第12話
舞台裏は意外と狭くオークション品で窮屈な状態になっていた。昨日の一件で早急に運び込まれたであろうその商品たちは乱雑に置かれている。
「早く戻らないと!」
焦りともどかしさがヨイチをせかす。
ヨイチの忘れ物はこの狭い空間で中々見つからないのだ。探しながらもヨイチはアンと結剣持ちの少女のことが頭から離れない。
いくらアンがスカジを持っているとはいえ単純な剣術だけでは雰囲気からでも結剣持ちの少女の方がアンよりも上手だと想像がつく。
アンがスカジの力を完全に引き出すことができれば勝算は十分にあるが多分アンはそれに気づいていない。
「いや、スカジが話していないのか?」
そう考えながらもヨイチは落し物を探していたら一つの部屋を見つけた。
舞台裏からここまでは一本の通路のようになっていたがちゃんとした扉が付いた部屋を見たのはこれが初めてだった。
鍵のかかった部屋をヨイチはハンドガンで施錠を壊して強引に扉を開ける。部屋の中には正面の小さな机とその上にヨイチのポーチが置いてあった。
見つかった安堵とアンのことが気がかりなのが同時に浮かび上がり急いでポーチを手に取る。
「おーやおや、それは持ち出し禁止だよ」
後ろから現れた気配と声に振り向きざまにハンドガンを構える。
そこにいたのはシルクハットを被って杖を突いた老紳士だった。
身長はヨイチの頭一つ分と高い。なにより今まで気配を感じなかったのだ。ヨイチは警戒しながらそう声をかける。
「これは元々俺のものだ。持ち出すも何もない」
「おーやおや、では君があの…」
中身を見ているであろう老紳士はヨイチの正体の確信があるようだ。口元がわずかに緩み喉でくつくつと笑う。
「あなたはラティモスの関係者なのか?」
「おーやおや、バレているようですな」
「こっちの正体もバレてるんだ。おあいこだろ」
「いーかにもいかにも、私はラティモスの首領ベインと申します」
そう言ってその老紳士ベインは帽子を取って大げさに頭を下げる。
「随分と余裕なんだね」
「こーれでもこれでも、ギリギリですがな」
ラティモスの首領ということは今の事態について大体把握してあるはずだ。
外でのララナット率いる騎士団の動きも把握しているだろう。それにしては余裕がありすぎる。ベインからしたら今の状況は完全に追い込まれている。
だかベインはくつくつと喉で笑いその気味の悪い笑みを張り付けたままだった
「まーぁまぁ、ですがここでは何もいたしませんよ。二人の方も決着がついたようですし、騎士団団長殿もご到着したみたいだ。私はここらで退散するとしますかね」
そう言ってベインはヨイチに背中を向ける。
「待て!」
ヨイチはその背中を追おうとしたが目に見えない圧力に押しつぶされた。
「ぐっ!何が!」
気づいたら頭から体が地面に押さえつけられていた。おでこからは血が出ている。
「そーのその品物をなくすのは惜しいですが、あなたの正体と引き換えに返しておきますよ」
そのまま部屋から出ていくベインをヨイチは地面から睨みつけながら動くことができないもどかしさを感じていた。
部屋に残ったのヨイチにはベインのくつくつ喉で笑う耳障りな音だけが響いていた。
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