幸せのための努力

エレオノーラは幸せだ。


レナードという恋しい人が出来てから、心は浮かれ、些細な事など気にならなくなった。



王配になるための教育を受けるために、レナードは毎日城に来ている。


忙しくて話が出来なくても、こっそりと顔が見られれば充分だった。


そのこっそり見つめる様が、レナードを睨みつけていると噂されたが、エレオノーラ本人は知らなかった。




「変わりましたね、エレオノーラ様」

「そうね、自分でも驚くぐらい」


ニコルの入れてくれたお茶を飲みながら、エレオノーラが笑う。


「今まで自分はこの国に尽くすのみで、楽しみなんてないと思ってたけど、こうしてレナードに会ってからはとても楽しいの。どんな事でも彼が一緒なら平気よ」

恋する主君は前より一層輝いている。


しかし、ニコルはその分心配なこともある。


「レナード様は素敵な方なので、あなた様が寵愛しているのはわかります。ですがいまだ納得していないものも多く、エレオノーラ様とレナード様を離れさせようと画策するものが後を絶ちません」


エレオノーラはため息を吐いた。


「そんなに王配になりたいのかしら?」

「それもあるでしょうが、プライドの問題ではないでしょうか?」


ニコルは推測ですが、と前置きする。


「今まで下に見ていたレナード様が王女の婚約者となり、目立つようになりました。面白く思わないものが存外多数いるようで、手は回していますが…皆を納得させる公の理由が欲しいですね」

「納得させる理由ね…」


エレオノーラはレナードを評価しているが、世間はそこまでではない。

公爵令息であるのだから、本来ならそれだけで十分のはずなのだが。


「今度考えとくわ。彼が映える舞台を用意すればいいのね?」



当てはある。


だが、その舞台を用意するには時間と父の協力がいる。


もう少しかかってしまうが、その間にレナードの方でも準備を整えさせるといいだろう。

大きな舞台になる、様々な準備が必要だ。







幾度目かのパーティ参加。

エレオノーラは変わらずレナードを可愛がり、ずっと一緒にいた。

レナード自身もエレオノーラが隣にいることに慣れてきて、少し余裕を見せるようになってきたが、いまだに正面から見つめられると顔を真っ赤にしてしまう。


「少し化粧を直してきます」

エレオノーラの言葉にレナードは少し肩の力を抜いた。


「では僕は少し外で空気を吸ってきますね。キュリアン一緒に外へ行こう」

「はい、喜んで」

護衛術師のキュリアンはにこにこしながらレナードについていく。


「だいぶ懐いていますね」

「いいことなのだろうけど、何かあれば止めてね」

うふふとエレオノーラは優雅に微笑む。


目は笑っていない。




中庭に出たレナードとキュリアンはベンチ椅子に座った。

「いやあ、空気がうまい!」

キュリアンは伸びをし。レナードを見る。

「レナード様、だいぶエレオノーラ様に慣れたんじゃないですか?手を組んでも固まることは少なくなりましたよね」

「それでも恥ずかしいものだよ。あんなに美人なんだもの」


レナードは頭をかく。

「でも彼女が僕を大事にしてくれているのは凄く感じている。だから、何とか返していきたいなって思って」


最初は萎縮ばかりだったが、今では少し余裕が出てきた為、自分がエレオノーラに出来ることは何だろうと考えることが増えてきた。


「エレオノーラ様に返すこと、ですか。そのままのレナード様でいればいいんじゃないでしょうか?」

エレオノーラが望むものは実は多くないとキュリアンは言う。


「彼女は王女で大概のものは手に入ります。そんなエレオノーラ様がレナード様を手に入れたいと言ったのだから、変な風に変わらなければ、そのままでいいのですよ。後は言われた勉強を頑張るとか」

「勉強か…そうだね、エレオノーラ様にからはもっと外国語の勉強と、威厳を持つようにと言われたし」


「威厳はともかく、外国語?レナード様はすでに三か国語は扱えますよね?」

「王配になるのなら、もっと欲しいって言われたよ。頑張らないと」


レナードに対しても意外とスパルタなのだなと、キュリアンは冷や汗を流す。


やはり、あの王女は手厳しい。




「レナード様?」

不意に声を掛けられ、二人は振り向いた。




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