第9話

「本当にここなのかい?」


 宿を後にした三人はアンに先導されるがままに目的地にたどり着いた。

 しかしそこは…、

 「ここは午前中には無いと言われたところなんだけど」

 「ふむ、ラティモスの裏市会場にも該当してないしな」


 アンの示した場所は最初に一緒にご飯を食べた食事処だった。夕食の忙しい時間帯を終えた食事処は店内こそ明るいものの客はおらず閑散としているのが窓から見てもうかがえた。


 「はい、間違いないです」

 そう言ったアンは店の扉を開けて、ヨイチとララナットはそれに続くように店内に入った。


 店長は厨房で作業をしていたようだが三人に気づくと手をタオルで拭きながらカウンターの厨房で手を上げる。


 「いらっしゃい。おぉ、昨日のお客さんかい。すまんが今日は食材がなくてな。正直、明日来てほしいんだが…」


 店主は苦笑交じりにそう言うが、その客の中に昨日はいなかった顔、ララナットを見て少しこわばった表情をした店主の顔をヨイチは見逃さなかった。それはアンも同様だったのか先に口を開く。


 「単刀直入に聞きます?ヨイチさんのポーチを裏市に出しましたか?」

 その言い方にヨイチとララナットは啞然とする。ヨイチに至っては出会ってからほぼ泣き顔しか見ていなかったので心底驚いていた。


「なんのことだ?裏市なんて知らないし、朝、そこの兄ちゃんには無かったと言っただろう。」


 平然と答える店主。しかし、アンはその視線を外さない。


 「噓、ですよね」


 「なんで噓なんかつくんだよ、それに証拠が何もないじゃないか」

 さらに詰め寄るアンだが店主にはあせりが見られない。

 だがアンは衝撃の事実を口にした。


 「私はヨイチさんがここで物を忘れて行くのを見て見ぬふりをしました」

 「はぁっ⁈」


 唖然とするヨイチ。確かに支払いをしている時にアンは机で飲み物の残りを飲んでいたのだが。 


 開いた口が塞がらないヨイチと状況を黙って見守るララナットを差し置いてアンは更に言葉を続ける。


 「それにこの地下に新しい裏市があるんじゃないですか?」

 「なっ、」

 「そんなはずはない。ここ一帯は警護が厳しい。そんなところに新しい裏市の会場など」


 ここではじめてララナットが言葉を発する。それは困惑が入り混じった声音だった。


 しかし、店主の様子が少しづつ崩れ始める。

 「警護隊の上層と癒着があるとしたら?」

そこで店主の顔が明らかにゆがんだ。うつむきカウンターの厨房に広げられた食材を眺めている。


この行動で三人は確信する。この店主は何かを知っている。

ララナットが店主の側へ近寄る。

「悪いが顔に出すぎだな。警護施設で話を、っ!」

店主は俯いたフリをして銃を用意していたのだろう。それがいま三人に向けられていた。


「すまねぇ、息子を養うために金がいるんだ!」

銃を構えてうろたえる店主。しかし、ララナットは顔色一つ変えずに流れるような動きで陽結剣アポロを鞘から少し抜いた。

その瞬間、アンの目の前では信じられない光景が広がる。店主が銃を手放し胸を押さえて倒れたのだ。


「ぐぉ、あ、あっっっつ」

カチャッ、という音と共にララナットがアポロを戻すと店主の様子が収まる。

「一体、何が…」

動けなくなった店主を抱え起こすララナット。


「私はこの店主を警護施設に連れていく。できれば帰って来るまで動かないでほしいが」

「いえ、私に提案があります」


その場でアンが作戦を提示する。ヨイチとララナットは頷き行動を始めた。

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