第10話
「すごいな、ほんとにあった」
カウンター奥には大厨房が広がっており、地下へ通じる扉は容易に見つけることができた。
螺旋階段になっているそれは底が暗くかなりの深さがあることがうかがえる。
ララナットは倒れた店主を連れて警護施設に向かいアンの提案の遂行のため別行動している。
「それにしてもよく分かったね」
先ほどのアンの質問攻めはハッタリもいいところだった。店主が様子さえ崩れなければ帰らされていただろう。
「確信はありました。実際忘れ物をしたのは知っていましたし、この店で無くならなければおかしいです」
「じゃ、裏市の会場はなんで?」
ヨイチの一番の疑問はそこだった。ララナットを含めた騎士隊たちが把握していた場所からピンポイントで三つまで絞っていたが、全く土地勘の分からない、ましてや地下の情報なんてアンが知っているわけがないと思ったからだ。
「それが分かったのは私ではなくてスカジです」
「え、そーなの?」
『そうですよ、ヨイチ』
するとここまで黙っていたスカジが言葉を発した。
『私たち結剣はどこにあるかを把握できます。近ければ近いほどよりピンポイントで』
「ああ!だからララナットが来たときに…」
『そうです、ほんとあの子たちは会いたくなかった』
夕食中にララナットが来る前にスカジはそれを感じ取っていた。同じ結剣が近づいているからあの時そういったのだ。
「私はスカジと共感覚でつながっています。そこまで強いものではないですが、やんわりと理解できるのです」
「そういうことか。ならばこの下には…、」
「はい、この地下に結剣がいます」
真剣な表情になるアン。
そこでヨイチは合点がいった。昨日の昼食の時点でアンは地下の存在に気付いていたのだ。それを確かめるべくヨイチの忘れ物を使い、真相を突き止めようとした。
「まんまとはまったわけだ」
ヨイチは肩をすくめる。
「流石に警護隊の上層との癒着とかは賭けの部分がありましたけどね。崩れてくれてよかったです」
そう言って安心した顔を見せるアンにヨイチはその顔にこれまでには無かった頼もしさを感じていた。
「ではヨイチさん、忘れ物、取り返しに行きましょう」
「アンが盗ませたようなもんだけどね」
ヨイチは皮肉を苦笑交じりにそう言う。ヨイチ的には今のところ不運ばかりだ。
「そこは謝りますけど、大丈夫です。終わった後はきっと良いことがありますから」
そう言って微笑むアンの顔はとても魅力的だった。
「さぁ、行きましょう」
アンは店内にあったランプに灯をつけて持ち上げる。
アンを先頭にヨイチは暗闇の中に溶け込んでいった。
螺旋階段はただただ深く続いていた。もうどれくらい下っているのかも分からない。アンの持つランプの灯だけが辺りを照らしている。
「中々先が見えませんね」
ここまで無言で歩き続けていたアンがヨイチに向かって声をかける。
「スカジ、感覚的にはどうなんだい?」
近ければ近いほどよりピンポイントで場所を把握できる結剣同士だ。
今どのあたりかわかっていても不思議ではない。
『居場所はほとんど分かってます。相手も動いてませんから』
「そうなのかい?」
昨日から場所が変わってないのもおかしな話だ。結剣と言っても当然持ち主がいる。裏市の会場という危険な場所から動かないはずがない。
『ヨイチ、私も相手の場所を把握してできるということは相手も把握しているということですよ』
難しい顔をしたヨイチにスカジが話しかける。
「待ってるってこと?」
「その可能性が高いですね」
逃げられない状態にあるならまだしも昨日から待っている。しかも感覚を知っているとわかっていながら。
ヨイチはハッとした。
裏市の会場は本来見つかることがない場所で開催している。それは貴族や今回のように警備の上層部が場所を提供したり証拠を隠蔽したりするため見つからないようにされているのだ。
本来そこに部外者は立ち入ることはできないはずだった。だからその結剣が二日も動いてないのではなく本来そこにあることがおかしいのだ。
ましてやアンが見つけたの場所は新しい裏市の会場だ。ラティモスだって見つからないように工夫をしているはずだ。実際、騎士隊の捜査でも今回の場所が引っかからなかった。
ヨイチはそこで二つの考えにたどり着いた。
一つ目は結剣がくオークションに出品されている場合だ。二日も動いてないことやラティモスのオークション情報を考えればこの考えが妥当だろう。
そしてもう一つは…、
「階段が終わりましたね」
アンの言葉にヨイチの意識が思考の渦から引き戻される。どうやら一番下までたどり着いたようだった。
たどり着いた場所は思っていたよりも広く奥には舞台があり両脇に赤色のカーテンが括られている。舞台の上には演説台がマイクと一緒に設置してある。
驚いたのは意外にも明るかったことだ。空間の上には丸い球体つるされて光っていた。
「スカジ」
アンがスカジに話しかける。結剣の場所を尋ねたのだろうスカジもそれだけで分かったのかアンに応答する。
『います。かなり近い。っ!二人とも避けてっ!』
スカジの声にアンとヨイチはバックステップでその攻撃をかわす。と同時にアンはスカジ、ヨイチはハンドガンを取り出して攻撃があった場所へ構えた。
そこでヨイチはもう一つの考えを思い出した。目の前でユラユラと現れる人影を見てその予想が確信へと変わる。
ヨイチのもう一つの予想はラティモス側にも用心棒がいることだった。
「お仕事…、」
暗闇の中、小さく呟く声の主。
二人の目の前に紫髪の少女が剣を構えて立っていた。
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