第27話 お面の令嬢、イザベル
マッカート公爵家の馬車が正門に着いただけでもざわついたのに、中から変な面をした怪しい人物が出てきたものだから、その場にいた者達が軽いパニックになったのは仕方がないことだろう。
そんな中、全く動揺しない者が一人。
「イザベル!」
「ルイス様、おはようございます。
お手紙ありがとうございました。お手数ですが、お願いしてもよろしいでしょうか」
「あぁ。イザベルを案内できる栄誉を貰えて嬉しい限りだ」
オカメのお面姿の女に笑顔で答えたルイスは、
二人の話を盗み聞きしていた生徒達は皆、自身の耳を疑った。そして、再びざわめき出す。
「あれが、イザベル様?」
「いやいや、ただのきちがいだろ!」
「階段から落ちて怪我したって噂だったけど、顔だったのか?」
「それならいい気味だわ」
「マッカート公爵令嬢の替え玉なんじゃない?」
「どちらにせよ、あの悪役令嬢じゃないならいいわ」
「悪役令嬢?」
「リリアンヌさんがヒロインなら、イザベル様は悪役令嬢じゃない」
「何にせよ、あの仮面は気味が悪いな」
「リリアンヌさんの邪魔よね。折角、殿下といい感じなのに」
そこへタイミングが良いんだか、悪いんだか、取り巻きとともにリリアンヌがやってきた。
宰相の子息のヒューラック・エゴスティー、
公爵家の嫡男のメイス・ヴィランテ、
侯爵家の三男のカミン・キュラク、
神官長の養子のシュナイ・リュクシム。
この場にはいないが、騎士団長の息子のローゼン・カフスの5人がルイス皇太子殿下の未来の側近だと言われている。
本来であればルイスに付き添うべきなのに、ローゼンを除いた4人は自身の立場も忘れて子爵令嬢のリリアンヌに我先にと話しかけている。
因みにローゼンはというと、この時間は日課の早朝トレーニング中だ。
当然、ルイスはこのことを知っているし、騎士になるには鍛練が重要なので「必要な時は声をかけるから気にするな」と申し訳なさそうにするローゼンに許可を出している。
本当は付き添うようにとルイスが言った訳ではないから、許可を取る義務はない。けれど、ローゼンは実直で忠実だった。
それはリリアンヌが現れ、心を奪われてからも変わらない。
例え、他のメンバーとリリアンヌの距離が自身がいない間に縮まろうとも、ルイスに忠誠を誓い、騎士としてルイスに仕えたいと心から思っていた。
「あっ!! ルイス様っっ」
リリアンヌはルイスを見つけると嬉しそうに名を呼んだ。
すると、ヒューラックは顔を歪め、メイスはルイスを睨み、カミンは底の知れない笑みを浮かべ、シュナイは顔を曇らせた。
そんな取り巻き達の様子など全く気にもせず、リリアンヌはルイスへととびきりの笑顔を向ける。
「ルイス様! おはようございます!!」
桃色の髪に黄金の瞳の可憐なリリアンヌの笑顔にその場にいた者は皆、頬を緩ませた。
当然ながら、ルイスの心は微塵も動かされてはいないのだが。
因みにイザベルはと言うと、
(元気な
と同い年にも関わらず、幼い子を見ているような気持ちになっていたのであった。
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