第61話 胃のあたりが重い原因は──。


 アザレアのお茶会に向けて、色々と準備をしていれば、あっという間に2週間後の当日となった。



「ジュリアさんとメイルードさんのおかげで事前情報が入って助かったわね」


 (加えて、ルイス様のお味方がこんなにもおったとはのぅ。敵地に一人でも味方がおれば安心……くらいに思っとったが、7人は多すぎぬか? お茶会に来ておったのは30人じゃろ? ジュリアさんとメイルードさんも入れれば、3分の1は自身の敵を招いておることになるぞ。

 アザレアが阿呆あほうなのか、ルイス様が優秀すぎるのか……)


 当然ながら後者である。ルイスはミルミッド侯爵家の件に関しては、イザベルには内緒で動いていた。

 既にいつでも潰せる準備は完了しているものの、イザベルが遊びたいのだろうと待機している状況だ。



「事前情報でミルミッド家のご令嬢がまさか、深紅のドレスを着ることには驚きましたけどね。

 皇太子殿下のことを未だに諦めていなかったとは……。ですが、ご安心ください。イザベル様のドレスは殿下の瞳の色ですから! アクセサリーだって、殿下が送ってくださったバイオレットサファイアにシルバーチェーンにしましたし。

 絶対に負けることはありません。美しさも相まって大勝利です!!」


 ミーアが力説している隣で、心配で来ていたリリアンヌも頷いている。


「ベルリン。今日は悪役令嬢モードだよ! ベルリンの美しさなら、皆がひれ伏すから! ……私も行ったらやっぱり駄目だよね」


 (流石にお茶会は令嬢だけだから、殿下もオカメを着けろだなんてベルリンには言ってないよね……)


 イザベルのオカメは本人の趣味もあるが、ルイスが『男避けにイザベルに着けさせている』とリリアンヌは未だに信じており、ルイスを束縛男認定していたりする。


 そのため、ルイスの瞳の色のドレスを身に付けることをリリアンヌは直前まで反対していた。ただのルイスへのご褒美だと。

 だが、深紅のドレスに対抗するにはミーアの言う通り、ルイスの瞳の色が効果的だと判断し、渋々、濃い藤色が採用されたのだ。



 深紅のドレスは、社交界ではイザベルとルイスの思い出の色として有名で、その色を他の令嬢がまとうことを、学園に入学する前──前世の記憶が戻るまでのイザベルは許さなかった。


 そう、深紅のドレスはイザベルへの宣戦布告。アザレアはイザベルにルイスの婚約者に相応しいのは自分だと言外に言うつもりなのだ。



 だが、当のイザベルは婚約解消万歳!! どうぞお願いします!! 状態。宣戦布告されたところで、特に思うところはないはず。


 (宣戦布告のぅ。勝手にどうぞ……という気持ちじゃが、ルイス様はアザレアに興味もなさそうじゃな。……しかし、アザレアが后妃にでもなれば戦が起きそうではないか)


 ルイスとアザレアが隣り合う姿を想像して、胃のあたりが少し重く感じたが、イザベルはそれをお茶会への緊張だと片付ける。


 (大丈夫じゃ。小娘には負けぬ)


 イザベルは静かに立ち上がると、リリアンヌとミーアを見て微笑んだ。



「心配しなくても平気よ。宣戦布告はどうでも良いけれど、リリーとジュリアさん、メイルードさんのためにも、負けませんわ! おーほほほほほ……」


 高らかに笑うとイザベルはルイスが迎えに来ている馬車へと向かう。

 言われた通り、お茶会には一人で参加するけれど、送り迎えはルイス皇太子殿下というアザレアへの攻撃だ。


 (本当は一人で行きたかったのじゃが。皆がルイス様と行くようにと言うのじゃから仕方あるまい。

 これも、アザレア討伐の一手じゃからな)



 とろけるような瞳で自身を見詰めるルイスの手を取り、イザベルは馬車へと乗る。


「ベルリン、気を付けてね」

「いってらっしゃいませ」


 リリアンヌとミーアにイザベルは自信ありげな笑みを浮かべる。


「大船に乗ったつもりで待っててちょうだい。いってきますわ」



 皇室の馬車はイザベルとルイスを乗せて、ミルミッド侯爵家へと出発した。






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