幕間1

第17話

モンステラからリザードを操縦して約半日。日も暮れてきたこともあってヨイチは野営の場所を探していた。


 ――できれば水辺のある場所がありがたいんだけど…。


 リザードの速度を落とし、周辺を見渡すとタイミングよく湖畔のある場所を見つけることができた。


 「アン、あそこに見える湖畔で野営をするんだけどいいかな?」

 「はい。大丈夫ですよ」


 アンに確認をとってヨイチは湖畔にリザードを止めた。半日かけて移動したリザードは大きく伸びをしてそのままどすっと倒れ込んだ。アンはそのリザードの近くによって優しく頭を撫でてやる。


 「ちょっと疲れさせすぎましたかね?」

 「そうだね。働かせすぎちゃったな」


 はじめは不慣れな操作で思うようにいかなったが慣れると自然と行きたい方向に向いてくれるようになった。


――意思疎通ができているというかなんというか…。


そう考えていたらそばでよく聞いたかわいいお腹の音が鳴った。

「アン…」

「そんな顔で見ないでください!ここまで結構我慢してたんです!もうお腹がすいてるんです!」


恥ずかしさから真っ赤な顔で抗議するアンにヨイチは苦笑交じり言う。

「分かったよ。こっちで準備始めるからアンはリザードに水を飲みに行かせてあげてほしい」

「ヨイチさん、料理できるんですか?」


訝しげにアンは聞いてきた

「君より長く旅をしているからね。いらないならあげないけど…」

「噓です、いります、お願いします」

「じゃ、はやく行ってきてね。アンにも少し手伝ってもらうから」

「分かりました」


リザードを起こしたアンは湖畔に移動した。

「さてと…」


その姿を見送ったヨイチはまず周辺を見渡す。湖畔周辺には少々ばかりの草木があるが食料になりそうなものは見当たらない。湖畔の周辺は大小の石がゴロゴロしており睡眠には適した環境とは言えない。


しかし、ここよりも劣悪な環境で野営をしてきたヨイチのなかでは良環境と判断されていた。


「まずは…」

ヨイチは草木のある場所に足を踏み入れる。目当て木切れ。細いものから太いものまで転がっているものを片っ端から拾い上げ、両手一杯になったところでもとの場所に戻る。


それを繰り返し三往復目が終わったころにアンがリザードを連れて戻ってきた。

「焚き火用の木切れですか?」

「そうだよ」

「私、焚火初めてかもしれないです」

「アンって今まで野営とかはどうしてたの?」

「宿屋を渡り歩いてましたから野営はしたことないですね。毎回、次の目星の宿を予め定めて移動していたので」


旅の仕方は人それぞれだ。ヨイチのように野営をするものもいればアンのように宿屋を渡り歩くものもいる。


――高級ホテルしか行かない人もいたな…


そう昔を振り返るとアンから声がかかる。

「焚火ってどうやるんですか?」

「そうだね。まずは野営についてアンにレクチャーしていこうかな」


そう言ってヨイチはリザードの荷台からバックパックをおろし、折り畳み式のノコギリを取り出した。それを使って拾ってきた木切れを均一の大きさに揃えていく。


「手慣れたものですね」

「長いことやってるからね、アンもやってみる?」

「いいんですか?」


ヨイチからノコギリを借りたアンはヨイチよりもはやく丁寧に残りの木切れを整えてしまった。

「う、うまいね…」

「私、これ得意みたいです」


笑顔で答えるアンは一仕事終えた達成感のある顔をしている。だがこれで終わりではない。火をつけなければ何も始まらないのだ。


「じゃあ火をつけようか」

「はい!」

「まずは太めの木切れを下のほうに組む」

「はい」


ヨイチの指示に従ってアンは丁寧に並べていく

「次に中くらいの木をさっきとは逆に置いていく」

「なんだか積み木をしてるみたいで懐かしいです」

「最後に真ん中に細い木を入れて、組み合わせ完成だよ」


組み上がった木々たちの姿は井の字型スタイル。真ん中の細い木々たちにライターで火をつける。


「あとは、はいアン」

渡したのは風を送るための扇子。焚き火用で少し大きめのものだ。二人がかりで火を絶やさぬように風を送り続けて少し。火が徐々に中くらいの木に移り始めた。


「よしここまでくれば大丈夫。ありがとう」

「いえいえ、はじめてでしたがなんだか楽しかったです。お腹がすいてることを忘れるくらい夢中になっちゃいました」


そう言って焚火の近くに座ったアンは火の移りを眺めている。

『アン様、暑いです。私、溶けてしまいそうなんですが』

ここまで黙っていたスカジが苦言をたれる。


「そういわずに見てスカジ!私がつけたのよ。はじめての焚火よ!」

スカジに見せようと鞘から抜き火のもとへ近づけた。


『熱い!熱いですって!』

「アン、もっとやってやれ」


モンステラでは散々な言われようだったこのバカ剣を間接的に懲らしめるチャンスだとヨイチはアンに指示したのがダメだった。燃え始めた木々が一瞬にして凍ったのだ。


『私をあまり馬鹿にしすぎるとよくないですよ…』


――怒気、剣から怒気を感じる!!


そっと鞘にしまったアンはリザードの横にスカジを置いた。

「えっと…、どうしますか?」


二人を挟んだ真ん中に置かれたのは氷漬けにされた木。溶かしても濡れてしまっては火も付きにくくなってしまっている。


「もう一回最初からやり直しだね…」

「ですよね…」

二人は肩を落として再び草木の入っていった。


――火をつけているときにあれをバカにするのはやめよう。


固く決意したヨイチだった。

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