第41話 討ち取った者には
砦の中心部にて、フォレンは側近であるグレスと共に王宮への侵攻計画について話していた。
「王都に入って王宮まで真っすぐ進む。夜間の奇襲であれば、この人数でも十分だな」
「平時の王宮の守りであれば、成功する可能性は高いかと思われます」
「ならず者も多いが……とはいえ、戦力としては事足りるな。お前のおかげで手練れの騎士も随分とこちら側についてくれた」
「野心を持つ者は少なくありません、この私も含めて」
「ふっ、そうか。俺が王となった時には、お前の願いなら何でも叶えてやるさ」
「ありがたきお言葉――」
「き、緊急の伝令ですっ!」
話し合っているところに、慌てた様子で一人の兵士がやってきた。
「どうした、そんなに慌てて……」
「て、敵襲です! 北方よりやってきた敵により、見張りの兵士がすでに数名やられました!」
「! 北方……? 王都からだと!? バカな、動きを気取られたのか……!?」
「いえ、それが……敵は一人だけとのことで……」
「……は? 一人……? ふはははは! なんだ、それは。どこぞのバカが、何を嗅ぎつけてきたのか知らないが、喧嘩を吹っかけてきたとでもいうのか? そんな奴、さっさと斬り殺して終わらせるんだ。我々は大業を成すのだからな」
「し、しかし……相手はあのエレイン・オーシアンとのことで」
その言葉を聞いた瞬間、フォレンの顔色が変わる。
何故なら、エレインはすでにこの世にいないはずだからだ。
「エレイン、だと……? どういうことだ!? あの魔導師の報告では、エレインは始末したと言っていたぞ……!?」
つい先刻、フォレンの下へやってきた魔導師――すなわち、エレインを結界魔法に閉じ込めていた者がやってきて、無事に彼女を始末したという報告をしてきたのだ。
だからこそ、安心して今晩の計画を実行に移すことになったのだが、今ここにエレインがやってきているという。
「あの魔導師……名は確か、オディオールと言いましたか。どうやら、我々に嘘の報告をしたようですね」
「……っ! なら、カムイはどうなった! 手練れの騎士を五人も使ってエレインを始末に向かわせたんだぞ!」
「カムイ殿の首は、エレインが持ってきていたようで……っ」
「な、なにぃ……?」
フォレンの表情が青ざめる。
カムイは協力者の中でも最高戦力――エレインを討てる可能性が最も高い人物であった。
その上で、過剰とも言えるほどに少数精鋭の、エレインを殺すために用意した部隊だったはずなのだ。
ここにエレインがやってきたということは、魔導師――オディオールはエレイン側に寝返り、この場所を教えたということだろう。
「クソッ、奴が生きているなら……狙いはルーネか……? せっかく手に入れたのに――」
「何を、慌てる必要がございますか?」
至って冷静に、グレスが言い放つ。
「こちらの数は総勢で二千五百――向こうはたった一人。エレインは千の兵士に相当する……その言葉通りであるのなら、戦力差は圧倒的です。確かに彼女は強いですが、カムイ達と戦って無傷とは到底思えない。人間には限界があるのです」
「……一人、一人か。確かに、エレインだけでやってきたのなら、まだ計画が漏れたわけではない――奴を始末できれば、何ら問題ない、ということだな?」
「その通り。多少の犠牲はやむなしでしょうが、エレインの始末を最優先とすべきかと」
「分かった。ここまでお前を信じてきたんだ。全員に伝えろ――襲撃者はエレイン・オーシアン一人だ。討ち取った者には、一生遊んで暮らせるだけの褒美をやる!」
「……はっ」
フォレンの伝令は、すぐに砦内にいる者達に伝わる。
相手はエレイン――最強と言うべき存在だが、怪我を負っているという情報と、討ち取った際の褒美。
天秤にかけて、多くの者の士気を上げた。だが、
「一生遊んで暮らせる? バカ言え、あんなのと戦ったら、人生がここで終わっちまうだろ」
――エレインの強さを知る者の中には、フォレンを見限って静かに砦を離れる者も少なくはなかった。
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