本編
第1話 恋に敗北
「俺はお前のことがずっと好きだった」
俺、三島僚友の初めての告白が始まった。相手は幼馴染の上野由利花。好きだという気持ちになったのは中学に入ってすぐ。家も近くで帰りはいつも一緒で告白をするタイミングはあった。だが、勇気を出せずにいた。
そんな俺が告白をしようと思ったのは高校二年になってから、とあるきっかけからだった。
俺たちは北星高校という学校に通っている。同じ学校になったのは俺が由利花と同じ学校を選んだからだ。俺の片思いの気持ちもあったけれど、シンプルに由利花がいろいろと抜けていることが心配になったからだ。
俺らは基本的に二人で過ごすことが多い。由利花はマイペースで好きなもの以外には興味を示さない性格。そのせいもあり、女子の中にはあまり混じれなかった。だからいつも俺の近くにいた。それは昔からそうだったし、あまり気にしていない。
もちろん趣味の合う友達もいる。ただ、それは自分からではなく、俺が仲良くなってそれを経由して友達になった感じ。こうなることは理解できていたし、これだけでも一緒の学校を選んだ意味があった。
そんな近い存在であっても、幼馴染から恋人になる壁は非常に大きいものだ。俺にとって、名門大学にノーベンで受験するよりも遥かに難しく思えている。
高校入学から数か月が経ったある日、急に声をかけてきた人がいた。
「あのさ、お前らって付き合ってるの?」
初対面でいきなりそんなことを聞いてきたのは神代要。女子から超人気者で超絶のイケメン。ナルシスト系というよりは物静かで何もしなくてもかっこよさがある。女子からも自分で話しかけないくせに周りには自然と集まっている。うらやましい限りだ。
「付き合ってないけど」
テレも何もなく、由利花は即答した。
「お前は?」
即答されたのだから理解してほしいが、俺にも同じ質問をされた。片思いの俺にとって、これだけでも結構心に響く。
「幼馴染なだけだ。それがなんだよ」
「なぞだ」
妙な奴と思った。俺たちの関係を聞いて「なぞ」というなんて。
「何がだ」
「そこまで一緒にいて好きなのになんで恋人でないのか」
由利花とは違った意味でいろいろと抜けたところがある。それも人間関係に関しては興味はないが何か知ろうとしているのはわかる。詳しいことはさすがに聞けていない。
「どうなんだろう」
「俺に聞くか」
この時、恋人でいいのではないかと言っていれば、今のような困難にはならなかっただろう。だが、あっさりと恋人でない宣言をされておきながら言うことなんてできなかった。
「特にお前は不思議だ」
そう言いながら、由利花に近づく。
「え、私?」
「お前は俺を見てもなんとも思わないのか?」
「なんとも?知らない人だなーってくらい」
こいつにとって自分のことを普通の人ととらえる女子がものすごく少ないため、由利花のように自分に対して無感情な人を見るほうが珍しい。由利花の返答は普段通りである。思ったことをすぐにぶつける。
「お前の名前は?」
「ゆりか」
「お前は?」
そのまま俺に返す
「りょうゆうだけど」
「ゆりかにりょうゆうか。わかった」
そう言ってすぐに立ち去っていった。
「不思議な人だね」
「だな」
こうして要との出会いは終わった。
そこからほぼ毎日、放課後になると要が話しかけてくるようになった。毎日違う質問をしてきて、それに答える日々が続いた。それにつれて会話も続くようにはなった。
その中で要は親が一流企業の経営者であり、大金持ちの息子らしい。自分を金持ちの息子としか見てこなかった人間ばかり見てきたせいで、他人への関心がなくなっていたという。中学や高校と女子に声をかけられたり告白されることも多々あったらしいが、その人たちの目がただイケメンだからという理由が変わっただけで、自分を見る目は金持ちの息子としてみてきた人間たちと変わらなかったという。そんな中で、俺らを見かけた。互いに生きた目をしているのにも関わらず、恋人関係ではなさそうな距離感がある。一回目の質問はその疑問を解決するためだった。
その後も会話を続けようと思ったのは観察のため。由利花が俺を見る時と要を見る時で明らかに目が違っていると気づいたからだ。俺との時は楽しそうなのに、要が質問をしたときは興味のなさそうな目をしている。それがさらに興味を沸かせるきっかけになったらしい。
正直、要はめっちゃいいやつだ。普通に話していても楽しい。だんだんと普通の友達として仲良くなっていった。由利花の気持ちも変わっていったらしい。俺はまったくわからないが。
「お前らってマジで付き合ってないんだな」
そして約半年。二年になってすぐの時だ。要が行動を起こし始めた。
「最初にそう言ったじゃん」
「由利花は恋人にするなら、俺とこいつ、どっちがいいん?」
「どっちだろうな」
この時一気に危機感を感じた。こうなると後出し幼馴染は勝ち目がない法則が成立している。何より、趣味が合うわけでもないのに二人でも仲良くしているというのがより深まっている証拠だ。
「りょう、お前はどうなんだ?」
「あんときと変わらねーよ」
「だろうな」
この一言で彼の意図が分かった。こいつは由利花を好きになっていた。だが同時に、俺が片思いだということも気づいていた。ここで言ったのははっきりさせるためで、対象となる俺が選ばれればあきらめがつく。だが要を選んだなら、要が確実に告白してくるだろう。ある意味、策士であり正々堂々としてる。俺にもチャンスを上げようとしているからだ。
「今でなくていい。今度答えを聞かせてほしい」
「どうしたの急に?」
「俺はお前が好きだからな。じゃあな」
また一言添えて、すぐに走っていった。
「恋人か。りょうちゃんはどう?」
そして今に至る。ここで告白しなければもう無理だと思った。
「俺はお前のことがずっと好きだった」
とっさに上手い言葉が浮かばず、言葉に詰まる。
「そっか」
どこか嬉しそうな顔をしている。だが同時に寂しそうな様子も見える。
「今決めろ」
「少し考えさせて」
「お前、どうせ後でしたら、そのままなかったことにするだろ。俺はそんな状況になったら聞けない」
友達としてならどっちも仲がいい。この関係を一番壊さない最善は、考えるふりをして答えを出さないこと。そうなってしまえば、俺から「答えは出た?」と聞くのは不可能だ。考えるってことはどっちにも可能性があるってわけだし。
「ありがとう」
そう言って走っていった。だんだんと俺との距離が遠くなっていき実感した。
俺には答えを言わない。それが一番の答え。いっそふられたほうがよかった。そう思うと涙をこらずにいられなかった。
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