第18話

再び火をつけることに成功したヨイチ達は、二人で火を囲んで夕飯であるシチューを作っていた。もちろんスカジはリザードのそばで待機させている。


「こうやって野菜に火が通ったら調味料を加えて、あとはなじむまで少し待って完成かな」

「すごいですね。ほんとにおいしそうです!」


ヨイチの料理の手際の良さにアンは素直に感心する。

「アンだってすごく綺麗に皮がむけるんだね」


ヨイチの作業をみていて自分も何か手伝いたいと申し出たアンにヨイチは野菜の下準備をさせてみたがこれがとても綺麗だった。


流れるように切れていく皮は一切千切れることなく、均一に切られた野菜たちはもはや芸術的だった。


さすがにヨイチでもこんなにきれいにできないと心から思ってしまい、混ぜながら煮崩れしていく野菜たちになんだか申し訳がなかった。


「やっぱりアクセサリーをハンドメイドで作るっていう繊細な作業をしてるから手先が器用なんだね」

「いえいえ、全然そんなことは…」


謙遜するアンだが褒められて少し嬉しそうにも見える。

「良かったら作っているところを見せてくれる?」

「そうですね。ちょうど在庫を切らしていましたし…、いいですよ」


そう言って二人は湖畔の近くまでやってきた。なんでも火の近くではうまく周囲の水分を操作することができないということ。あとはスカジの機嫌だ。


「では、はじめます。なんだか人に見られるのは緊張しますね」

「まあまあ、いつも通りどうぞ」

「では…」


アンはスカジを鞘から抜き、目を閉じて刀身に意識を集中させる。周囲の水分が水色に発光しながらアンの周りを不規則に回り始める。


気温が少し下がり、澄んだ空気がヨイチの周りを漂い始めた。

その光景は神秘的で、幻想的で。何かを生み出すときにこれほどまでに美しい景色があるのかと思うほどだった。


水色に発光した水分がスカジの刀身に集まりはじめ、形を作っていく。

「ふぅ…、っと、こんなものでしょうか」


刀身についているアクセサリーを丁寧に取り除きながら、アンは汗をぬぐった。

これほどの集中力を使うほど高度な技術だ。出来上がる作品もどれも素人目でみても一級品だとわかる。ピアスに指輪、ネックレスが袋にいれられていく。


「あのよかったらこれ」

そう言って最後の一つ、ブレスレットを手に取ったアンはヨイチに差し出した。

「いいの?こんな高級そうなものをもらっても」

「はい、モンステラでのお礼とこれからよろしくお願いしますの意味を込めて、プレゼントです」

「ありがとう、大事にするよ」


受け取ったブレスレットはとても軽く、ささやかながら氷の紋章がつけられていた。

サイズはピッタリで、掲げて見せたときに少女は笑っていた。月明かりに照らされた顔は可憐でヨイチは見惚れてしまっていた。次の言葉を言えずに口ごもってしまういると、


『買収成功ですね?』


雰囲気ぶち壊しの一声が聞こえた。

「スカジ?今度は火の中にでも入ってみる?」

『冗談ですよ。本気にしないでくださいね?アン様?聞こえていますか?』


何も言わずに足早に火のもと駆け寄り刀身をあぶりだそうとしてところでアンのお腹の音が見境なく鳴った。


 『ぎゃあああああああああー!!』


その驚きが加わって止まるはずもないスカジの炎へのダイブは剣の声とも思えない絶叫とともに行われ、ヨイチは心でガッツポーズをしながら見ていた。



「次の町ですか?」

「うん、どこにしようかと思って、さすがに毎回野営だとアンも嫌でしょ。ほらお風呂とか」


シチューを食べながら話は次の目的地に移っていた。スカジは今日はもう目覚めないようだ。多分目覚めたくないのだろう。ちなみに刀身に一切の傷も焦げもない。腐ってももと五大結剣ということだ。


 「そうですね。二日に一回は入りたいのが本音なところです」

 通算四杯目のシチューを口にしながらアンは言う。明日、なんなら明後日の朝のぶんまでと思っていたが今日で終わってしまった。暴食娘ここに爆誕である。

 「途中であった行商人の人がいうにはウカタタシ・ティだったかな」


――ウタタカ・シティ。

 モンステラよりも周辺地域との交流が盛んで陸海空いつも行商人が飛び込んでくる。売買も自由に行うことができ、行商人にはうってつけの街だと言っていた。


そして、その街一番の特徴がウタタカ・コロッセオ。

月一回で開催されるトーナメント戦がこの町一番の売りでそれ目当てで来るお客や行商人がほとんどだそうだ。


「トーナメント戦の優勝賞金は確か結構するって言ってたな」

それを聞いてとなりで耳ピクピク動く少女。


「アン、どうしたの?」

「なんでもありません!行きましょう、ウタタカ・タウン!」

動揺してるが目が¥マークになっている。


――こりゃ、トーナメント戦にでるつもりだな。優勝して借金の返済に充てるつもりだ。


「じゃ、明日からウタタカ・シティに向けて行動でいいかな?多分一日もかからずつくとおもうから」


筒抜けの目的をあえてスルーしたヨイチはアンに確認する。

「はい、トーナメント戦、頑張ります!」


「もうバレバレなんだよね…」


まったく気づいてないアンは闘志を燃やし、燃やしすぎて盛大に夜更かししたあげく、食べすぎの腹痛でヨイチが薬代と看病をし、出発が半日遅れることとなった。

当然、夜の見張りはヨイチがすることとなり、アンは至れり尽くせりだった。


――…、用心棒とは??

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