第24話 回想の終了と、非現実の始まり。
気のせいか伸ばした指先から静電気のような光が出た。
オレに気付いた
こんな縋るような顔みたことがない。
差し出された指先、オレと同じように蒼く淡い光が見えた。
手と手が近づくにつれその青白く儚いだけだった光が輝きを増した。
オレは一気に
そして反対側の手でサブリナに手を伸ばす。
サブリナのすぐ後ろには火花を散らしながら、急接近するバイク。
考えてる時間なんてもうない。
火事場の馬鹿力で
どちらかでも無事じゃなければこのミッションは失敗だ。
オレは無我夢中でサブリナに手を伸ばす。
サブリナの脇から手を入れ、
ふたりを手の内に収めることが出来たが、危険を脱してない。
オレは視界の端に映るバイクの軌道を確認し、ギリギリ軌道から外れる位置を計算する。
いくら火事場の馬鹿力とはいえ、女子ふたりを抱えて機敏に行動できるだけのパワ―はない。
オレは反動を利用し、バイクの軌道線上から脱するため数歩踏み出しコンマ数秒のところで三人一緒に歩道目掛けて飛び込んだ。
ふたりの後頭部を守るため手のひらをふたりの頭に添える。
これで頭への衝撃は和らぐはず。
だけど残念ながらオレの肘や膝は残酷なほど、アスファルトにすり下ろされることになるだろう。
それくらいでふたりの命が守れるなら別にいい――
オレたちは歩道目掛けて渾身のダイブで逃げた。
覚悟していた以上の痛みにオレは顔を歪めた。
オレの腕の中にはふたりのうめき声が聞こえる――生きてる。
ふたつの呼吸を感じる。
出来るだけそっと手をのけて、頭部に外傷がないか確認したが、腫れや出血はない。
続いて手、足の確認をしてみた。
軽い擦り傷はあるが見たところ、ふたりのケガはたいしたことなさそうだ。
オレはやり遂げた感と、急激な運動による酸欠で動けないまま、うずくまるふたりの間に座った。
ギリギリを滑り去ったバイクは電柱に持ち主と共に刺さり、カラカラと乾いた車輪の空回りする音を立てていた。
周り一帯は騒然とした。
気付けばオレは
ぼんやりとした視界。
ハウリングしたような聴覚。
足を踏み出す度に蘇る痛覚が膝にピリッとした痛みを走らせた。
歩道にしゃがみ込み泣きながら抱き合う
悪い気はしない。
大仕事の後だ。
これくらいのご褒美があってもいいだろ?
オレは抱きついてきたショコラの腰に手をまわした。
ん…?
意外にごついなぁ、さすが県立
あれ?
ショコラ地べたに座り込んで大泣きしてますが……
って、おまっ、
「なにしやがんだ、
オレは大泣きする
ケリも入れてやりたいが、残念膝曲げられねぇくらい擦り剥いてた。
オレはギャン泣きする
両手に花とばかりに
うれしいけど、めっちゃ擦り剥いてます!
普通に痛い!
もったいないけど、はやく離れてほしい‼
そんなオレの心を察した
「おい、おまえら。マジで痛い、離れろ」
さすがのオレも苦情を言った。
彼女いない歴イコ―ル年齢。
「我慢して」
「そうよ、そうよ!」
「じゃあせめて鼻水なんとかしろって……おい、こら、何する! やめろ~~!」
お約束通り、ふたりはオレの練習着の肩で「チ―ン」した。
こんなおふざけが出来るのも、
グッジョブ、オレ!
☆
しかし喜んでばかりはいられない。
見渡すと辺りは騒然とした。
人だかりは大きく分けて3つ。
ひとつは電柱に愛車ごと狭間れた「逆恨みバイク」だ。
ふたつ目がオレたち。
そして三つ目だが、やっぱり「逆恨みバイク」が転倒したのは、下校中の生徒に衝突したからだった。
ストレッチャ―に乗せられた県立
やり遂げた感に浸っていたオレの頭に冷水を浴びせた。
巻き込まれた女子は救急車に運び込まれ搬送されて行った。
同じく「逆恨みバイク」も。
ふたりに比べ軽症なオレはよく知らない保健室の先生のクルマで病院に行くことになった。
流石に疲れたオレは病院でのことはあまり覚えていない。
大勢で行くわけにもいかないので、保健室の先生とオレと
疲れてるとはいえ、ふたりのことが気になる。
幸いにも大きなケガはない。
擦り傷と打撲で、骨折や頭部に異常はないと聞かされオレの気は一気に抜けた。
オレの方もふたりと同様、頭部にも骨にも異常はないようだ。
ただふたりと違い腕と足に激しい擦り傷が。
擦り傷なので縫う事も出来ず、両ひじと両ひざそして両手が包帯などで処置された。
オレは帰る前にトイレを済ませようとベンチから立ち上がった。
立ちにくそうにしてるオレにサブリナが手伝ってくれた。
(こんな気の利く娘だっけ?)
オレは同意を求めるように
事故のショックかも知れない。
少しそっとしておこう。
それより最近「連れション仲間」のサブリナに「トイレ大丈夫?」と声を掛けた。
サブリナは少し考えて何故か
すると何故か
敬語には引っかかったが、まぁいいか。
オレは
包帯で邪魔されながらも、オレの方が先に出た。
そんなことを思いながら待ってると話し声が聞こえた。
保健室の先生の声だ。
内容こそ聞き取れないが、深刻な声だ。
ようやく出てきた
「君。立ち聞きはよくないよ?」
電話を終えた保健室の先生は腰に手を当てて斜に構えた。
気付かなかったが思ってたよりかなり若い。
そしてそのシニカルな視線から「イイ女」系の自覚がありそうだ。
年上で自信満々な女子にオレはそこそこ弱い。
しかし、今はそんな状態ではない。
「悪いんですか、その…運ばれた女子」
『逆恨みバイク』が転倒する前に、おそらく搬送された女子と接触事故を起こしている。先生が話していたのは恐らく、その娘の事だろう。
「彼女は……大腿骨骨折。太ももを骨折してる。重症だけど、まぁ…うん。彼女は命には問題ないかな」
曖昧な言葉。
逸らした視線。
溜息を我慢する感じ。
深刻な状況がここにないハズがない。
オレは保健室の先生に習って先生と隣で病院のヒヤッとする壁にもたれた。
先生は観念したのか「バイクの子。亡くなったみたい」独り言のように口にした。
心や体にピリッとした痛みは感じた。
そのことを話さないまま、オレたちは保健室の先生のクルマで自宅に送られた。
時系列はこんな感じだ。
回想を終えたオレは現実から、非現実へと移ろうとしていた。
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