第2話殺しのダイヤル②疑惑
「ただいま、戻りました」
「今のところ、犯人の動きはありません」
堀は隅っこで1人小説を呼んでいる男が気になった。
「あの人も、警察の方ですか?」
「黒井川君、こっちきて」
男は中年腹した、冴えない風貌の刑事だった。
「初めまして、警部の黒井川と申します。実は、堀健一朗先生の大ファンなんです」
「そりゃどうも」
「新刊が出たら必ず買うようにしているんです。握手して下さい」
黒井川は右手を差し出した。堀はしょうがなく握手した。
「あなたは、ずっと私の小説読んでますが、いいんですか?」
黒井川は頭を掻いて、
「部署が違うんです。宮下警部らは誘拐事件専門、私は……殺人課です」
「あ、あぁ」
「私の出番がないことを願っています」
堀は腕時計を見た。22時ジャスト。
プルルルルプルルルル
「宮下警部、また公衆電話からです」
「も、もしもし。金を持って八事日赤の直ぐ近くのバニーズへこい。時間を守ってくれ。22:45に入店しろ!ガチャン」
「堀先生、八事日赤のバニーズ分かりますか?」
「はい。じつは、八事日赤の消化器内科に通ってまして」
「あっ、このスマホをお持ち下さい。番号はメモしてあります」
「川崎君、先生に身代金を」
「はっ!」
堀はバニーズに向けて出発した。誘拐班も準備した。
「川崎君、ちょっと」
黒井川は部下の川崎を呼んだ。
「君、この事件どう思う?」
「難事件だと……」
「バカ。あれだけ、犯人は警察と 接触するなと言って、昨日のFAXの奥さんの手形。警察じゃなきゃ、調べが付かないでしょ?」
「と、いいますと?」
「犯人は、とっくに堀先生が警察と接触してるの知ってるんだよ。今日の昼間堀先生どこにいたか調べておいて。あと、秘書の小林千紗との関係も洗ってみてよ!」
「はっ」
黒井川は壁の電話で、杏仁豆腐とかあんみつを注文した。
「柴垣、逆探できたか?」
「はい、今度は港区の公衆電話からです」
「次は必ず、八事日赤付近の公衆電話を使う。辺りを警戒するんだ」
22:40
堀はバニーズの駐車場についた。しかし、車から出て来ない。
「本部よりA地点へ」
「こちら、A地点」
「何故先生は車から出て来ない?」
「誰かに電話してます」
「おいっ。約束の時間がせまってるぞ!もうひとつの、警察のスマホに電話を掛けろ!」
刑事はスマホに電話を掛けた。
堀は電話に気付き、話をやめた。
「もしもし、約束の時間を1分過ぎています」
堀は、ダッシュでバニーズに入店した。
ホテルの電話が鳴る。
「も、もしもし。2分遅れだ。時間を守らない人間はクズだ!次の指示を待て。ガチャン」
堀は警察から渡されたスマホの呼び出し音に反応した。
「もしもし。先生、勝手な行動は謹んで下さい。2分遅れですよ!」
「申し訳ない。母からの電話で安心させるために……」
「お気持ちはわかりますが、奥さまの命の為ですよ」
「はい」
「黒井川君、何か今回の誘拐事件は尋常ではない気がするのだが」
黒井川は、あんみつを食べながら、
「現段階では何も言えません」
「柴垣、今回はどこの公衆電話だ?」
「中村区です」
「なんだって?八事日赤から遥か遠いじゃないか」
プルルルルプルルルル
「もしもし。23:30に八事日赤交差点向かいのコマダコーヒー店へ行け!遅刻は許さない」
「も、もしもし。ガチャン」
「柴垣今回はどこだ?」
「瑞穂区の公衆電話です」
堀のスマホが鳴る。
「もしもし、犯人から電話がありました。次は23:30に交差点向かいのコマダコーヒー店です」
「あ、ここから見えます」
「次は遅刻しないで下さいよ!」
「はい、分かりました。20分あるんで大丈夫だと思います」
堀健一朗は新人賞を受賞前の心境でいた。
今回も受賞して見せる。本物の刑事達も自分の小説内の刑事と一緒で間抜けであった。
堀は店を出ると道路を乱横断しようとした。パトカーが通り、堀は過ぎ去るのを待つと警察官が降りてきて、飲酒運転の取り締まりを始めた。
堀健一朗は乱横断は諦め300m離れた横断歩道に向かって走り始めた。
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