第三章 贈ったオカメのその先に
第36話 プレゼントはオカメ
入学から
イザベルは相も変わらずオカメを愛用し、一月経った今では、周りも慣れ始め──。
「イザベル様。それいい加減、外してくれませんか?」
「お断りしますわ」
「普通に怖いですって。イザベル様の前の席の私の身にもなってください。
プリントを回すのに振り向く度、心臓が悲鳴をあげるんですよ。もはや、周りの人に迷惑です」
(((((リリアンヌ(さん)、よく言った(わ)))))
リリアンヌの意見に誰も何も言わなかったが、一部を除くクラスメイトが心の中で激しく同意した。
そう。残念ながら、一月経ったが同じ教室で毎日過ごすクラスメイトですら慣れていなかった。
「こんなに美しいのに……」
「残念ながら、それはイザベル様の主観であって、他の人には当てはまらないんです」
「そうかしら……」
困ったような声も仕草も美しいのに、オカメなため全てを台無しにする。
それがイザベルであり、1ーAの日常でもあった。
アリストクラット学園は三年制で、各クラスおよそ20人程で編成され、A~Eクラスに分けられる。
A~Dクラスは学力が良い順に分けられ、Aクラスがトップとなり、Eクラスのみ騎士科となっている。
学力が良いクラスは優秀な家庭教師を雇っている高位貴族の子息・子女ばかりでルイス、イザベル、ヒューラック、カミン、メイス、シュナイは当然のように同じAクラスだ。
側近候補の中で騎士団長の子息のローゼンだけはEクラスの騎士科かと思いきや、学園で習うことは既に習得済みのため模擬戦の時は参加するが、普段はルイス皇太子の護衛も兼ねてAクラスに所属している。
そして、リリアンヌもまた子爵家にも関わらずAクラスにいて、まさにキミコイの主要人物が揃い踏みなのだ。
因みに、学園への入学は卒業と共に婚姻が認められることになる年齢の15歳が多いが、カミンが17歳、ローゼンが16歳、シュナイが14歳と、概ね15歳入学というだけで明確な決まりはない。
特に今年は皇太子殿下が入学することもあり、少しでもお近づきになりたいと1~2年くらいであれば、ずらして入学させられている生徒も少なくなかった。
そんな学年で一番優秀なAクラスの悩みは、まさかのイザベルのオカメが怖すぎること。
それをどうにかしてクラスメイト達の心を更につかみたいリリアンヌはたった今、貴重な昼休憩を使ってオカメ外しに挑んでいたわけなのだ。
だが、結局イザベルは今日もオカメを外すことはなく、リリアンヌは心の中で溜め息をついた。
(また今日も外せなかった……。
でも、そのせいもあってイザベルとはそこそこ話すようになったわね。
それなのに、何でルイスとの関わりが増えないわけ。今だってそばにいるのにイザベルしか見てないし……。まさか、無駄な努力だったとか?
そもそも、イザベルは国一番の美女なんだから自信を持ってオカメ取りなさいよね。悪役が悪役らしくしてくれないと、ヒロインやりにくいんだよ。
お陰で攻略が上手くいかないじゃん!!
どうして悪役令嬢じゃなくて、
恨みがましい視線をリリアンヌはイザベルに送る。
すると、オカメの下のイザベルと視線が交わった気がして反射で愛想笑いをすれば、顔は見えないはずなのに笑われた気がした。
「貴女は違うのでしょうが、私は結構、貴女のことを好ましく思っていますわよ?」
驚きで表情を取り繕うのを忘れたリリアンヌを気にも止めず、イザベルはそっとリリアンヌへと手渡す。
「これ、私の気持ちですわ」
渡された物に、リリアンヌはわざとらしいほどの笑みを浮かべる。
「これは、イザベル様にとって大切なものですから受け取れません」
「遠慮なさらないで。これは、リリアンヌさんをイメージして職人に作ってもらったものですもの」
(私の言ったこと何にも理解してないじゃないのっっ!!
それに、オカメで私をイメージって馬鹿にしてるわけ!?)
心の中でリリアンヌが何と思おうと、ここまで言われてヒロインとして受け取らないわけにもいかず、仕方なしに礼を言う。
そんなリリアンヌに周囲は同情的な視線を向けた。
こうして、前世を含めて一度も欲しいなど思ったこともないオカメの面を、リリアンヌは手に入れた。
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