第7話 バイトです

 翌朝早く、あたしとスコーンは学食に向かった。

 まだ誰もいないと思っていたのだが、空いた学食の中でビスコッティと仲間たちがノンビリと朝メシを食っていた。

「あっ、きましたね。まずは朝食を摂って下さい」

 もう見慣れたが、全員が大食いで空いた食器はそのままだったが、十人掛けの席を占領していたので、私たちがトレーを置くスペースは十分にあった。

「分かった、取ってくる」

 私は笑みを浮かべ、スコーンと一緒に食券発券機の前に立った。

「なんでもいいか。朝定食Aが目玉焼きだからこれにしよう。あとは適当に……」

 私は徐々に大食になってきたなと苦笑しつつ、食券をカウンターに出した。

「あれ、多いね。余ったら、ちょっとちょうだい!!」

 スコーンが笑った。

「うん、いいよ。それにしても、いきなりバイトか。面白い!!」

 私は笑った。

 しばらく待って出てきたあたしとスコーンのメシをワゴンに乗せ、席に着くとテーブルにトレーを置いた。

「さて、急いで食っちまおう!!」

 あたしは笑った。

「うん、急がないと」

 あたしとスコーンは、まるで胃に流し込むように、朝メシを平らげた。

「そこまで急ぐ必要はなかったのですが、いい食べっぷりでした」

 ビスコッティが笑った。

「早食いは得意だよ!!」

 あたしは笑った。

「う~、辛い……」

 スコーンが胃の辺りをさすりながら、ぼんやり呟いた。

「胃薬でも飲んでおきましょうか。これです」

 ビスコッティが、赤色の薬液が入った小瓶をスコーンに手渡した。

「ありがとう……」

 スコーンが薬瓶の中身を一気飲みして、笑みを浮かべた。

「リズもこれを開発する研究をしましょう。呪文と一緒で人によってやり方が違うので、私が教えられるのは、基礎的なところだけです」

 ビスコッティが小さく笑った。

「まあ、もう諦めたから素直に魔法薬の研究をする事にはしたけど、具体的にどうすればいいのか分からないんだよね」

 あたしは苦笑した。

「分かりました。帰ってきたら、まずは装置の組み立てからいきましょう。これが出来ないと、薬が作れません」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「分かった、よろしく!!」

 あたしは笑った。

「さて、朝食も済みましたし、食器を返して校庭に行きましょう。もう、荷物の準備をしているようなので」

 ビスコッティが小さく笑みを浮かべた。


 学食から校庭に向かうと、トラックの脇に蓋が開いた木箱が大量に並んでいた。

「こりゃ大荷物だね!!」

 あたしは笑った。

「こんなに魔法薬を欲しがるなんて、なんだろ?」

 スコーンがもっともな感想を漏らした。

「コルキドには、規模は小さいですが、王立魔法研究所の分所があります。そこで大量の魔法薬が必要になるんです。あっ、爆発性の魔法薬ではありませんよ。そこは、ご安心を」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「じゃあ、なんの魔法薬だろ……」

 あたしは率直に思った事を口にした。

「これは魔法薬というより、その原液なんです。材料の一つですね。それからなにが作られるかまでは、今まで気にした事がないので分かりません」

 ビスコッティが笑った。

「そうなんだ。まあ、危険物じゃないならいいや」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「それもそうだね。なんで木箱が開いてるの?」

 あたしはビスコッティにと問いかけた。

「あっ、検品をするためです。リズ、一緒にやりましょう。スコーンはどうしますか。面白い作業ではないですよ」

 ビスコッティが笑った。

「うん、暇だしやる!!」

 スコーンが笑った。

「でははじめましょう。まずはこの木箱から…」

 ビスコッティが笑み浮かべ、一番近くの木箱を覗き込んだ。

 きれいに梱包材で包まれて納めされていたのは、特大サイズの瓶に透明の液が入ったものが六つだった。

「これが魔法薬の原液です。まだなんの効果もありません。瓶に対して魔法は使わないで下さいね。悪影響を与える可能性があります」

 ビスコッティが笑み浮かべ次の箱に移ると、先の小箱は蓋を閉められた。

「リズ、荷物を積みたいので、荷台のカバーを開けて下さい」

 ビスコッティが笑み浮かべると、勝手にエンジンがかかり、デカいカバーがゆっくり開いていった。

「キットだな、聞いてたな…」

 あたしは笑みを浮かべた。

『オー、イエス。最初に乗った限りで放置しやがって。グレるぞ!!』

 恐らく、外部に音声を伝えるスピーカがあるのだろう。久々にキットの声を聞いた。

「ごめんね。用事がなくて!!」

『テメェ、ぶっ殺すぞ。な、泣いてなんかないからな!!』

 ……絶対泣いてた。

「ど、どうやって泣くの?」

『うるせぇ、企業秘密だ。いいから荷物載せろ!!』

 キットの声に苦笑するとあたしたちは検品を続け、その側から教師たちがパレットに木箱を積み上げてしっかり固定し、それをフォークリフトがトラックの荷台に積み込んでいった。

「こりゃ凄いね。さすがバカでかいだけあって、あれだけあった木箱を全部飲み込んじゃったよ」

 あたしは笑った。

「うん、さすがだね!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「よし、これが終わったら出発だね。護衛チームがもう準備をはじめたよ」

 あたしが見ている先では、検品が終わって忙しく準備をはじめた、ビスコッティたちの姿があった。

「さて、初バイトだね。あんまり使わないと思うけど、お金は持っていた方がいいからね!!」

 あたしは笑った。


 トラックに荷物を積み終わり、護衛チームの準備が完了したところで、あたしたちは出発する用意ができた。

『私たちが先導します。ついてきて下さい』

 トラックの無線機にビスコッティの声が飛び込んできた。

「分かった、よろしく!!」

 あたしは笑った。

 こうして校庭にある裏門で守衛のオッチャンにあの赤い紙を示すと、特に問題なく通してくれた。

 護衛チームに先導されて、あたしとスコーンを乗せたトラックは街道に出て、コルキド方面に向かった。

「ちょっと飛ばしてるね。早く危険地帯を抜けたいんだ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「まあ、この前『大掃除』したばかりだし、しばらくは安全だと思うけどね」

 あたしは笑った。

 オーク退治が主目的だったが、その作業中に見つけたであろう盗賊のアジトを放っておく道理はないので、一緒に葬った事だろう。

「まぁ、そうなんだけどね。油断はしない方がいいよ」

 スコーンが笑った。

 途中、舗装の石畳が荒れていて速度を落とす事もあったが、私たちの車列は無事にカリーナ周辺の二十キロ地帯を抜け、小さな村を通過し、一路コルキドに向かって走っていった。

『警告:魔力変換器に障害発生。緊急停車します』

 キットの声が聞こえ、トラックは舗装を外れて草原に踏み込んで止まった。

「なに、どうしたの?」

『はい、魔力を動力に変換する一連の装置に障害が発生しました。自己修復機能が作動しました。気長に待ってください』

 要するにトラックが故障したらしい。

 私は苦笑した。

「どれ、直るまで降りますか」

「うん、暇だし!!」

 あたしとスコーンが笑った。


 トラックが停車した事で、なにごとかと戻ってきた護衛チームを代表して、ビスコッティが苦笑した。

「故障ですか。やむを得ないですね」

 ビスコッティが笑み浮かべ、その間に護衛チームが車から降りて、私たちを取り囲むようにたち、それが防御体勢だという事は容易に分かった。

 ここは何個目かの村を抜けて、すぐの草原だ。

 故障して動けない車があれば、盗賊団の恰好の餌食だろう。

「どれ…」

 あたしは探査魔法を使い、周囲の状況を確認した。

「うん、今のところ半径二十キロの範囲には、なにもいないよ!!」

 あたしは笑った。

「そうですか。ここで盗賊などきたら、面倒臭いところでした。あとどれくらいかかりますか?」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「そうだねぇ…。キット、どのくらい掛かる?」

 あたしは外部から声をかけた。

『さて…。あと三十分程度は掛かりますよ。屁でもこいて待っててください』

 キットからの返答に、答える必要はなかった…。

「あーあ、機械だから壊れるのは当たり前なんだけど、よりによってこんな場所で」

 あたしは苦笑した。

「まあ、そうですね。私は防御陣に加わります。リズとスコーンはトラック内で待っている方が安全でしょう」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「それもそうだね。スコーン、戻ろう」

「分かった!!」

 あたしたちはトラックに乗り、修理完了まで待つ事にした。


「ねぇ、知ってる。割り箸ってチョップスティックって呼ぶ国があるんだって。私の親から聞いた」

 スコーンが笑った。

「そっか、それで思い出したけど、私って極度のラーメン好きなんだよね。無料だから文句はいえないんだけど、学食のラーメンってちょっと違うんだよね。コルキドにあったかな」

 あたしは笑った。

「そうなの。私はうどんがいい。間食にいいよ!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

 修理を待つ事一時間。もうすぐ終わると聞いていたが、あとどれくらいか。

 スコーンと雑談を交わしているうちに修理が終わったようで、トラックのエンジンがかかった。

『修理完了。全システムオールグリーン。直った!!』

 キットの声が聞こえ、私はトラックの無線でみんなに呼びかけた。

「終わったよ。行こう!!」

 あたしが声をかけると、みんなが一斉に車に乗り込んだ。

『ビスコッティです。これまで通り、私たちが先導します。ついてきて下さい』

 無線からビスコッティの声が聞こえ、あたしたちは再びコルキドを目指して走りはじめた。

 修理のせいで、そろそろ昼メシでも食うか…という時間になっていたので、コルキドでメシ屋を探すのが楽しみだった。

「この速度なら、あと三十分程度かな…」

『まあ、そんなところでしょう。ところで、今さらなのですが、荷物に揮発性の成分が含まれています。火気厳禁ですよ』

 キットがそっと囁いた。

「な、なに!?」

 あたしは迷う事なく無線のマイクを取った。

「ビスコッティ、ここまできてあれだけど、積み荷に揮発性の成分が入ってるって!!」

『えっ、そんなはずは…。ちょっと止まって下さい』

 護衛車とトラックは、再び路肩に止めた。

 あたしは運転席から飛び下り、キットに荷台の蓋を開けるように指示した。

 すると、目にしみるくらいの強烈なアルコール臭が漂ってきた。

「あっ、アルコールですね。それなら問題ありません。触媒として使われているので」

 護衛車からすっ飛んできたビスコッティが、ホッとしたように笑み浮かべた。

「そうなんだ。それにしても、強烈だね。これだけで酔いそうだよ!!」

 あたしは笑った。

「はい、これだけ大量でなおかつ荷台が密閉されたトラックで、コルキドまで運ぶのは初めてなので、私も少し神経を張っていまして」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「うん、あたしも怖いよ。それじゃ、問題ないならいこう!!」

 あたしは笑った。


 修理の時間込みで三時間ほどかかり、あたしたちはコルキドの町に到着した。

 比較的小さな町で、いかにも田舎という雰囲気があり、あたしは気に入った。

 町中をゆっくり走り、いきなり現れた幅広の道路をみて、あたしはちょっとビックリした。

『ここが魔法研究所に続く、一番広い道路です。その巨体で通れますか?』

 無線でビスコッティの心配そうに聞いてきた。

「キット、どう?」

『余裕はないですが、通れるでしょう。まあ、道がなければ作るのみです』

 …なんか怖い事をいいはじめたキット。

「ま、まあ、いけるならいいや」

 私は苦笑して、ビスコッティに大丈夫そうだと伝えた。

『分かりました。ゆっくり行きます』

 先導するビスコッティの車がゆっくり走り出し、トラックが派手にカーブして道路に入った。

 道路は一直線ではなく、途中で何回かカーブがあったが、キットが操るトラックは危なげなく進んでいった。

 そのうち、場違いにデカくて外壁が白塗りされた建物が見えてきて、これが目的地の魔法研究所だとすぐに分かった。

『ここです。搬入口には駐まれないと思いますので、研究所の職員に話してきます』

 ビスコッティが無線で連絡してきて、前方の護衛車からビスコッティが降り、研究所の扉を開けて中に入っていった。

「ふぅ、着いたね」

 あたしは笑みを浮かべた。

「うん、なにを研究しているんだろうね」

 スコーンが笑った。

「さぁ…知らない方がいいかもね!!」

 あたしは笑った。

「そうだね。多分、ろくでもない研究をしているよ。変な魔力が充満してるし」

「それはあたしも感じてる。これ、多分変な魔法だよ。なんか、空気で分かる」

 スコーンとあたしは苦笑した。

 この国は魔法大国と呼ばれ、領土は狭いが世界的には大国扱いだ。

 そのクォリティを維持するために、魔法研究所が国中にあるのは当然だった。

「さてと、ビスコッティは…。あっ、出てきた」

 ビスコッティが、いかにも事務と分かる、スーツ姿の女性を連れて出てきた。

 こんなにデカいトラックはコイツくらいだろうし、先程の女性がポカンとした。

「さて、どうするのかな。キット、荷室を開けて!!」

 機械音が聞こえ、あたしとスコーンは運転席がら降りた。


 ガバッと大きく開いた荷室に積まれた木箱を、研究所のフォークリフトが丁寧に下ろしはじめ、あたしたちはその様子をなにするでもなく見守った。

「こうしてみると、本当に大きいですね。以前は、小さなトラックで木箱を一箱ずつ運んでいたのですが、これなら効率的ですね」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「まあ、デカいボディだから、狭い道はダメだけどね」

 あたしは笑った。

「暇だから、町中を歩いてみたいんだけど」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。検品があるので、あと三時間はかかるでしょう。みんなも久々にコルキドにきてゆっくり息抜きしたいでしょうし、私が残りますので気にせず楽しんで下さい。ここから町まで結構な距離があるので、自転車を貸してもらいましょう」

 ビスコッティが笑み浮かべた。

「あれ、ビスコッティはいいの?」

 あたしはビスコッティに問いかけた。

「はい、先週ここにきたばかりなので、問題ありません。欲しいものは特にないですが、強いていうなら、テイクアウトでなにか食べ物を…」

 ビスコッティがいいかけた時、アリスが笑って護衛車の荷台からバスケットを取り出した。

「こういう用意は抜かりない。お前のメシだ。簡単なサンドイッチだがな」

「これはありがとうございます。これで、私は大丈夫です。なにかあったら、無線で連絡を」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。


 研究所から職員用の自転車を人数分借りだし、私たちは町に向かって走っていった。

 まず最初にメシからと、アリスがお勧めの店があるという事で、夢にまで見そうになっていた美味いというラーメン屋に入った。

 店内はカウンター席しかなく、なかなか盛況だった。

 これだけの人数を一緒に座れるわけがなく、空いた席から順に座って行く事になり、トップはあたしだった。

「注文は?」

 いかにも職人という感じのオッチャンが、オーダーを取った。

「ラーメン!!」

 さらっと壁に貼られたメニューをみて、あたしは一番ベーシックなものを注文した。

 初めての店は、一番ベーシックな麺を注文するのが、あたしのポリシーだった。

 しばらく待って出てきたラーメンにコショウをを山ほどかけてから、あたしは麺を啜りはじめた。

「…美味い」

 あたしはそっと呟き、小さく笑みを浮かべた。

 麺が伸びないうちに、一気に食って一息吐くと、代金の銀貨一枚をカウンターに乗せ、オッチャンがそれを回収すると、一言「ごちそうさま」といって、サラッと店を出て外でみんなを待った。

 食ったらとっとと出る。基本だ。

 そのうちみんなが揃い、あたしたちは落ち着いて町の中を歩きはじめた。

「あの、リズさん。その剣ですが、見てもよろしいですか?」

 普段はあまり喋らないララが、あたしのショートソードをみつめた。

「いいけど、町の中であまり鞘から抜かない方がいいよ」

 あたしは苦笑して、剣を抜いてララに手渡した。

「ありがとうございます。剣の腹になにか掘ってありますね」

「うん、古代文字で『人生は冒険だ 冒険野郎マクガイバ』って意味不明のメッセージみたいなものが掘られているんだよ。材質も不明。ミスリルかアダマントに近いっていわれているよ」

 あたしは笑った。

 ミスリルとは特殊な金属で、鋼より圧倒的に軽くて頑丈で、魔法や魔力を吸収する特製があり、アダマントは最強の金属で対ドラゴン戦でも、唯一頑丈な竜鱗を切り裂ける剣…『ドラゴンスレイヤ』と呼ばれている、伝説級に貴重なものの材料にも使われているらしい。

「マクガイバですか。銘があるという事は、有名な職人が打った剣でしょう。ただ、聞いた事がないですね。刀剣類は大体分かるのですが…。でも、いい剣です。大事にしましょう」

 ララが笑みを浮かべ、剣を返してくれた。

 あたしはそれを鞘に収め、小さく笑った。

「なんだ、正体不明なのか。価値が分からん!!」

 あたしは笑った。

「よし、あとは買い物といこう。なにが欲しい?」

 アリスが笑みを浮かべた。

「あたしは魔法書だな。ファッションなんてどうでもいいし」

「私はアクセサリだね。たまにはいいかなって」

 あたしに続いてスコーンが、女の子らしい発言をした。

「分かった。私は銃を見たい。それぞれ欲しいものがあるから、ここで一端ばらけよう。集合はいつもの場所で一時間後だ。私はこのひよっこどもを案内する」

 アリスが笑った。

「えっ、いいの?」

 あたしはアリスに問いかけた。

「ああ、構わん。私は銃を見るついでに、弾薬の補充をしたいだけだからな。まずは魔法書からいこうか」

 アリスが笑った。


 アリスに案内された魔法屋は、少しひなびた建物で、あまり流行っている店とは思えな方が、こういう店ほど掘り出しものがある事多い。

 三人で扉を開けて店内に入ると、魔法使いらしく高魔力を放つ客が数名パラパラと散って、魔法書や道具をあさっていた。

「さて、みようか。魔法書魔法書…禁術指定はダメだよね?」

 あたしは笑った。

「ダメ!!」

 スコーンがビシッといい切った。

「じゃあ、試しに見ようか」

 私はクククっと笑った。

「…なんかあるね。いいよ、みてみよう」

 スコーンがジト目になりながらも、あたしについてきた。

 店の奥の方にある禁術コーナーにいくと、本棚にずらっと本が並んでいた。

 禁術といっても色々ありで、直接的には殺傷力はない魔法だが、ドエロい事になったり…まあ、どうでもいいような魔法であるが、見るに堪えない魔法ばかりだ。

「なに、リズ。なんかあるの?」

 すっかり機嫌を損ねてしまった様子のスコーンに、あたしは笑みを浮かべた。

「あった、見つけた。この中に、スコーンが知ってる人が書いた本があるよ!!」

「えっ、そうなの!?」

 いきなり機嫌が直ったスコーンが、本棚にある本を片っ端から調べはじめた。

「…あった、著者は『リズ・ウィンド』。これだね、本なんて書いたんだ」

「まあ、実家にいる時にちょっとお誘いがあって、試しに書いてみたんだよ『毛虫を駆除する魔法』と『オオカブトカメムシを駆除する魔法』をね。ああ、オオカブトカメムシっって、実家のある村で大量発生するとんでもなく臭いヤツね。こんなのが禁書扱いになった理由は不明なんだけど、なんか気に入らなかったんだろうね」

 あたしは笑った。

「なにそれ!!」

 スコーンが笑った。

 …実は偽名を使って書いた本もある。一冊しか存在せず、その本は王立図書館に保管され、誰の目に触れず国王すら読む事を禁じられた禁書中の禁書だ。

 これは、暴発か手違いといういうしかない。本として刷ったあとに、誰もがヤバいと気が付いたのだ。

 その魔法については、これ以上語りたくない。

「あたしの本はまだあるよ。面白かったら、探してみて!!」

「うん、分かった。えっと、毛虫毛虫…」

 …あたしはさっきの毛虫本一冊しか書いていない。

「あった、毛虫じゃないけど、攻撃魔法についてだって。あとは結界とか回復魔法なんかもある。全部の系統やったんだね!!」

「一応、魔法使いらしく全系統を研究した。その中で、結界が一番しっくりきたんだよ。だから、結界が得意になったんだ。結構、難しいんだぞ!!」

 あたしは笑った。

「へぇ、私は結界は苦手だな。なんかこう、ぶっ壊した方が楽しい!!」

 スコーンが笑った。

「うん、それは分かる。あたしだって、ぶっ壊したくて攻撃魔法の研究してるから」

 あたしは笑った。

「さて、変な魔法書を探そう。スコーンも探してみるといいよ!!」

 あたしは笑った。


 魔法屋でそれぞれ興味がある魔法書を買い、それを空間ポケットに押し込み、今度はアリスのリクエストに応えて、ガンショップに向かった。

 アリスのの行きつけという小さな店に入ると、ガンオイルのニオイが充満した店内で、いかにも職人という感じのゴツい体をした爺さまが、チラッと目をやっただけで、挨拶すらしなかった。

「おう、オヤジ。まだ生きてたか」

 アリスが笑った。

「馬鹿野郎、そんなに簡単にくたばるか。今日はなんだ?」

 爺さまがぶっきらぼうに聞いてきた。

「ああ、なにか面白い銃はないか」

「そうだな…。やっと入荷したサブマシンガンがある。精度がいいMP-5なんてどうだ。高いが悪くないぞ」

 爺さまが笑った。

「それはいいな。ちょうど、拳銃弾を使うサブマシンガンが欲しかったんだ。ライフル弾では強すぎてな」

 アリスは笑みを浮かべると、爺さまがカウンターにおいた大きな黒い銃を手に取り、あちこち点検した上で、カウンターに金貨を四十枚おいた。

「…高い。そんな金はない」

 あたしは苦笑した。

「うん、良さそうだ。あとは、弾薬を三箱くれ。お前たちは、なにか買わないのか?」

 アリスが笑みを浮かべた。

「そんなに金持ちじゃないよ。学校支給のベレッタで十分!!」

 あたしは笑った。

 そう、入学式を終えると、全新入生に拳銃が配られる。

 それがベレッタ92FSだが、かなり高価なものらしい。

「ほう、ベレッタか。ちょっとみせてみろ」

 あたしとスコーンは頷き、それぞれ自分の銃をカウンターに置いた。

「…なるほど、特に問題ないな。カリーナの支給品には、不良品も多くてな。運がよかった」

 爺さまがあたしたちの銃を点検しながら、小さな笑みを浮かべた。

「そ、そうなんだ…」

 あたしは苦笑して、爺さまが返してくれた拳銃を再びホルスタに収めた。

「よし、私の用事は済んだ。時間まで屋台を冷やかしにいこう」

 アリスが笑った。


 三人で大通りにある屋台を巡り、スコーンが専門店で買うとあまりに高価なアクセサリを購入して満足したあたしたちは、待ち合わせ場所だという、噴水がある広場に移動した。

「そろそろ頃合いだな。全員が集まるはずだ」

 アリスが笑みを浮かべた時、剣を一振り持ったララが駆けてきた。

「いい買い物が出来ました。今までの剣では軽すぎたので、売ってその代金で新しい剣を買いました。剣はいいですよね」

 ララがなにか遠い目をしながら、恍惚とした表情を浮かべた。

「…本気でうれしいんだね」

 あたしは苦笑した。

 それから、買い物に出ていたみんなが帰ってきて、リナが人数分買ってきたポップコーンをモソモソ食ってから、あたしたちは自転車で研究所に戻る事にした。

 立派な道路を走って研究所に着くと、荷室の蓋が閉じているトラックの脇に立っていたビスコッティが手を振った。

 リナがビスコッティの分まで買っておいた様子のポップコーンを渡し、ビスコッティがモソモソ食いはじめた。

「予想より早く検品と納品が終わりましたので、もう帰れますよ。用事が済んだのであれば、カリーナに戻りましょう。今からだと、夜になってしまうかもしれません」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうだね。十分気分転換ができたし、あとは帰りだね」

 あたしは笑った。

「では、いきましょう。少し急ぎましょう」

 ビスコッティが先導車の運転席に乗り、あたしたあたしたちはトラックに乗った。

 少し間が開いてから先導車がゆっくり走りだし、トラックも走りはじめた。

『あー、暇だった。演歌でも聴きます?』

 キットがポツッと漏らした。

「え、演歌?」

 あたしは思わず聞き返してしまった。

『はい、荒んだ心に響きますよ。かけましょう。歌は翻訳しています』

 キットの声と共に、スピーカーからシブい曲が流れてきた。

「…し、染みる」

 あたしは涙した。

「うん、眠くなっちゃうけど、いいねぇ」

 スコーンが笑った。

 先導する護衛車に続きトラックは町中を走って街道に出ると、緩やかに速度を上げてカリーナを目指した。

「相変わらず、なにもないねぇ」

 あたしは誰ともなく呟いた。

 街道の両脇は草原。いう事なく気分は爽快。

 時刻はそろそろ夕方に差し掛かろうとしていた。

 村をいくつか抜け、カリーナ周囲二十キロ地点に入るまで、最後の村が見えてきたとき、魔物の群れに襲われていた。

「おっと!!」

 あたしの声と共にトラックが急停車し、護衛チームの車が草原に乗りこんでいった。

「あれ、ここでいいの?」

 あたしはキットに聞いた。

『はい、あの七人に任せるべきです。私は非武装ですし、追いかけていっても邪魔になるだけです』

 キットが冷静な声で諭すように返してきた。

「大丈夫かな…」

 スコーンが心配そうに呟いた…瞬間、村が根こそぎぶっ飛んだ。

「…おい」

 あたしは極めて冷静に、誰かに向かってツッコミをいれた。

「あわわ!?」

 スコーンが目を丸くした。

『…行きましょう。終わりました』

 なにか、棒読みのビスコッティの声が、無線機のスピーカーから聞こえた。

「…なにやったの。もうバレバレだから」

『…過ぎた事です。いきますよ』

 まあ、犯人はビスコッティだと、もう察しがついていたが、あたしはそれ以上追求するのはやめた。

 こうして、あたしたちはそのまま村の跡地を抜け、覚悟の二十キロ圏内に突入した。

 その後は特になにもなく進み、やがてカリーナが見えてくるとほっとした。

「さて、バイトも終わりだね。楽しかったよ」

 あたしは笑みを浮かべたのだった。

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