処法を考えないと…。


〔続いて第二試合、選手入場です!〕


音結剣の対処法を考えていると次のアナウンスが鳴る。いよいよアンの出番だ。

カチコチで両手足が一緒に出ているところを見るに相当緊張しているのが遠くから見ても分かった。


ちなみにアンにはカツラをかぶせてある。最悪スカジだけばれてもなんとかごまかしが効くかもしれないが、ララナットが言っていたグレシャー帝国の大罪人というワードを思い出し身バレ防止のために黒髪のカツラをかぶった状態だ。


[ではアン選手、ネクロ選手準備はよろしいでしょうか?]

うなずく両者。狙うは優勝。師弟対決実現のために…、

[それでは一回戦第二試合、バトルスタァーート!]

アンのバトル・トーナメントが幕を開けた。



――大気中の水分量が少ない?!


開戦前にアンが最初に思ったことだった。人々の熱気、気温、いくつもの条件によりスカジの能力の発動に制限がかかってしまっていた。


――それでも早めに気づけて良かった。


大気中の水が少なくなると氷を生成できない。そうなれば敗色濃厚である。ゆえにアンのとる選択肢は一つ。


「早めに片づける!いくよスカジ!」

『はい、アン様』


鞘からスカジを抜きこおりのつぶてを生成。しかしかなり小さめだ。

[な、なんと元五大結剣、氷結剣スカジの登場だぁぁ!]

スカジの登場に驚愕するアナウンスと観衆をよそにアンは小さく作った氷のつぶてを放つ。


――これで相手の出方を見る。


放たれたつぶては対戦相手ネクロに着弾。先手を取ったと思われたかに見えた。しかし、ネクロは傷一つついてない様子でそこに立っていた。


「氷結剣スカジ、か。戦えて光栄だね」

緑色の髪がはらりと揺れる細身の男性。身長はヨイチと同じくらいだろうか。手に持つ結剣は紫色の光を宿している。


「今のはどうやって…」

『アン様、おそらくですが剣でははじいていません』

「えっ?どういうことなのスカジ」

『彼をよく見てください』


そういわれたアンはネクロを注視した。すると剣にまとっていた紫色の光が形を作り始める。そしてそれはまるで悪魔のような形をした何かになった。


「僕の結剣は魔結剣・ベリアル。後ろにいるのがベリアルの姿見だよ」

「ということは後ろの悪魔がつぶてをはじいたんですね」

「正解だ。さぁ、続きを始めようか!」


ネクロはベリアルとともにアンに斬撃を放つ。その剣の数は二本。姿見であるベリアルも斬撃を繰り出せたのだ。紫色に光る悪魔が少女めがけて剣を振るう。


「いつっ!」

ネクロの斬撃をはじいたアンだったが横からきたベリアルの攻撃を左腕に受けそうになる寸前のところで交わし距離をとったアンだったが少量の血が左腕を伝っていた。


「二体一ですか。結構ピンチですね」

『大気中の水分量も少ない。早めに勝負をつけたかったんですけどこれは苦しい戦いになるかもしれませんね』

「望むところです!」


正面に構えたスカジを相手に向けたアンは、再び小さめの氷のつぶてを生成。

目の前にベリアルとともにいるネクロに突っ込んでいった。

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