第20話

「ほんとによく食べるな…」

『さすがに私もちょっと引いてますね…』


少し離れた露店でアンがすごく幸せそうな顔で串焼きをほおばっている。もう片方の手にはクレープ。これもスペシャルなやつだそうでイチゴがいまにも落ちそうだ。


極めつけに首からはポップコーン。味は酢醬油。なぜその味をチョイスしたのか理解できないがおいしい、おいしいと言って食べ続ける彼女を見たらもう何も言えなかった。


「しかし結剣トーナメントか…、これはまた難儀だね」

『私がいてよかったですね』

「ほんとだよ、全く」


昨日、アクセサリーの販売許可と宿探しを終えた二人は、そのまま宿で一泊し(ヨイチのお金)、朝から情報収集もかねて街を散策している。


アンのアクセサリーはというと飛ぶように売れてそのまま完売。何なら少し行列もできていたくらいだった。


「やっぱりあれだけ質が良かったら売れるんだな。さすがは氷結剣スカジといったところか」

『当然です。私とアン様が作った商品なんですから』


――多分、すごいドヤ顔してるな。


売れたアクセサリーのお金を全額ヨイチに渡してきたアンだったがヨイチはその五割だけもらうことにした。残りの五割はお小遣いとして服やら食べ物やらに使うといいと言ったら、目の前の現状になっている。


途中まで付き合っていたヨイチだったが、クレープを食べた後に胃もたれを起こしそうになり預けられたスカジとベンチで休憩中だ。


『ほんとによく食べる。随分我慢してたんですね』

「そうなんだ。あんなに食べる子じゃなかったんだね」


それは、ヨイチと旅をしだしてからか。変な安心感からか。すこし緊張感が和らいだからか。なんにせよ、彼女が笑顔でいるということがヨイチはうれしかった。


『まあ、トーナメント戦も任しておいてください。私がいれば余裕です』

「どっから出てくるんだよその自信は…」


街の人々に情報収集した結果、今回のバトル・トーナメントの全貌が見えてきた。

まず、バトル・トーナメントは毎回、何かしらの限定や規制があるらしい。


同じルールの戦いだと観客も飽きてしまうし、ルールを熟知した人や同じ人が毎回優勝してしまう可能性があるからだ。


そして、今回開かれるバトル・トーナメントは結剣限定だという。開催は三日後。ちなみに販売許可をもらうときにエントリーは済ませているらしい。


「たしか今日の夕方に出場者とトーナメント表が出るんだっけ?」

『そうですね。アン様が最後のエントリー枠だったそうで全部で八人だそうです』

「八人ということは、三回勝てば優勝といことか…、勝算は?」

『余裕です』


即答。それだけ自信をもっているということだ。ただ、剣だけが有能では意味がない。剣と使用者、二つが共鳴して共有して共感して、お互いがお互いを尊敬しあって、お互いが使いこなしてはじめて強くなる。


そう考えると二人の相性はバッチリなんだということが分かった。時結剣クロノスを所持したユナ・エリスとの戦いをヨイチは見ていないが結剣同士で勝利したというのが自信をさらに持てるようになったポイントだろう。


『アン様は私が必ず勝たせます。絶対に。この先もずっと』

それは何かの決意のようで、ヨイチに発した言葉ではないことが分かる。

「一つ聞きたいことがあるんだけど…」

『アン様のスリーサイズなら教えませんよ?』

「違うって!お前はほんとに…」

『冗談ですよ。なんですか?』


ヨイチは周囲を少しだけ見渡して人気が少ないことを確認してからスカジに聞いた。


「スカジ、おまえいま、何個持ってるんだ?」


少しの間が開く。スカジは剣という無機物だが逡巡しているのがよく分かった。

そしていつもとは、あのお調子者の時とは全く違う声で、少しの涙声でスカジは口にする。


『一つ、です…』


「そうか…、分かった」

両者の間に沈黙が流れる。だがどうしてもヨイチが確認しておきたかったことだった。


「変な空気にしてごめんね。アンのところに行こうか。もううしろ姿が見えなくなり始めてる」

『そうですね。また両手に持ってるもの食べ物が変わっていますし…、そろそろ止めないといけませんね。』


声の調子は元に戻っていることを確認してホッとしたヨイチだったが、スカジに確認したことで一つ確信が持てた。


――スカジは自信満々かもしれないけど…。


アンの後ろ姿を追いかけながらヨイチは考える。


――結剣トーナメントは正直厳しいな…。

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