第4話 イザベル、状況を整理する
一先ず落ち着いたイザベルは、自分のおかれた状況を整理することにした。
「私が死んで、この体を乗っ取った。あるいは転生したことには間違いがないようね」
そう言いながらイザベルの記憶を探ろうとすれば、驚くほど簡単に色々なことを思い出せた。
まず、今の名前は『
ここファビリアス帝国のマッカート公爵の娘だ。
爵位は高い順に、皇族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。今あげた貴族の他に多くの平民が存在する。
家族は父と母、そして二つ離れた兄が一人。兄のユナイは留学しており、イザベルとの仲はあまり良くない。
イザベルが我が儘を言った時に唯一苦言を呈するのがユナイであり、正論でねじ伏せるものだから、イザベルは兄のことが苦手なのだ。
そして、イザベルは十五歳。アリストクラット学園の新一年生として入学したばかり。
(ふむ、この世界には学園という学舎があるのじゃな。そこに三年通い、われは卒業と共に成人になる、と。
学問だけではなく、交流し、社交性を身につけるための場なのであろうな)
イザベルは一人頷き、更に思い出していく。自身の悪行を。
気に入らない使用人に手をあげることは日常茶飯事。
一度お茶会で着たドレスは、二度着ない。
装飾品も使いきれないほど購入し、散財を繰り返す。
自身よりも身分の低い者を軽視しており、平民に関しては汚いと
自分の婚約者であるルイス皇太子殿下に色目を使っただの、自身の色である深紅のドレスを着ただのと他の令嬢を迫害。
頭から熱い紅茶を浴びせる、暴漢に襲わせるなどして気に入らない令嬢を社交界から追い出したこともある。
あまりの性悪さにイザベルは青ざめた。
(われは何て取り返しのつかないことをしてきたのか……)
記憶が戻る前のイザベルがしたことは、既に取り返しがつかないことの方が多い。
「それでも、少しでも償わなくてはいけないわ」
記憶を思い出す限り、両親は自分に甘すぎる。イザベルの仕出かしたことは、全て相手の令嬢や使用人が悪いとイザベルを
(父上と母上に申したところで、われは悪くないと言うのみじゃろう。頼れるのは兄上だけじゃな。
兄上もそんなわれと両親に嫌気がさして留学したのやもしれぬ……)
本当は兄も頼らず一人で償うべきなのだろうが、イザベルと小夜の記憶を足してみてもどうするべきなのか分からなかった。
「一先ず、お兄様に手紙を書いてみましょう」
断られる可能性もあるが、何度でも苦言を言ってきた兄だ。力になってくれる可能性も少なからずある、とイザベルは判断した。
「あと、問題なのは……」
そう言いながらイザベルは目を伏せた。
その問題はイザベル個人のもの。小夜だった頃の記憶の影響で、絶対に権力に近づきたくないのである。
そんなイザベルの婚約者は、国の最高権力を行く行くは手にする男。
「婚約者が皇太子殿下だなんて、誰か嘘だと言ってちょうだい……」
頭を抱えて呟いたイザベルの言葉に答えるものは当然、誰もいなかった。
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