第5話 教室での攻防

〜舞視点〜


突然のバイオハザード

アニメでしか見た事がないその光景に、私は思考がフリーズした。


目の前で血が飛び散り、目の前で先生が殺され、吐き気が込み上げる


歯を食いしばってソレを我慢し、生きるために必死に思考する。


この真っ赤に染った地獄の世界で、生き延びて、夢を叶えるために









私は笑顔が大好きだ


皆が笑ってくれたら嬉しいし、私もいつか皆を笑顔に出来るようになりたいと思う。


アイドルにスカウトされた時は驚いた。

自分の容姿は比較的整っていると自覚していたが、別に自慢しようと思わない。


女の子なら美しくありたい、そんなあやふやな思いで美容に心がけることはあれど、ソレを自慢するほどじゃなかったからだ。


初めのうちは断った。

それでも少し興味が湧いて、有名なアイドルグループのコンサートに行った。


そこはとても笑顔が溢れていた。

素敵だった、夢が溢れていた。


中学2年の春、私の夢が出来上がりはじめた。


そこからは、頑張ってアイドルを調べて、勉強して、ダンスや歌も頑張って、有名所のアイドルを排出している会社も調べた。


オーディションも受けて、奇跡的に入れた時は嬉しかった。


そこからやれる努力は全部して、やっと世間に認知され始めた。


笑顔溢れる場所をつくる夢に近づいたと思った。


その、ハズだったのに…


目の前に広がる光景はまさに地獄

血と悲鳴が飛び交う終わった世界


誰かが突き飛ばされた。

サナちゃんだ


小鳥 沙那ことり さな、中学時代からの仲で、親友と言えるほど私たちは仲が良いと自負できる。


トロンと溶けそうなタレ目、栗色の髪は鮮やかなウェーブを描いている。


顔は可愛い系の美少女だ。小さな顔に大きな目、頬は柔らかそうな甘い曲線を描き、女の私でさえ見惚れそうだ。


身長は私より少し小さい147cmだが、胸に関しては、なかなかに凶悪な物を持っている。


私が落ち込めば優しく励ましてくれるし、話も面白く明るい子。

幼馴染の亜久津君が好きで、反応がとてもピュア、顔を赤らめながらアタフタする様はまさに天使だ。


明るく元気で、不思議と守りたくなる雰囲気がとても可愛い。そんな私の大切な親友。


気づけば体が動いていた。

先程まで固まって動けなかった体は軽く、イスを咄嗟に掴んで振りかぶる。


「サナちゃん!伏せて!!」


私の声に反応したサナちゃんはしっかりと伏せてくれた。


助走をつけながら大振りに振り切られたイスは、足がしっかりとゾンビの頭を捉え、打ち砕く。


手にはしっかりとした骨を砕いた感触がつたわり、引っ込んだはずの吐き気が私を襲った。


私が殺した


そう意識せざる負えない感触が、私の神経を撫で回す。


ハッと意識を浮上させ、辺りを見回す。

唖然とする私のクラスメイト、その目には先程まで浮かんでいた恐怖はない。


私は笑う


驚きが恐怖を上回った今がチャンスだ、今しかない。


自分を奮い立たせ、気合いを入れた。


夢が壊れた。

それでも私は新たな夢を見る。

いつかこの地獄から這い上がって、皆がまた笑顔になれるようにする。


綺麗ごとだ、無謀だ。

考えれば分かるだろう


弱い私が言った

このゾンビが溢れる世界でどうやって立ち上がる?学校がこんななのだ、外も同じだ。


政治も法も麻痺したハズだ。

いずれ電気や水だって止まるかもしれない。娯楽や趣味は平和だからできること、アイドルなんて夢のまた夢。


だからって…



諦めるのは嫌だ




先のことなんて知らない、私は今生きるのに全力だ。


だから少しだけ、ほんの少しでいいから、足を踏み出す勇気をください





これは、アニメでたった1話しか出られなかった夢を追う少女のまさに死闘の物語


ただヒロインの親友として死に、世界の残酷さをインパクト付ける役割しか与えられなかった少女の奮闘記だ。


せめてこの物語にて報われることを願う。





血の匂いに釣られたのか、廊下からウヨウヨと沢山のゾンビが集まってきた。


旧校舎への避難はまだ半分ほど、男子の皆が女子を優先して逃がしてくれていたので、後はもう男子がほとんどだ。

軽々と大きな段差を飛び越える男子を見ると、少し羨ましい。

この調子なら早く逃げれるだろう


「舞ちゃんも早く逃げよ!!」


私の手を取るサナちゃん

でもだめだ、私が言い出したのだ、逃げるわけには行かない。


「私は最後に出ますよ、言い出しっぺですからね」


「じゃあ私も残る!」

「それはちょっと…邪魔?」

「え?!酷いぃ!!」


二人でクスリと笑う

バリケードを建ててはいるが、あの人数なら侵入されるのも時間の問題だ


私は再び前を向く

サナちゃんは私に一言死なないでと言うと、亜久津君に連れられ、旧校舎に続く屋根に飛び降りた。


それと同時に教室のドアが破られる


「クソっ入ってくるぞ!急げ!!」


男子の誰かが叫んだ。

皆ハサミやイスを持ち上げ、近づいてきたゾンビから順に殴って、刺して、撃退する。


しばらくそんな事を続けると、クラスメイトのほとんどが避難を完了した。

女子の一人が危なく噛まれそうになっていたが、私のフォローが間に合ったので怪我はしていない。


咄嗟に体を割り込ませて、ゾンビを倒した甲斐があるというものだ。


「はぁ、はぁはぁ…」


返り血を拭いながら私は手の甲についた血に少しだけ顔を引き攣らせた。


やっぱり血を見ると、嫌な気分になる。

大量の血がついた手を見ないようにしながら、私は辺りを見渡した。


残るっているのは、戦闘をしていた私や運動部の男女だ。


その中でも体格が大きい男子が、机を持って突進する


コレは予め決めていた作戦だ、机を盾にゾンビを再び廊下におし出し、掃除ロッカーを横に倒す。


大きな音をたてながら、ロッカーは教室のドアを塞ぐ。反対側のドアは、先生用の無駄に重い机を置いた。

この時ばかりは担任の先生に感謝したほどだ、生きて再会できたらお礼を言おうと思う。


一番の山場を越えた私達は、大きく息を吐き出した。


残っていたメンバーも、思い思いに作戦成功を喜び合っていた。


「みんな怪我はないか?コレで噛まれてたら洒落にならんからな!!」


元気の良さそうな男子がそう言うと、ドッと笑い声がし始める


「俺外傷なし!」

「タイチョー足首をくじきました〜」

「挫いたやつはそんな飛び跳ねられないわ!」

「うわ、大石〜!けびょーじゃんwww」

「あ、バレた?」

「「「「あはははは!!」」」」


微笑ましい光景に私は頬が緩む、未だに危機的状況なのには変わらなが、この瞬間だけはなんだか平和だった


「あ、そうだ!一葉さんも大丈夫?さっき私がヘマしちゃった時助けてくれてありがとう。えへへっ改めてお礼言いたくてさ!」


クラスメイトの小紫さんが声を掛けてきた。

彼女はこの場に残ると言う危険な役割を、引き受けてくれた陸上部の女の子だ。


私も彼女の身のこなしには助かっていた。

私は小紫さんに笑顔で答えようと手を挙げる


「だいじょ…」


その瞬間、場が凍りついた


返事をしようと挙げた手には、小指の付け根にクッキリと大きな歯型が残っている。


「え…?」


小紫さんがたまらず声を漏らした。


激しい戦闘だった、私も必死だったし、噛まれていて気づかないことなどあったかもしれない。


「わ、私のせいだよね?一葉さん安全第一で戦ってたしさ!噛まれるタイミングなんて私を庇った時くらいしかないじゃん!」


顔を真っ青にした小紫さんが叫んだ。


「小紫さんのせいじゃないですよ!気づかなかっただけで、私がヘマしただけですって…!」


正直現実味が湧かなかった。

噛まれた場所は、内出血で青く腫れており痛々しい。


だが言うほど痛くは無いし、たったこれだけの怪我でゾンビ化するのかも疑わしい。


「おい、噛まれた奴って…、どうなるんだ?」

「それは…、ゾンビになるんだろ」

「おいバカ!辞めろって!」


私は本当にゾンビになるのだろうか?


「つまり私は一緒に行けなくなっちゃいましたね。いつゾンビになっちゃうかわかんないですし、血も出てるから、ゾンビが集まってきてしまいますしね」


何気なく、分析するように発した発言は、この場を葬式ムードにするのには十分だった。




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どうも作者です

さて、次回はちょい胸糞です。


しかし、この世界にはゾンビに無駄に詳しい少年がいます。

それがアニメのシナリオにどんな影響をもたらすのか、ソレは誰にも分かりません


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\\\\ウオオオ(っ`-´c)オオオオ////

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