第69話 縁の方向は
一方、その頃のルイスはというと……。
「カミン、ミルミッド侯爵家の取引先はどうなった?」
「んー? 大手は全部撤退したみたいだねぇ。もともと黒い噂も多かったし、皇家を敵にまわしてまで取引したくはないでしょー?」
ミルミッド侯爵家を皇家が良く思っていないという噂を流した
「それに、アザレアはさぁ。ジュリアのことイジメ過ぎたからねぇ。イジメていいのは俺だけなのにさー」
一瞬、笑みが引っ込んだカミンにルイスは溜め息を吐いた。
「そんなに大事なら、もっと優しくしてやればいいだろ」
「何言ってるのぉ? 俺の言葉に傷付くほど、嫉妬で狂うほど、可愛いんじゃん。リリちゃんのおかげでまともに戻っちゃったけどさぁ」
カミンの発言に、そこにいた者は皆、ジュリアを気の毒に思う。ある意味、ルイスより
「とにかく、ルイスの指示通りにちゃーんと噂は流しといたんだから、側近にしてよぉ? 俺の立場が
「分かってる」
逃げられないであろうジュリアを気の毒に思いながらも、自分も同じだとルイスは冷めた笑みを浮かべる。
「こえー。ああ言うのを類は友を呼ぶって言うんだろ?」
「メイス、少し黙っていた方が身のためですよ」
意味がわからないと顔をしかめるメイスにヒューラックは溜め息を吐き、シュナイは祈りを捧げた。
「おい、シュナイ。それはどういう意味だよ」
流石に不穏なものを感じたらしい。だが、時すでに遅し。指で指された方を振り向けば、笑顔のカミンが真後ろに立っている。
「メイスはさぁ。学習能力のないおバカさんなのかなー。確かにメイスと一緒にされるよりはマシだけど。ルイスほどじゃないからねぇ?」
「カミン。お前も俺に失礼だ」
「ルイスは他人に何と思われても気にしないからいいんだよぉ。俺は気になるからさー」
ヘラヘラと笑っているカミンは、今にも歌い出しそうなほどご機嫌だ。メイスで遊び倒す気満々なのである。
だが、それが行われることはなく、部屋の空気が急に重くなった。
「イザベルに何かあった」
ルイスはイザベルと繋がれている鎖のような縁をじっと見詰める。その縁はしっかりと繋がったままだが、新しい小さな傷が入っている。
(傷だけではない。縁の先がミルミッド侯爵家の方向を向いていない……)
「ゼン、付いてこい」
返事を聞く前にルイスは剣を取り、走り出す。その後ろには、遅れをとることなくローゼンがいる。
「俺が行っても足手まといだから、変わりにこいつに行かせる。何かあれば、使ってくれ」
いつもの伸ばした口調を引っ込めてカミンが叫ぶ。
「感謝する。騎士団が出動できる準備を頼む」
ルイスとローゼンは、豪邸のような馬小屋からそれぞれ白馬と黒馬に
その上にはカミンの
ルイスは迷う素振りもなく、縁を辿ってイザベルの元へと走っていく。
(気付くのが遅れた。どうか、無事でいてくれ)
その願いに縁が少し揺れた気がした。
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