第13話 神に指先を触れる者
ハッキングを終了させたライブラリ管理室の扉を開けて、そのまま侵入を果たしたハルヒトはぐるりと辺りを見渡した。
まず頓挫した計画の成れの果てである大きな本棚があって、その中に並べ立てられているのは間隔の寂しい綴じられたファイル群。遅ればせながら灯された橙灯は一瞬消えてからまた点いてを繰り返し、ハルヒトの目がちかちかと瞬いたところでそれは現れた。それは小型のターミナルのような円柱形で、囲むように展開したホロキーボードがあって、ハルヒトはその一角に迷わず端末型デバイスを有線接続。
目の前にあるこれこそがライブラリの本体だ。
もう時間がない。
というよりも、このまま捕まって現行犯逮捕というのが妥当な線か。
もうじき第一種警報がけたたましくターミナル内に響き渡ることだろう。
それまでには——プロトコル解析——なんとしてでもライブラリから——氷結ウイルスインストール——あるかもしれない真の歴史を——ハッキング開始——だけどもしもなかったらどうする——解凍解凍解凍——自分のやっていることは全部無駄で——プロテクトウォール突破——だけどそれが大きな事態を引き起こして——オールロッククリア、すべての資料の閲覧が可能となり、最高機密レベル十へのアクセス権限さえも手に入れた。もう引き返せない。重要そうでありかつ歴史的なものを適当に選び、端末型デバイスに片っ端からそれらをダウンロードしていく。
さっさとこの場から去ろう。
痕跡という痕跡をすべて消し去って、実験から逃れるモルモットのように駆け、スライドしていく端末型デバイスのモニターを眺めてハルヒトはライブラリ管理室から抜け出そうとしたが、流れるモニターの、ある一点に目が留まって、思わず足を止める。
その単語に聞き覚えはないし、それに見覚えもない。
しかし人類の遺伝子に深く刻まれているように、決して無視のできない魔力がその単語には含まれている。
またも橙灯がちりちりと瞬いた。
ちかちかと照らされるモニターに映ったその単語は、文字の羅列に紛れて『観測者(トロイヤ)』とだけ書かれていた。
————警報が鳴った。
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