第21話
夕方。コロッセオ周辺には多くの人だかりができていた。人々の目的はもちろん三日後に開かれる結剣トーナメントのトーナメント表の発表だ。
「どんな人がいるんでしょうか…。」
「アンはあまり結剣持の人と会ったことがないんだっけ?」
「そうですね。この間の時結剣をもっていた少女が久しぶりでした」
「久しぶり?その前にだれかに…、」
「あ、ヨイチさん!トーナメント表がでますよ!」
話の途中で遮られたヨイチはアンとともにコロッセオのボードを見る。そこにはトーナメントのやぐらがでており、名前が書かれていた。
ちなみに、結剣の公表はされないそうだ。本番までの客への楽しみの一つということでとっているらしい。
「私は…、第二試合だそうですね」
自分の名前を見つけたアンがそう教えてくれた。ボードの横では紙での配布も行っているらしい。
一枚とってアンと並んで用紙を見る。
「どれも知らない人だらけだな」
「逆にこの街に結剣持が八人もいることがすごいですけどね…」
貴重で異質な能力を発揮する結剣が八本も同じ場所に存在する。
アンのいう通り普通ならばこんなことはあり得ない。これもこの街と人々の熱狂がなせるものだ。
「アンの相手はなんていう人なの?」
「リーブ・リックという人ですね、全然わからないですが」
結剣の非公表同様、顔も性別も明かされない仕様になっている。
気になるならコロッセオまで来いということらしい。
それなりに考えられている商業戦略だとヨイチは思う。
「大会まであと二日。アンはどう過ごすつもりなの?」
トーナメント表からめが動かない彼女にヨイチは尋ねた。
「そうですね。体は動かさないといけないですからトレーニングですかね」
「じゃ、食事は少し制限だね」
「そんな!」
そういうとやっと用紙から目を離し、いつもの悲しげな表情を向けてくるがすぐにまた目をトーナメント表に戻す。
「そんなに気になる人が載っているの?」
「いや、まあ、すこし気になるというか、見たくないというか…」
ゴニョゴニョと歯切れの悪い返事をするアン。まさか知り合いでもいるのかとヨイチは思ったがそんな高確率で結剣持の知り合いに会うなどあまり考えられないなと思っていた。
――アン自体は結剣持の知り合いがほとんどいないみたいだしな。
ヨイチが知っている有名な結剣使いの名前も、陽光の騎士団ララナット・リリベルのような人の名前もトーナメント表からは見当たらない。
それでもアンの用紙への注目度は少しだけ異常に見える。ヨイチが何かしらしゃべっても上の空であまり耳に入ってない様子だった。
少しの時間をおいたアンはなぜか覚悟を決めた顔をしてアンの言った。
「ヨイチさん、逃げましょう。トーナメント戦はあきらめたほうが賢明ですね」
立ち上がったアンはヨイチの手を引いて門の方へ歩き始めた。
「ちょ、ちょっとどうしたの、アン」
「やばいやばいやばい!」
アンの顔に焦燥感が浮かんでいる。何か悪いことでも起きるのか?
アンが見ていたトーナメント表にそんなやばいを連呼する名前が入っていたのかとヨイチは疑問を持つ。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ」
そんなヨイチをアンはぐいぐい引っ張るが、後ろから呼びかけられた声で氷のように固まってしまった。
「どこに行くんだい、アン?」
ヨイチが振り向くとそこには女性が一人立っていた。
健康そうで少し焼けた肌に、短い髪を後ろで束ねている。
身長アンより少し高いくらいか。
何より目、目が少し怖い。細く向けられた茶色の双眸はアンをずっと見ている。
「まさか、逃げるわけじゃないだろうね?」
「ソ、ソンナコトハ…」
機械のようにカタコトになったアンは重々しくその女性の方へ振り向いた。
「師匠に挨拶もなく立ち去ろうとするとは、ある意味成長したねぇ、アン」
「ひっ、す、すみませんダース師匠!」
即座に深々と頭を下げるアン。
そこに立っていた女性はアンの師匠、ダースだった。
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