第4話

「アンはこれからどうするつもりなんだい?」

落ち着きを取り戻し始めたアンにヨイチは尋ねた。先ほどの食事処からはいたたまれなくなってあの後早々退室し、今は商店が並ぶ街道を二人で並んで歩いている。


「そうですね。何かしようとしたところで無一文ですし」

『お金がなければ何もできませんよね。本当、お金がなければ』

「スカジ、今はちょっと黙ろうか」


ヨイチはスカジにくぎを刺す。やっとアンが元気を取り戻してきたのだ。また泣かれでもしたらヨイチの気分も悪くなる。


「先日来たばかりなので観光もしたいのですが、このままではどうにも…」

「旅の資金はどうやって作っていたの」

ヨイチは単純な疑問を口にする。

ここまで来るのにもかなりの費用がいるはずだ。それに旅をするのに最低限の資金ではやっていけない。


「氷で結晶を作って売っていましたね。ハンドメイドというやつです」

そう言ってアンはカバンの中からピアスを取り出してヨイチに見せる。そのピアスにはアンの言っていた通り綺麗な花模様の結晶がついている。

「これはすごいね」

その緻密で繊細な技に感嘆の声をもらす。本当によくできているのだ。


「そのまま街で販売することもあれば、行商人に頼んで委託してもらったり。許可がでなければ街での販売ができないところもあるので」

「途中で溶けたりとかはしないの?」

『心配無用です』

そこで口をはさんだのはスカジだ。


『そのくらいの大きさならば結晶化できるので溶けることはないですね。私が砕ければ別ですが』

その説明を聞いたヨイチは驚いた。これぐらい綺麗なものならば相当に高く売れるはずだと。それが永久的に作り出せるとあれば借金の返済もあんがい楽なのではないかと。


『ですが量産できません。見ての通り一級品でなおかつ結晶化するので時間がかかるのです』

なるほどここでもデメリットがあるのか。結剣の能力がすごいとはいえ流石に完全無欠ではないということだ。


「とりあえず売ってしまおうよ。この街はたしか許可制だったかな。だったら警護施設で許可を取れば…」

「それはダメです!」

強い口調でアンはヨイチの言葉を遮る。その様子からしてもあまり踏み込んでいい内容ではなさそうだった。


「すいません、今はストックがなくて…、これも見本なので」

「ご、ごめんね。でも何とかしないとな」

「ヨイチさんに返すお金が確保できればいいのですが」

「そこは別に気にしなくてもいいんだけどな」


旅人にとって資金の問題はとても重要だ。もちろん無一文では宿屋の代金も払えないし、食事代も最低限取ろうとしても日にちを重ねればネックになってくる。ヨイチとアンが頭を悩ませて考えていたところで。


『一つ提案が』

とスカジの声が思考を遮った。アンとヨイチの視線がアンの腰にあるのスカジのもとへと向けられる。


「変なこと言わないでよ」

『とんでもございません。二人にとって利益を生む名案だと思いますよ』

「それでその名案はいったい何なのスカジ」


アンも興味津々というか打開策が見つかるかもしれないと期待したまなざしを向けている。

この案次第で明日ちゃんとした生活ができるから無理にでもそれにすがりたいのだろう。


ちょうど二人とも詰まっていたところだ。ヨイチ的にもありがたかった。

では、と一呼吸ついてスカジが言葉を続ける。


『簡潔に申しますと、アン様とヨイチがお二人で旅をする、です』

「な、何を言っているのスカジ!」


最初に声を上げたのはアンだった。動揺してあわあわしている。逆にヨイチはその提案をしたスカジの考えを知りたく続きを促す。


「理由を聞かせてもらえるかい?」

『ヨイチ様にとっては悪くない話ですよ。きれいな美少女と旅ができて、周りの旅人に見せびらかしてマウントも取れますし、夜に何があっても私寝てるフリしてますから!ほら、ウハウハで…』


「アン、このバカ剣をあそこの川に投げても問題ないかな?」

「ヨ、ヨイチさん!ちょっと待ってください!ほらスカジ、ちゃんと説明して!」

必死にヨイチの怒りを止めるアン。少しでも期待した俺がバカなのか?


『まぁ今の話は半分冗談です』

「半分?」

半分もあるなんてたまったもんじゃない。このバカ剣にはお仕置きが必要だ。


「よし、やっぱり川へ投げよう」

「ヨイチさぁぁぁん!早まらないでください!」


それから本題に入れたのはここから少しの間ごたごたした後だった。

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