第37話 容赦はしない
――刃と刃がぶつかり合うと、薄暗い森の中に火花が散った。
エレインとカムイの視線が交差し、睨み合う。
カムイはその剣術のみでSランクの冒険者に上り詰めた男――すなわち、エレインと同じだ。
エレインもまた、圧倒的な剣術を以て今の地位に辿り着いている。
同じランクの冒険者でも、魔法を得意とする者や、多種多様な武器を扱う者――様々だ。
だが、いずれも圧倒的な強者であることに変わりはない。
そして、冒険者ギルドはエレインとカムイを同格の剣士として見ている。
エレインは他の冒険者のことなど気にしないが、当然中にはカムイのようにどちらが上であるかにこだわっている者もいる。
つまり、エレインとの戦いの場は彼にとっての望むところなのだ。
「さすがに隙のない……いや、少しでも気を抜けば斬られるのは僕の方か」
「迷惑極まりない話だ。私と戦うためだけに、ここまでするとはな」
「こうでもしないと君は勝負を受けてくれないだろう?」
「面倒ごとは嫌いなのでな……。だが、挑んでくるのであれば拒否はしない」
「それは本気の君じゃない。本気の君を引き出すには、大切なものでも賭けなければならないと思った。ちょうどいいタイミングだったよ、君は随分と彼女のことを大切に思っているようだからね」
確かに、カムイの言う通りだ――エレインはルーネのことを大切に思っている。
それも、彼女自身が考えている以上に、だ。
本気を出させるのには十分な理由だ。
実際、エレインはカムイを斬るつもりで戦っている。
だが、さすがにカムイも実力者――エレインと正面から斬り合うことができている。
(さすがにやるな……なるべく早く終わらせるつもりだが)
ルーネは一人、取り残されている状況にある。
エレインを引き離す作戦であるのなら、間違いなく成功はしている。
ここでエレインを倒す算段まで計算に入れているのだろうが、
「戦いの最中に考えごとをするな、僕だけを見ていろ」
一撃。
カムイの放った刃が、エレインの頬を掠める。
つぅ、と赤色の血が流れ――エレインが傷を負った。
「そうだな。まずはお前を斬らなければならない」
「……っ!」
エレインのカウンター。
脇腹の辺りを深く斬り、そのまま背後を取る。
振り返りざまにカムイは刀を振るうが、わずかにエレインには届かない。
そのまま、カムイを両断するように刃を振り下ろそうとする。
「!」
ずぶりと、足元が沼に嵌ったように足を取られ、わずかに動きが遅れた。
その一瞬を、カムイが見逃すことはない。
エレインの肩に一撃。
先ほど、カムイに与えた一撃よりも深く、大きな出血がある。
「ちっ、これほどの攻撃を受けたのは久しぶりだ」
「……はっ、それは僕も同じことだ。思わず反射的に斬りかかってしまったが……一対一なら、僕は死んでいたな」
やや不服そうな表情で、カムイは視線をどこかしらに向ける。
この空間を作り出した人物――おそらく、地面を沼のように変化させることもできるのだろう。
彼の役目もまた、エレインを始末することにある。
「差し出がましい真似かとは思いましたが……もう十分でしょう? エレイン・オーシアンとまともに戦えば、負けるのはあなた。それが分かったではないですか」
「……気に入らない言葉だが、その通りだ。確かに、僕は今の一撃できっと死んでいた――だから、ここからは剣士として戦うな、と?」
「元より一対一での戦いはあなたが望んだだけのこと。依頼の内容は『エレイン・オーシアンの始末』――あなたが生きている状況が、最も成功する確率が高い。故に」
言葉と共に、次々と騎士達が姿を現す。
いずれも、王宮で姿を見たことのある名のある騎士ばかりだ。
「アーノルドではなく、フォレンについたか。その選択は賢いとは思えないが」
「冒険者風情にへつらう弱き王は不要――それが、ここにいる我々の総意である」
エレインの言葉に、騎士の一人が答える。
全員が裏切ったというわけではなさそうだが元々、アーノルドに対し不満を持っていた連中が集まった、というところか。
腕の立つ騎士を揃え、さらには空間魔法を自在に操る魔導師にエレインと斬り合うことができる剣士――カムイ。
状況を見るに、本当にエレインを仕留めようという本気度が伝わってくる。
魔導師についてはエレインに直接仕掛けることはあまりしないが、先ほどのように戦いの最中に介入されるのは非常に厄介だ。
いずれの騎士も、カムイには劣るが冒険者で言えばおそらく『A』ランクには匹敵するであろう者が五名。
少数精鋭、エレインを討伐するための編成を組んだのだろう。
カムイは納得していない様子であったが、
「確かに……一対一の希望は叶えられて、僕は負けた、か。それなら、ここからは仕事として割り切るべきか」
「それがお前達の選んだ道か。なら、私もここからは容赦はしない」
エレインが剣を構えると、全員が同時に動き出した。
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