スフォリア邸
初めて訪れたレナードの家に胸がときめいた、ここでレナードは生まれ、育ち、そして勉強をしてきたのか。
とても感慨深く思う。
端なくキョロキョロと見ることは無いが、心は浮かれてしまった。
中に入れば、皆が頭を下げ、挨拶をしてくれる。
エレオノーラが来ることは事前に知っていただろうが、実際に現れた者が違う姿でも動じることもない。
よく教育が行き届いているのだと感じた、さすが公爵家だ。
エレオノーラはキュリアンに頼み、皆の前で変装の魔法を解く。
こうして使用人達の前で姿を表せば、本人だとわかり安心してもらえるだろう、感嘆のため息とホッとした声は聞こえた。
「では僕の部屋に行きましょうか。それとも庭を散策します?」
「ではあなたの部屋へ」
問いかけに迷うことなくエレオノーラは答える。
まず見たいのはレナードの部屋だ。
途中で余計な邪魔も入ったし、レナードと話す時間が減ったのは腹立たしい。
レナードが緊張しながらも案内してくれる。
さて念願のレナードの部屋だ、どのようなものだろうか。
入ってすぐの思ったのは本が多いという事だ。
レナードは特に恋愛小説がお気に入りだと前にいっていたのを覚えている。
それ以外の本も多くあるが、聞いたことのあるタイトルや全く知らないものまで、ズラリとあった。
他国の字で書かれたものまである為、ついしげしげと眺めてしまった。
「お貸ししましょうか?」
「いいえ、大丈夫よ。あなた大事な本を借りて汚したら悪いもの。まずは書庫で見てみるわ」
城内にも本を管理しているところがある。
いくつかはあるかもしれないので、まずはそちらで読みふけるか。
レナードが好みそうな恋愛シチュエーションを探らねば。
「そういえば僕王城の書庫はまだ行ったことがないのですよね」
王配教育で忙しく、全く足を向けられていなかったのを思い出した。
「落ち着いたらぜひ見てみたいです」
キラキラした目で見つめられ、エレオノーラも期待に応えたいと思う。
「そうね、ぜひとも行きましょう。あなたには城の全てを知る権利があるわ。私の夫となるのだから」
もう半年もすれば実現し。一緒に住むようにもなる。
とても楽しみである。
そんな中ふとレナードが不安げな瞳を見せた。
「さっきのラウラが言っていた事なんだけど……」
よその女の名前が出て、エレオノーラは目に見えて眉間に皺を寄せた。
だが口を挟むことなく、レナードの次の句を待つ。
「その、エレオノーラ様は愛妾とかを、持つのでしょうか?」
「持ちません」
きっぱりはっきりエレオノーラは否定する。
「寧ろ要りません。レナード以外の男性は侍らせる気はありませんよ。そもそも母も父もそのような者を持たないし、歴代のアドガルムの王族自体、側室も愛妾も持ちえませんでしたから。こっそりも、密かにもありません」
とことん否定され、レナードは安心したような、驚きの表情をする。
「他国ではそのような人がいると聞くけど」
「余所は余所、うちはうちですわ」
安心させるようにレナードの腕に触れる。
「側にいて欲しいのはあなただけです、本当よ」
「ありがとうございます」
照れたように頬を染めている。
「心配なさらないで。誰も間になんて入れませんから。今度他国の方の前でも改めて紹介をします、これで国内外問わずあなたの事を広く知ってもらい、入り込む余地などないと強く教え込むのですから」
エレオノーラは自分にも言い聞かせるようにそう言った。
ラウラの件でもわかった通り、自国内でもまだまだ二人の仲を認めないものも多い。
レナードの幼馴染に会ったことで、また心に余計なざわめきが生まれてしまっている。
何故こんなにも好き合っているのに周囲は認めないのかと苛立ちがこみ上げる。
「エレオノーラ様?」
エレオノーラが口を閉ざしてしまったので、また自分は失言をしてしまったと思った。
「すみません、また僕が不快な事を言ってしまって!」
レナードは慌てて撤回をしようと懸命に話し出す。
「僕はエレオノーラ様の王配になるんだから、もっと自信を持ちます。そうじゃないといつまでもエレオノーラ様を不安にさせてしまいますよね」
先程のラウラの時も、しっかり言えば良かったのだ。
「もうこういう話題は出しません。もっともっとエレオノーラ様の隣に立っても恥ずかしくないような男になると誓います。絶対に支えていきます」
「レナード……」
怒りで言葉が出なくなっていたのだが、程よく勘違いをしてくれたようだ。
「えぇ、支えてください。わたくしは弱いのです、あなたがいなければすぐにでも倒れてしまう」
ゆっくりと抱き締める。
「子どもが出来たら公務をお任せすることもあるでしょう、あなたならきっと立派に勤め上げると信じています」
「頑張ります」
力強いレナードの言葉にエレオノーラは嬉しそうに微笑む。
「あなたの子なら何人でも欲しいわ。楽しみです」
レナードの思考が逡巡し、はっと気づいて顔を赤らめた。
それがどんな意味か……。
「それはそうですが、あの、まだやっぱり早いかも……」
「早くなどないわ、どちらかというと遅いくらいよ」
エレオノーラの手はレナードの頬に触れる。
少しひんやりする指先と熱い視線、いい加減なれてもよさそうなのに、思考が働かなくなる。
「そこまでで、エレオノーラ様」
鬼の形相の二コラが止めに入る。
「もう少しいいでしょ。少しは多めに見て頂戴」
つまらなさそうに言うが、ニコルは怒りの形相だ。
「いけません」
恐ろしい気迫のニコルにレナードは震えあがる。
自分が迫ったわけではないのだが、怒られてる感が半端ないのだ。
「ニコルったら、本当にお堅いわ」
ため息と愚痴を吐いた後、レナードの頬に口づけをする。
「今日の記念よ、本当はもっと良いものが欲しかったのだけど」
二人きりの時に、と耳元で囁かれてしまって、レナードは理性と本能の間で頭を抱えるようになってしまった。
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