第2話 そのままの生活
俺はフラれた。あの後、一人で家に帰っていた。二人が再開できたのかよくわからない。家に帰ってからは全く連絡も取っていないし、そもそも速攻で寝たから電話がかかってきても気づくわけがない。
もう朝だ。今日から彼氏ができたことだし、由利花を起こしに行かなくても迷子にならないよう見る必要もないな。ゆっくりできそうだ。辛さも悲しさもあの場に置いてきたし、切り替えて普段通りに話せるようにしてやるか。
早起きの必要がない朝は何年ぶりだろう。そう考えていると眠気がだんだんと表れてきた。……
「・・きて。ねえ。・・ちゃん。遅刻するよ」
めちゃくちゃ揺さぶられている感覚がある。まさか、俺を起こしてくれる妹が!!いや妹はいないし。母さんか。いい年して何を。そういえば二度寝したのか。
「おきろー!!」
すごい元気な大声とともに布団がおもいっきりはがされた。
「おはよ!!」
光でうまく顔が見えないが、どこかの少女が起こしに来てくれたのだろうか。幻覚か。幻覚だな。こうやって起こしてくるようなやつはいないし、幻覚だ。きっと夢を見ているのだろう。
「ちゃんと起きるから安心しろ」
そう言い、目をつぶった。現実世界で起きるためにこちらの夢の世界では寝ればいいからだ。
「え、何言ってるの?」
聞いたことがある声だな。
「えーとどちら様?」
「記憶を失ったの?」
もう一度目をゆっくり開けてみた。今度はまぶしい光が収まるまでちゃんと開いておこう。
「あ、由利花か。おはよ」
「うん、おはよ」
一瞬よりもちょっと長く思考が停止した。
「由利花?」
「ほんとに寝ぼけてるの?」
俺のほうに顔を近づけてくる。
由利花……
「はぁー!!」
すべての思考の整理が完了した。その反応だ。驚かないわけにはいかない。
「びっくりしたー。急に大きな声出さないでよ」
「なんでいんだよ」
すごく抜けた声になった。こいつは要と付き合っているのか。いや、昨日会えなかったってことか。それなら今日返事をするし、現在はまだ付き合ってないのか。
「すごいでしょ朝起きれたんだよ!自慢しようとしたら寝てるし。ってかなんで昨日電話出てくれなかったの!!」
「ちょっと待て」
まさかいつもならだいたい行動や言動を読めるから対処できるが、情報量が多すぎるだろ。まず一点目、一人で起きれた。何もない状態でなのなら、ものすごい快挙である。二点目、昨日電話にでなかった。そもそも携帯を触ってないからしょうがない。三点目、なぜ俺に電話をかけてきた。要に会えなかったってことだろうか。よし、一点目はどうでもいいことだから、いったん忘れよう。
「電話?」
目の前にあるスマホに手を伸ばした。すると数十件いや、数百件ともいえる着信履歴があった。ところどころで要のものもある。
「昨日せっかく背中を押してもらったからさ、走って追いついて、息を切らすしながら返事して付き合うことになってさ。それで戻ったらりょうちゃんいなかったし、ひどくない?」
あー、返事はしたのか。
「そこと俺がどうやったら結びつくんだよ」
「帰れないじゃん!」
あ、忘れてた。こいつ家までの道を知ってるのに方向音痴発動して一本でも道を間違えたら帰れないんだった。なお、この方向音痴は9割くらいの割合で発動する。しかし休日の買い物は一人でも行けるというものすごく不思議なものだ。
「彼氏に頼めよ」
「ほんとにわかってる?道が真逆なんだよ。それにうちまで来ると電車まで遠いし失礼でしょ。というか家を教えることもできないし」
俺は一応フラれたんだよな。何なの、この付き合ってる感満載な朝。ちなみに、こいつの家を教えることができないのは、道の記憶はできても正確な位置を把握できていないからであり、隠すためとかではない。
「悪かった」
考えることをやめた。今考えても絶対にわからないから。
「それでどうやって帰ったん?」
「えーとスマホでマップを出してさらに行ったことあるところにマークをつけるでしょ、そこから家までのルートを思い出して何個か同じ場所にたどり着いたからその場所に向かって歩いた。そして三回目で家に着いた」
なんだその高騰テクニック。方向音痴の解消方法か。というか行ったことある場所から戻るためにマップを使ったのにそこでも迷っているのかよ。
「それはお疲れでした」
「ってじゃなくて遅刻!!」
「そんなまだ」
時計を見てみた。時刻は間に合うは間に合うが、結構ぎりぎりの時間になっている。
「あ、やば」
朝食を抜いて速攻で支度し、二人で走っていった。ちなみに由利花は走ると道を間違える率が高いため、目を離したらいなくなる。そのため走るよりも由利花をしっかり見てる方が遅刻しないために重要なことになる。
どうなってしまうのだろう、俺の今後は。
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