第14話 ルイスにとって手離せないもの
「でも……」
見られたくない。けれど、皇太子殿下に対して自身の行動が不敬であると理解しているイザベルの理性が諦めろと訴えている。
未だに視界は歪んでいるし、声は震えている。それでも、断るなんて選択肢はイザベルの中ではなかった。
(……呪いで三日三晩苦しめられた時に比べれば平気に決まっておる。あの時は悪夢の中で殺されては無理矢理
じゃが、それよりもわれの大事な人を何度も助けられずに殺されたのを見せられ続けたのが辛かった。
あの悪夢に比べれば何てことはない)
瞳を閉じ、ゆっくりと開いたイザベルに迷いはなかった。
そして、すっと顔をあげる。すると、イザベルとルイスの視線が交わった。
交わったものの、あれほど望んだにも関わらずルイスの表情は明らかに陰りをみせた。
「イザベル、ごめん」
あっという間にイザベルの顔はルイスの胸元へと閉じ込められる。ギュッと抱きしめられてはいるものの絶妙な力加減でイザベルは息苦しさはなかった。
(また間違えた。そんな顔をさせたかったわけじゃない)
イザベルが顔をあげた時、無表情で瞳は光をなくしていた。
自身の感情など不要と全てを諦めてただ従う。イザベルが小夜だった頃、芯の強い美しい女性ではあったが、時折このような顔をすることがあった。
(何のために今世では小夜に自分の意見が正しいと、俺相手でも我慢なんてしなくていいと思うように育てさせたのか。
これじゃあ、同じことの繰り返しだ)
ルイスは小夜が自身のせいで呪われて死んだのだと自覚していた。帝であった自身の許嫁にしたばかりに、帝の正妻の地位が欲しい者共に呪われたのだ。
だから、もう許してはもらえない、恨まれているのだろうと、恨んで欲しいと思っていた。
それなのに、小夜は死ぬ直前に「許嫁になれて幸せでした」と言ってくれた。
美しく、心優しい小夜。
それは自身を気遣ってのことだとも十分理解している。
だけど、嬉しかったのだ。散々辛い思いをさせたのに、良いことなんてなかったはずなのに、それでも幸せだったと言ってくれたことが。
(本当は、小夜を俺から解放するべきなんだろう。頭では分かってる。
だけど、無理だ。俺は小夜を……イザベルを手離せない)
「ごめん、ごめんな……」
(謝ったところで意思を変えるつもりなんてない。俺の人生にイザベルは不可欠で、イザベルのいない人生なんて何の意味もない。
今度こそ絶対に守るから、一番傍にいることを許してくれ)
「イザベルのことを愛しているんだ」
ルイスは苦しげに吐き出し、抱きしめた腕の力を少し強くした。
まるで、すがるかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます