第22話
完全な力関係が目に見えてわかるが状況をつかめないでいるヨイチに女性が気づいた。
「アンの連れかい?世話になってすまんね。ほらアン、もう顔上げなよ」
少しだけ厳しかった相貌が暖かみを宿す。
「いえいえ、もしかしてアンの知り合いなんですか?」
「まあね。アタシはダース。アンには昔、戦いを教えて、一緒に暮らしていた時があったんだ」
そういった彼女は快活な笑顔でニッと笑う。
「な、なんで師匠がここに…」
「トーナメント表を見てわかってるんだろう?私も出るんだよ」
「やっぱり…」
肩を落とすアンから用紙を拝借する。トーナメント表の下に書いてある名前を見ると確かにダースの名前があった。それでもこんなに落ち込むものかとヨイチが思っていると、
『アン様、ドンマイです。また次頑張りましょう』
とスカジが慰めの声をかける。
「スカジ、ダースさんはそんなに強い人なの?」
「えぇ、ダース様のもとで地獄のしごきもとい修練した期間、アン様はダース様に勝ったことはありません」
「えっ?」
『それどころか一度も攻撃を当てたことがありません』
「それってめちゃくちゃ強いんじゃ…」
「ま、こんなところじゃなんだから、場所を変えようか」
ダースに促されるままにアンとヨイチは彼女の後を追った。
ついた場所はダースの宿屋。少し大きめの休憩スペースで三人は腰を下ろし、各々飲み物を飲み始めた。
道中ここまでの旅の経過を洗いざらい全部喋らされたアンは今にも溶けそうな状態で、飲み物も一つも口にしていなかった。
――なんなら俺も少しは恥ずかしかった…。
それでも先ほどよりは少し落ち着いている様子のアン。久しぶりに身内に会えたという安心感があるのだろう。
聞くに先ほどのおびえた様子は名前を見た瞬間に苦しく辛すぎた稽古のことを一番に思い出したからだといい、それを聞いたダースはまた快活に笑っていた。
「でもまさかこんなところでアンと会えるとはなぁ。いやほんとにびっくりだ」
「そ、それはこっちのセリフです!師匠がこんなところにいるなんて思いもしませんでした」
「トーナメントに出るってことはダースさんも結剣持なんですよね?」
二人の話を聞いていたヨイチはふと疑問を口にした。今回のトーナメント戦は結剣を所有していないと出場することができない。だとするとダースも結剣を持っていることになる。
「さんはやめなよ。ダースでいいさ。見たとこアンタの方が歳が近そうだしな」
「は、はい、わかりました」
「結剣だったな。ちょっと待ってろよ」
ダースは腰のあたりからナイフを取り出した。長さはスカジの三分の一にないだろうか。実に軽そうで扱いやすそうな結剣に見える。
「こいつが私の結剣、闘結剣アレースだ。能力はといっても非公開情報だからな。試合までのお楽しみということだ」
「私も能力自体わからないですね」
「だすまでもなかったからな」
「で、ですが昔よりはレベルアップしてますよ!ね、スカジ!」
『えぇ、こんなアバズレぶっ潰せるぐらいにはアン様は強くなってます』
「それはちょっと言いすぎなような…」
あのスカジがこんな風に相手のことを言うとはそれほどの相手ということがうかがえる。
「いい心意気じゃないかい。決勝まで負けるんじゃないよ!」
二人からの強い意志を受け取ったダースは不敵に笑って見せた。ダースのブロックはアンとは別ゾーンになっている。当然二人が戦うにはお互いに決勝まで上り詰める必要がある。
「師弟対決、楽しみだね」
「はい!こうしてはいられません。戻って修練します!」
「はっ、せいぜい頑張るこったね」
先ほどまで逃げようとしていた様子とは全く違うアンの姿がそこにはあった。目に闘志が宿り、戦いのモードに入っている。意気揚々と先に戻っていく。
「それでは失礼します」
ヨイチもアンの後ろを追うようにダースに頭を下げ、出ていこうとするとすごい力で止められた。
「自分達の分の勘定くらいはらいな」
「ですよね…
しっかりとアンの分まで払わされたヨイチは再びアンの後を追った。
そダースと出会ってかから二日後。
ウタタカ・タウンの恒例イベント。バトル・トーナメントが幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます