エレオノーラの力
「そういえば男達は?」
エレオノーラとレナードを誘拐しようと思った男たちは、どうなっただろうか。
「もう捕まえていますよ」
周囲を見れば血だらけの男たちが縄で縛られている。
キュリアンと街の警備隊が何やら話し合っていた。
「観劇を見る前から不穏な様子を感じていたので、エレオノーラ様と打ち合わせしてたのです。レナード様には伝えてませんでしたが、申し訳ございません」
「いつそんな事話していたの?」
全く気付かなかった。
「馬車の中で洋服の手直しを頼んだ時ですわ。レナード様には観劇に集中してもらおうと思ってましたの。ごめんなさい」
あの短い時間でそんな話をしてたなんて、この二人は本当に息が合ってるんだと思った。
少々羨ましくも思う。
「この男たちはどうなるのですか?」
「まずは依頼主がいるのか、無差別に狙ったのかの取り調べからです。王族を狙ったため、もちろん死刑ですが」
ニコルの言葉に、レナードはふらっとする。
まぁ人の命を簡単に奪おうとする者に同情する気はないが、聞いてて気分がいいわけではない。
「折角のデートを台無しにしてしまい、すみません」
「エレオノーラ様が謝ることではないですよ。こんなことを行なう者が悪いのです」
どこにもエレオノーラが謝る必要はないと思うのだが。
「いいえ、本当はもっと早くに捕まえることも出来たのに。つい観劇を見るレナードに夢中になってしまって、うっかりニコルへの合図を忘れてしまったの。思い出したのは馬車の中で」
警備団との、話しが終わったのかキュリアンもこちらに混ざってくる。
「エレオノーラ様から通信が来た時に、すぐさまニコルが警備団の指揮をして向かったので聞いたのは俺だけですね。レナード様の必死の告白」
キュリアンが通信石を掲げつつ言う言葉にレナードは真っ赤になった。
「今すぐ忘れてくれ、キュリアン!」
「ダメでーす。こんな尊い告白、記録用の魔石に移してとっておかなくては」
「あら勿論わたくしのもあるわよね?」
「ありますとも。早速帰ったら複製しますので」
「もう止めてくれ!」
羞恥でレナードが頭を抱えて蹲ってしまう。
その時馬車の残骸がわずかに動いた。
きらりと光るものにキュリアンより早くエレオノーラが動く。
レナードに向かって放たれたそれを防護壁で落とした。
飛んできたのはナイフだ。
「くそ、一人くらいはと思ったのに……」
馬車の残骸に隠れ潜み、怪我をしながらもレナードを狙ったようだ。
エレオノーラは冷たい表情で手を向ける。
「生憎と彼に何かしたらわたくしが許しません」
「あんな弱い男のどこがいいっていうんだ」
「弱い?」
エレオノーラが手を翳せば男を巻き込み、見事な氷山がそこには出来上がっていた。
見上げる程高く聳え立つ氷の塊に皆が唖然としていた。
「わたくしの夫となる人を侮辱するのは許しません。それに彼は弱くなどはないわ。お前たちの卑劣な脅しにも負けず、わたくしを守り切った。そんな彼が弱いなど、戯言も大概になさい」
エレオノーラが怒りの言葉を吐く度に氷は高く、ぶ厚くなっていく。
「腕力?権力?それとも魔力?レナードの強さはそんな事では測れません。自分の言葉に後悔なさい」
「ちょっとエレオノーラ様!こんなに凍らせてしまって、どうやって溶かすんですかこれ?道の邪魔ですよ」
道端に出来た大きな氷像にキュリアンが焦った。
これでは人も通れない。
「レナードを貶したのですから、これでも温いわ。それともこのまま中の男ごと砕いてもいいのかしら?」
エレオノーラが指を曲げると、氷塊にひびが入る。
「レナード様、エレオノーラ様を止めてください。このままではあの男を殺してしまいます」
ニコルがレナードに頼む。
エレオノーラが人を殺すことは初めてではないのでいいのだが、警備団の前というのはまずい。
「止めるって、どうやって?」
「後ろから抱きしめて、『僕の為にそんなことをしてはダメだよ』とか言ってみてください。多分止まります」
「わかった」
ニコルもいってて恥ずかしいセリフをあっさりとレナードは了承し、躊躇いもなくエレオノーラを抱きしめる。
こういう時のレナードは何故か積極的だ。
「エレオノーラ様、もう止めてください」
突然の抱擁にエレオノーラの背筋が伸びる。
「あ、え、レナード?」
急なスキンシップにエレオノーラはたじたじとしている。
「僕の為にそんな事はしなくていいのですよ。ほら、あの男を解放して」
エレオノーラが翳していた手にレナードは手を添えた。
エレオノーラはすぐさま魔力を解消すると、氷塊が掻き消える。
男は真っ白な顔で意識も朦朧としていた。
「すぐ体を温めろ!証言を聞くまでは生かしておけ!」
キュリアンが応急処置で回復魔法をかける。
どうにか命は助かりそうだ。
「王家が後でこいつらの身柄を引き受けにくるが、それまでは任せた。けして殺すなよ」
キュリアンの指示により、男達は一人残らず連れていかれる。
ひと段落着いたので王家の馬車をこちらに回すように連絡した。
「いいですか、エレオノーラ様。このような事は二度としないでください。あなたが人を傷つけるところなんて、僕は見たくないです」
「わかったわ…」
後ろから抱きしめられ、手を握られている。
エレオノーラは目を伏せ、そのレナードの温もりに浸っていた。
「聞いてますか?」
「勿論、忘れるわけはありません。あなたの前で氷魔法を使わなければいいのね?」
「違います、人を傷つけないでくださいという事です。全ての場面ではありませんが、エレオノーラ様のそういうところが見たくないのです」
「えぇ。もうレナードの前では凍らせません。見えないところでだけにします」
「違います」
二人のそんなやり取りを見てニコルはやりきれない。
「私が一番側にいたのに…やはり好きな人には敵わないものですね」
「ニコルへの愛とレナード様への愛って違うから仕方ないよ」
ニコルとキュリアンはため息をつきつつも二人を見ていた。
エレオノーラは普段は聡明なのにレナードの事となると形振り構わない。
すぐに顔を赤くするレナードは、いざとなればこうして危険を顧みずエレオノーラを庇ってくれる。
大変なデートではあったが、また絆が深まった二人だった。
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