第6話 戦後の休息
対オーク戦が成功に終わったあと、あたしとスコーンはビスコッティたちと一緒に朝飯を食って、寮の部屋に戻った。
「あー、気合いと根性には自信があるけど、これはさすがにきつい……」
あたしはフラフラと自分のベッドに飛び込み、そのまま仰向けになって布団を被った。
「お疲れだね。私もフラフラだよ。ゆっくり寝よう。カーテン閉めておくね」
スコーンが小さく笑って、重たそうな豪華なカーテンを閉めた。
これがいいのか悪いのかは別として、今は個室感があって心地よかった。
私はやってきた睡魔に身を委ねようとしたが、なかなか寝付けなかった。
「こりゃまいったな。スコーン、起きてる?」
「……」
……寝たようだ、起こしてはかわそう。
「はぁ、今日は臨時休校で暇だし寝付き悪いし、どうしようかな……」
ベッドの上に転がり、仰向けに寝て雑誌を読み、それに飽きたらまた目を閉じてを繰り返していると、やっと強烈な眠気がやってきて、あたしを強制的に眠りの世界に引きずり込んだ。
ふと起きると、時刻は昼をとっくに過ぎ、そろそろおやつという感じだった。
「なんか、半端な時間に起きちゃったな。スコーン、カーテン開けるよ!!」
あたしは重たいカーテンを引いて開けた。
すると、キャストとキャシーがベッドでうなり声を上げているスコーンを、慣れた手つきで看病していた。
「ど、どうしたの!?」
私は思わず声をひっくり返してしまった。
「はい、スコーン様の持病です。普段はなんともないのですが、極端に魔力を使ったあとなどにこうして発作を起こしてしまうのです。小一時間ほどで回復しますし、命に危険はりません」
キャストが小さく息を吐いた。
「そ、そう、それならいいけど。魔法使いとしては、怖い持病だね」
私は苦笑した。
「その点は問題ありません。普段はセーブするように訓練を受けています。リズ様はどうされますか?」
「『様』はいらないんだけど……」
私は苦笑した。
「いえ、様は様です。さて、スコーン様は私たちで看病しますので、お出かけするのであれば、行き先を教えて下さい」
「いや、待ってる。それとも、学食でケーキでももらってこようかな」
「かしこまりました。そのような用件であれば、私どもをお使い下さい。数量限定でスペシャルイチゴショートケーキがあるようなので、まだ間にあうようであればそれを頂いてまいります。では、キャシー。ここは任せて下さい。スペシャルイチゴショートケーキを二つです。もし、もう品切れであれば、適当に見繕ってきなさい」
「はい、承知しました。急いでいってきます」
いうが早くキャシーが素早く部屋を出ていった。
「ちょっと待った。二つ足りないよ!!」
私は慌てて声を上げた。
「いえ、主の命でない限りは、私たちはオマケです。一緒に食べるなどもっての外……」
キャシーが笑みを浮かべた。
「こら、堅苦しくなってるぞ。あたしもその主に含まれているの?」
あたしは笑みを浮かべた。
「もちろんです。なにかご命令でも……」
「うん、一緒にお茶会やろう。スコーンが落ち着いたらね」
私は笑った。
「かしこまりました。薬を投与したので、なにも心配ありません」
キャストが笑った。
「それじゃ、ちょっと待って」
あたしは無線機を取り出し、ビスコッティと書かれたボタンを押した。
「ビスコッティ、今は大丈夫?」
『はい、大丈夫ですよ。どうしました?』
無線越しにビスコッティが優しく返してくれた。
「うん、スコーンが持病の発作を起こしちゃって……」
『えっ、すぐいきます!!』
「あっ、待って……って、もう応答しないし」
あたしは苦笑した。
「どうしましょうか。かなり慌てた様子でしたが……」
キャストが苦笑した。
「まあ、これはビスコッティの早合点だね。怒られたらいい返そう」
あたしは笑った。
それからしばらくして、キャシーがケーキが入った箱を持ってきた。
「手に入りました。まだ、数に余裕があるようです」
「では、もう一走りお願いします。あと同じケーキを三つで」
キャストの指示にキャシーは嫌な顔一つせず、再び部屋を出ていった。
「これは、楽しいお茶会になりそうだね」
私は笑みを浮かべた。
ビスコッティが慌てて部屋に飛び込んできた時には、すでにケーキが人数分用意されていて、スコーンも怠そうにしながらも小さく笑みを浮かべていた。
「ちょ、ちょっと、発作は!?」
ビスコッティが声を上げると、スコーンが笑った。
「ありがとう。昔から魔力を使い過ぎると、いきなり発作を起こしちゃう事があるんだよ。昨日は少し無理をしたからね。やっちゃった」
スコーンが笑みを浮かべた。
「……それは、もしかしたら。キャストさん、スコーンが今飲んでいる薬を見せて頂けますか?」
ビスコッティが真面目な顔で、キャストに問いかけた。
「構いません。これです」
キャストがジャージのポケットから、しっかり蓋が封印された小さな薬瓶を取りだした。
「少しお借りします。開けても大丈夫ですか?」
「はい、予備はたくさんありますから。どうされるのですか?」
キャストの言葉に、ビスコッティが笑みを浮かべた。
「薬の成分から、病気の様子を探ろうと思いまして。失礼」
ビスコッティが封印を破って薬瓶の蓋を開け、それを少し口に含んで手に吐き出した。
「なるほど、分かりました。この処方であれば、魔法使いとしての資質は申し分ないですね。無理さえしなければ大丈夫です。予想していた最悪の事態にはならなかったです」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「最悪の事態って?」
あたしはビスコッティに問いかけた。
「最悪、危険すぎて魔法使いとして難しいという判定が下り、放校処分になる可能性もあったのです。これなら問題ありません」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「ンギッ。それって大事じゃない!!」
「そうですね。しかし、魔法学校を出ている事実がある時点で、大丈夫だと思っていました。念のための確認です」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「なんだ、ビックリしたよ。治せないの?」
スコーンが笑みを浮かべた。
「はい、先天性の病気なので、対処療法しかありません。この薬さえ持っていれば、それほど酷い事にはなりませんよ。安心して下さい。
「よし、落ち着いたところでみんなでお茶会しよう……って、よく考えたら、テーブルも椅子もないか……」
あたしが呟くと、キャストとキャシーが小さく笑い、空間ポケットから椅子や小さなテーブルを取りだして、部屋の真ん中に置いた。
「これで、準備完了です。しかし、迂闊にも茶葉とポット、カップがありません。ここで手に入るでしょうか?」
キャストが苦笑した。
「はい、購買で手に入りますよ。お茶の種類も豊富なので、一番美味しいものをお願いします」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「よし、キャシー!!」
「はい!!」
変なチームワークを見せる侍女コンビが、さっそく動いた。
「ては、私はセッティングをします。すぐに終わりますよ」
キャストが笑い、テーブルの上にクロスを敷き、皿を取り出して一人分ずつケーキを並べていった。
「リズ、楽しみだね。スペシャルイチゴショートケーキはずっと気になっていたんだけど、いつも売り切れだったんだよね!!」
スコーンが笑った。
「あたしは存在すら知らなかった。本当に色々揃ってるねぇ」
あたしは笑った。
しばらくすると、購買で必要なものを手に入れたキャシーが戻ってきた。
「お待たせしました。カップ、ポット、茶葉を手に入れました。お湯を沸かす電気ポットも用意しました。少々お待ちください」
キャシーが箱に入っていたカップなどを持って、洗面所に洗いにいった。
すぐに戻ってきて、今度は電気ポットを抱えて洗面所に水を汲みにいき、戻ってくるとすぐに電源を入れた。
「なんか、ワクワクするな」
スコーンが笑った。
「そうだね。いつもはケーキなんてすぐ食っちゃうけど、こういうのもいいかもね」
あたしは笑みを浮かべた。
湯が沸くまで待つ事しばし。
電気ポットの間の抜けたショボい電子音で、お湯が沸いた事が分かり、キャシーがポットとカップに湯を入れて温めはじめた。
「あとは任せるよ。あたしは詳しいやり方を知らないから」
あたしは苦笑した。
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
キャストとキャシーが笑みを浮かべ、テキパキとお茶の用意をしてくれた。
「お待たせしました。どうぞ」
二人がサーブしてくれたお茶を飲み、ケーキを食い、和やかな時間は過ぎていった。
「では、そろそろ引き上げます。スコーンは体を大事に。今日はあまり動かない方がいいと思います」
ビスコッティが笑み浮かべ、部屋から出ていった。
キャストとキャシーがお茶の片付けをして、一礼して部屋から出ていった。
「さて、今日は休みだね。私はお出かけしたいな」
学校指定のエンジ色ジャージを着たスコーンが、ニコニコしながら私の顔をみた。
「お出かけねぇ……。屋上でバーベキューでもする?」
あたしは笑った。
「あっ、それいいね。みんなに声をかけよう!!」
スコーンが笑い、さっき帰ったばかりのビスコッティを無線で呼び出した。
『はい、ビスコッティです』
「うん、リズだけど屋上でバーベキューでもするかって話しになっているんだけど……」
あたしはビスコッティに用件を述べた。
『いえ、今日はあくまでも臨時休校であって、正式なお休みではないので、屋上で遊ぶことは難しいでしょう。外出も同様です。大人しく校内で時間を潰すしかありません。ああ、そうでした。屋上のドームも使用不可です。設置後の検査で、十台全てで初期不良が見つかったそうで、修理が必要なようです。話し相手は大歓迎ですよ』
ビスコッティが小さく笑った。
「それなら、ここより学食にいく?」
私は笑った。
『いえ、面倒なのそちらに戻ります。出たばかりなのですぐに着きます』
無線からビスコッティの声が返ってくると、本当にすぐに戻ってきた。
ビスコッティが壁に立てかけてあった折りたたみ式の椅子を持って、部屋の真ん中に座った。
「さて、なにを話しましょうか?」
ビスコッティが笑った。
「そうだねぇ……。こんな時に魔法の話しをしてもつまらないから、大人の恋愛!!」
スコーンが笑った。
「それは、私についての話しですか?」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「うん!!」
スコーンが笑った。
「いや、あたしたちはもう十分話してるから、ビスコッティはどうかなって!!」
あたしは笑った。
「そうですね。今はフリーですが、中等科一年の頃まで続いた仲良しはいました。しかし、その人は突然消えていなくなりました」
ビスコッティが笑った。
「き、消えたの!?」
「ンギッ、な、なんで!?」
スコーンとあたしが思わず声を上げてしまった。
「はい、よりによって校長のヅラに放火して、速攻で放校処分になってしまったのです。とんでもないバカだったもので」
ビスコッティが笑いすぎなくらい大笑いし、目の端に浮かんだ涙を指で拭った。
「ば、バカだねぇ!!」
スコーンが笑った。
「まあ、そういう事にしておく!!」
あたしは笑った。
ビスコッティとスコーン、あたしでどうでもいい雑談をしていると、見慣れたビスコッティの仲間たちがやってきた。
「部屋にいないから、ここだって思ってな」
アリスが笑みを浮かべた。
「あっ、どうしました。みなさんここに」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「いや、どうって事はないんだが、暇だから集まったんだ。新入生をしごいていたのか?」
アリスが笑みを浮かべた。
「いえ、暇だったのでだだの雑談をしていました」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「ならいいんだが。ビスコッティ、なんなら私たちも混ざりたいんだが、ここでは狭い。学食にいかないか?」
アリスの事にビスコッティが頷き、自分のベッドに座っていたアタシたちを交互にみた。
「うん、いいね。ここにいても暇なだけだし!!」
スコーンが笑みを浮かべた。
「そうだね、断る理由がないよ」
あたしは笑った。
「それは、いきましょう。恐らく、暇つぶしの学生で溢れているでしょうが」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「おっと、それもそうだな。ちょっと寒いが屋上にでもいくか?」
アリスが笑った。
「さすがに、それはマズいでしょう。校舎内か寮にいないと……」
「気にしなくていいだろ。遊んでないで、話してるだけだ。テントでも張ってゆっくりしよう」
ビスコッティの言葉を、アリスが笑みを打ち消した。
「全く、反省文になってもしりませんよ」
ビスコッティが苦笑した。
「望むところだ。よし、いこう」
アリスが笑った。
こうして、私たちは校舎の屋上に移動した。
屋上に上がると、なんだか焦げ臭いニオイが漂っていた。
「ん、火事?」
あたしは誰ともなく呟いた。
「はい、ドームの配線がショートしてしまったようです。焦げ臭いのは、そのためでしょう。修理すれば直るようなので、今はその作業中だと思います」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「なんだ、それならいいや。火事は嫌だからね」
あたしは笑った。
「よくないよ。私の可愛いドームたちが、ああ……」
スコーンが涙を流し、両手で顔を覆った。
……そこまでか。
あたしは苦笑した。
「ま、まあ、直るならいいじゃん」
あたしはスコーンの肩を叩いた。
「はい、ではテントを張りましょう」
ビスコッティが笑み浮かべた。
嘆くスコーンをビスコッティに任せ、あたしたちはテントの設営をはじめた。
といっても、あたしはほとんど見ているだけで、ほとんどは慣れた手つきでビスコッティの仲間たちが片付けてしまった。
「少し寒いな。早く入ろう」
アリスが笑みを浮かべ、遅れてやってきたビスコッティとスコーンも合わせて、全員で中に入った。
風がない分テント内は快適で、さすが特注というだけの事はあった。
「はい、集まったところですが、特になにもないですね。まあ、こうしているだけで、不思議と楽しいですが」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「そうだね、。こうしてるだけでいいや。なにか話そう!!」
スコーンが笑い、あたしたちのどうでもいいような雑談は夕方まで続いた。
空が暗くなって寮に戻ることになり、あたしたちはテントを撤収する事にした。
もう暗くなっていたが、明かりがなくてもビスコッティたちが手早くテントを撤収し、いつでも帰る準備ができた。
「それでは、いきましょう。ついでに学生課によって、アルバイト情報でも漁った方がいいかもしれません。思わぬ拾いものがあるかもしれません」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「そっか、アルバイトしないと息抜きの買い物にもいけないか……」
あたしは笑った。
「はい、そういう事です。もっとも、初等科一年の前半では、校庭の草むしりなど、簡単なものしか受けられないですが。草むしりといっても、一辺が二十キロもあるので、大勢動員されますし、アルバイト代もそこそこいいですよ」
ビスコッティが笑った。
「草むしりねぇ。実家にいる時はよくやったな」
あたしは小さく笑った。
「私はやった事ないな。毛虫いる?」
スコーンが笑った
「毛虫は分からないけど、草の種類によっては素手で触るとかぶれる時もあるよ。まあ、いずれにしても、草むしりの時期にはまだ早いね」
あたしは笑った
「では、いきましょう。まずは、事務室にいきましょう」
ビスコッティが笑み浮かべた。
「分かった、いこう!!」
あたしは笑った。
全員でゾロゾロ事務室に向かい、学生課のカウンターでビスコッティがアルバイト情報のファイルを受け取ろうとした時、向こうから声を掛けていた。
「あっ、きたきた。リズさんとスコーンさんですね。特別な依頼があります。大量の魔法薬をコルキドまで運ぶ必要があり、あの大きなトラックなら一回で運べるだろうという話しがありまして。受けていただけますか。出発は明日で構いませんので」
その学生課の職員が、ニコッと笑みを浮かべた。
「うん、いいけど……。明日だね」
あたしは笑みを浮かべた。
「はい、これが依頼書です。補習の予定も書いてありますので、参照して下さい」
職員は赤い紙の依頼書にサインして、それをあたしに差し出した。
「ここにサインを」
職員に指示されるままに、あたしは紙にサインした。
「はい、これで大丈夫です。あとは、近場なので大丈夫だと思いますが、万一の場合に備えて護衛をつける事をお勧めします。当てはありますか?」
職員が問いかけてくると、ビスコッティが笑み浮かべた。
「では、私たちが護衛として同行します。よろしいですか?」
「はい、構いません。こちらは通常のアルバイトになりますので、申込書を書いて下さい」
学生課の職員が白い用紙をビスコッティに手渡し、ビスコッティは慣れた手つきであっという間に用紙を書いて提出した。
「はい、受理しました。これで、明日はあなた方全員ですね。荷物の積み込みがあるので、早めに校庭のトラックまできて下さい」
カウンターの職員が笑みを浮かべ、あたしたちは寮に向かった。
このまま晩メシでもよかったのだが、まだちょっと早すぎるという時刻だったのだ。
「では、ここで解散しましょう。明日は早めに学食で」
寮の出入り口でビスコッティたちと分かれ、あたしとスコーンは自分たちの部屋に戻った。
「さてと、明日はバイトついでに買い物でもするか。変な魔法書探ししよう」
自分のベッドに座り、あたしは笑った。
「ダメだよ、変なの買ったら。私はなにしようかな……まあ、着いたら考えよう。なにがあるか分からないし」
スコーンが笑った。
「それもそうだね。コルキドは初めてだから、明日の出発前にでも詳しそうなビスコッティに聞こう」
あたしは笑みを浮かべたのだった。
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