ティアシーアとミカエル
「姉上、機嫌が良さそうですね」
レナードとのデート以来、エレオノーラはとても機嫌が良かった。
レナードに後ろから抱きしめられ耳元で囁かれたことを思いだせば、自然と笑みになる。
ちなみに男達は、レナードが令嬢たちにワインを掛けるきっかけを作った令息達の雇ったものだ。
ニコルの尋問によりあっさりと雇い主を告げるとは、令息達も見る目がない。
「えぇとても。ティアシーアももうすぐミカエル様とデートでしょ?ゆっくりとしてくるといいわ」
ティアシーアはドキリとする。
リオーネが組んだデートの日程までもうすぐなのだ。
こちらも観劇を見に行く予定だ。
刺激が強いとリオーネに伝えたら、「ちょうどいいのでは? ティアシーア姉様は奥手過ぎますもの。そういうのを見ればきっと意識してくれますわ」と笑っていた。
ティアシーアはそんな事は知らない。
「デートのドレスは決まった?」
「オズの見立てで決めてもらいました」
オズはエレオノーラの専属騎士である。
お洒落が大好きで常に流行の先端を追うような女性だ。
「それはそれは。当日が楽しみね」
「……姉上。率直に聞きますが、私とミカエル様は本当に釣り合うとお思いでしょうか?」
ティアシーアの問いに、エレオノーラは真面目な顔をする。
「もちろんです、あなたはこんなに綺麗で可愛い。ミカエル様もとても優しい方ですし、何といってもレナードの弟。絶対にあなたを裏切るようなことはありませんから、自信を持って」
エレオノーラは力説し。ティアシーアを見る。
とても自信なさそうな顔は憂いに満ちていた。
「このように大女で、王女なのに剣を振るう私はおかしくないのでしょうか? ミカエル様の隣にいてもいいのでしょうか?」
エレオノーラの顔から表情が消える。
「あなたにそんなことをいう者はわたくしが消します。だからあなたは自分の気持ちに素直になっていいのですよ」
「ですが、不安なのです。ミカエル様が私のせいで悪く言われたり、もしかしたら嫌われてしまうかもしれない」
そうなっては耐えられない。
「それならいっそ身を引いた方がいいのかと……」
「ミカエル様があなたを嫌いなどと言いましたか?」
ティアシーアは口を噤む。
「そうでなければそのように言ってはいけないわ。ミカエル様も傷ついてしまうもの」
自分よりも体格のいい妹を抱きしめる。
「それに気づいているかしら。ミカエル様はずっとあなたの事しか見ていないわ」
「そうなのですか?」
思いもがけない言葉に、押さえようと思っても嬉しくなってしまう。
「あなたも恥ずかしがるだけでなく、ミカエル様をしっかりと見てみなさい。彼の行動、彼の言葉はティアにしか向いていないわ。よく思い返してみるといいわよ」
エレオノーラの言葉にティアシーアは考え込む。
彼が自分を向いていた。
姉の婚約についての話し合いでも、ミカエルは自分と話したいと言ってくれ、パーティでは自分を探して歩き回っていた。
そして今度のデート。
今更ながらそういうことなのかと思った。
「ただ姻戚関係になるからの優しさではなかったのですか?」
「そのようなだけであなたにあのような話をするわけがないでしょ。プレゼントも贈られてきたわよね?」
ティアシーアは顔を赤くし。コクコクと頷く。
「どうしましょう、私ミカエル様に何も返せてない……」
「気づけたのならいいことではないの、今から色々返せばいいのよ」
「はい!」
さっそく立ち上がり、ティアシーアは準備に走る。
「姉上、失礼いたします! さっそくフゥに相談し、ミカエル様に似合うものを探しに行きますわ」
勢いよく部屋を出るティアシーアに嬉しくなる。
朗報を聞くのは早そうだ。
「こちらを私に?」
当然ミカエルはティアシーアからのプレゼントに喜んだ。
「よく身につけていらっしゃるので、スカーフとさせて頂きました。いかがでしょうか?」
「凄く嬉しい。大事にします、本当にありがとうございます」
照れくさそうに、でも嬉しそうな笑顔にティアシーアも嬉しくなった。
「私も嬉しいです、ミカエル様に喜んでいただけて」
ティアシーアも笑った。
「あなたは本当に太陽のように素敵だ……」
ティアシーアの笑顔に眩しそうに眼を細める。
「ティアシーア姉様、お二人でゆっくりと馬車に乗ってください。私は今日はフゥとこちらの馬車に乗りますので」
言うが早いかリオーネはさっさとフゥの手を引いて違う馬車に乗ってしまった。
突然の二人きりに困惑してしまう。
「さぁ、私達も乗りましょう」
ミカエルが手を差し出してくれた。
「ありがとうございます」
その温もりにティアシーアの心もポカポカになった。
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