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「その時計はどういうわけか反対に回るんだよ」

 次の日早朝から店を訪ねてきたあいつに、俺は言った。

「世界の全てを知っていたんじゃなかったのか」俺がそういうと、

「確かに知っている筈なんだけどなあ、知らないのかもなあ」とか言っていた。

 女はこのボロ街に合わない、小奇麗な格好をしていた。この街に合っていたのは俺みたいなボロボロの服を使い古し、市場でやっすいうどんを買って湯を沸かして食うような人間だ。あいつはどっからどうみても異端だった。この街と合致している部分は昨日買っていって腕につけてきたボロボロの時計だけだった。

「あんた、何処から来たんだよ」

 俺はあいつに興味津々だった。するとあいつは

「セントラル」と答えた。

「はぁ!?なんで」

 セントラルというのは行政特区……まああれだ、俺たちの様な貧民には一生縁のない世界だ、俺たちボロ街の人間は壁の外の世界で暮らしている。一番広いのに、一番貧乏だ。この国には二重の壁があって、まあなんだったか忘れたがボロ街、街、セントラルの順に並んでいた。そして、よっぽど特別な功績でも上げない限りは中の世界に行くことは出来なかった。そんな功績が上がったなんて話は聞いたことは無かったあっても一回といったところだろうか。それと同じくらい、中の世界の人間が外に出てくるなんてのは聞いたことがなかった。中には娯楽の全てがあるし、外国に行くこともできる。そして何より、セントラルからなんとか、なんとかからボロ街に行くには、市民権の移行が必要だった。テレビは何処からでも映るからわかる。つまりは、世界は一方通行だったんだ。

 あいつは俺の細い肩を乱暴にガシガシと叩いて、言った。

「だから言ったじゃないか、俺は世界の全てを知ったって」

「つまり、セントラルとなんとか」

「リバティ」即座にあいつは訂正をいれた。

「そう、セントラルとリバティについては知り尽くしたから、ボロ街に来たと」

「まあ、そういうことだな」あいつは無い胸を張っていった。

 そして倒れた。

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