第2話

「本当にすいませんでした!」

深々と少女は頭を下げる。それはもう机にめり込むくらいに。

しかもまだ若干涙目だった。


「いいよ、気にしないで」

なだめるヨイチに少女は首を横に振る。


「いえ!そういうわけには…」

「とりあえず食べようか?冷めちゃうとおいしくなくなっちゃうよ」

「で、ですが…」


少女のこの様子も無理もない。

大変恥ずかしいあの姿勢からやっと動けるようになった二人は、はじめに事態を収拾したおばあさんに謝罪するため果物屋へ訪れた。 


見る影もなく凍りづけにされたその店とおばあさんの怒りの対応から少女がまた尻餅をついていたが落胆している原因はそれだけでない。


警護施設に突き出さない代わりに店の果物、修理諸々の費用を請求されたのだ。少女は結構な額を持っていたらしく余裕で払っていたのだが、被害にあった店は果物屋だけでは当然なく、約十件もの店から被害額を請求されていた。


最初こそ払えていた少女は三件目辺りから様子がおかしくなり、四件目で涙を流し始め、5件目で無一文になって天を仰いだまま膝から崩れ落ちた。

もうそれ以上は出ないだろうってくらい涙と鼻水も垂らしながらヨイチに助けを求めたのだった。


ヨイチも相当な額を所持しているため残りの店の分を肩代わりしたが払い終えたころには懐がとても寂しくなっていた。


その後、周りにもう一度謝罪をして、黄色の瞳の光と体の水分が全部抜けきってカラカラになった少女を引きずろうとしたところ、クゥ、と少女の腹の虫が鳴ったので食事処へ引きずり込んだのだ。

そして現在に至る。


テーブルの上には焼き飯が二つ並んでいるが少女はいまだに手を付けようとしていない。

卵とエビが具材となっているこの焼き飯は濃い味付けがしてあり、とてもヨイチ好みだった。できればあったかいうちにこの少女にも食べてほしいのだが頑として首を横に振らない。


「本当にすいません…」

少女は先ほどからそればかりでうつむいている。

「大丈夫だよ。それに俺が荷物を拾わなきゃこんなことにはならなかったわけだし…。俺からのお詫びというか。ほんと!気にしてないし、気にしなくていいから!」


ヨイチは気づいていた。最初こそうつむいていたが今はその視線が焼き飯一直線なことを。

ヨイチは気づいていた。最初こそは机にこぼれていた涙が今はよだれに変わっていることを。


本当は今すぐにでも食べたいのだろう。無一文になってしまった少女は次いつまともな食事が取れるか分からない。

しかし、申し訳なさが一歩優先しているがために行動することできないのだ。

「分かった。じゃあこうしよう」


ヨイチはポケットからコインを取り出す。少女は焼き飯から慌てて視線を戻しよだれをふいた。


「このコインの表が出たら君が食べる。裏が出たら僕が食べる。運が決めることだから君の申し訳なさは入らない。それでいいかな?」

「はい…。それならば」

「じゃ、」


そう言ってコインを親指ではじく。勢い良く回転したコインは天井付近まで上がり、重力に逆らって下降。ヨイチの手の甲に片手で覆うようにキャッチされる。少女が息を吞む。ゴクリという音が聞こえる。覆われた片手から手の甲に乗っていたコインは表を向いていた。


「おもて…」


少女が呟いてヨイチの顔を見る。

「うん、表だね。食べていいよ。運が決めたことだからね」

一瞬、戸惑ったように視線をさまよわせた少女だったが。

「…。ありがとうございます。」


手前のスプーンを持った少女は律儀に手を合わせて、

「いただきます…」

その一言ともに焼き飯にがっついた。ものすごい速さで皿から焼き飯が減っていく。二つとも大盛りにして少女には多すぎたかなと思っていたがその心配はなさそうだ。ヨイチが自分の分の焼き飯を口に入れようとした瞬間、少女が目を見開いて止まった。


「なに?どうかした」

「の、どにつ、つまりま……」

少女は白目をむきかけている。てか、もうむいて、あ…。

バタンッ!


「わぁあああああー、店長!水!水!」


白目を向いて焼き飯を口いっぱいに頬張った少女は水と店長、ヨイチのフォローで生き返ったが少しの間、トイレから出てこなかった。


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