第48話 これからは

 ――エレインとルーネは二人並んでベッドに横になり、落ち着いた時間を過ごしていた。


「……ごめんなさい、お身体の方は大丈夫ですか?」

「心配ない、いい運動にはなった」

「いい運動って……」


 エレインの言葉に、恥ずかしそうにして顔を手で覆うルーネ。

 少しばかり激しい行為に及んだために心配しているのだろうが、この程度でどうにかなるほど軟な鍛え方はしていない。

 とはいえ、話題は変えた方がよさそうだ。


「アネッタは……まだ戻ってきていないようだな」

「そうですね。色々と頼んでしまいましたから」

「……今後についてだが、私は王国を離れようと思っている」

「! 旅に出る、ということですか?」

「そうなるな。今回の件で、私の名はまた王国内で多く知られることになった――実のところ、裏の世界ではさらに多くの懸賞もかかっていると聞く」

「懸賞……!? どうしてエレイン様に……」

「そういうものだ、私のしたことが誰にとってもいいこととは限らない」


 フォレンと繋がっていた貴族や商人は少なくないだろう――そのパイプを失ったことで、エレインに恨みを持つ者だって当然出てくる。


「……フォレン王子を斬ったのは私です。エレイン様のしたことでは――」

「君に任せたのは事実だが、どのみち私が斬るつもりだった。王も含めて、私が全て処理したと思っているし、それでいいと考えている」

「それで、エレイン様が王国を離れることになるなんて……」

「ちょうどいい機会さ。私が多くの者に恐れらている。一度ついたイメージは、もう消えることもない。私が聞きたいのは、君はどうするか、という話だ」

「私、ですか?」

「どこへ向かうとも知れない旅だ。これを機に、君は自分の国に戻るという選択もある」

「……エレイン様にとって、私が傍にいるのは負担になりますか?」

「ならない。一緒にいてほしいが、君は王族という立場がある――だから、改めて確認だ。君はどうしたい?」


 エレインはもう、取り繕うような質問はしない。

 ルーネはバーフィリア王国の王女――その立場は変わらないし、今度こそ自由になったのだ。

 彼女のことを大切に思っているからこそ、意思を尊重したい。

 お互いに想いを確認したとして、この問題は別の話だ。


「私の気持ちは、もう変わりません」


 ルーネは迷うことなく、エレインの頬に手を触れると、


「この先、何があるのか分かりません。けれど、ここでエレイン様の傍を離れることを選べば、きっと私は生涯後悔することになります。何が正しいのかなんて、私には分かりませんが、どうしたいのか聞かれたら答えた一つです――私も、連れて行ってください」

「そうか。なら、これからはずっと一緒だ」


 エレインもまた、ルーネの頬に手を触れると、互いに吸い寄せられるように口づけを交わす。

 このまま先ほどの続きを始めそうな勢いであったが、ルーネが思い出したように口を開く。


「……そう言えば、どうして私の居場所が分かったんですか?」

「ああ、そのことか」


 ルーネからすれば、エレインはカムイとの戦いを経て――どうなったのか分かっていないだろう。


「敵側の魔導師から交渉を持ち掛けられた。君の居場所を教える代わりに見逃せ、とな」

「! そんなことが……」


 カムイを含めた王国の騎士達との戦い――エレインはその時に大きく負傷したが、結果はエレインの勝利に終わっている。

 ただし、王国の騎士達から情報を聞き出したわけではない。

 エレインはただ一人だけ、交渉に応じて見逃した形になっている。


(……見逃した、というのも正しいか分からないが)


 落ち着いた時間になって、改めてあの時の戦いを思い出す――

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