第24話 背中を流す

 ――後ろで服を脱ぐ音が聞こえる。

 脱衣所に、エレインとルーネはいた。

 これから風呂に入るのだから当然のことなのだが、エレインは動揺して自身の服のボタンを中々外せずにいる。

 女性同士、一緒に風呂に入るなど特段、珍しい話でもない。

 エレインとて、気にもならない相手ならば、こんなことにはならないだろう。

 だが――ルーネとなると、話は別だ。

 好きな人の裸を見ることになるわけで、いきなり越えなければならないハードルが高すぎる。


「あの、エレイン様……?」


 声をかけられて、振り返ると――そこにはすでに、一糸纏わぬ姿となったルーネがいた。

 布で大事なところは隠れてはいるが、真っ白な肌がよく見える。

 エレインは表情を崩すことなく、至って冷静に口を開いた。


「綺麗だ」

「へ……?」

「いや、すまない。何でもない」


 思わず見惚れてしまい、口走ってしまった。

 もちろん、綺麗だというのは本音だが、裸になった彼女に向かって今、言うべきことではないと考えた。

 何せ、頬を赤らめたルーネはどう見ても恥ずかしがっている――彼女が平気そうだったのなら、エレインもまた幾分かマシだったのだが、おそらくはエレイン以上にルーネの方が緊張しているのだ。

 だが、彼女をこれ以上、一人で裸のまま待たせておくわけにはいかない。

 エレインはすぐに服を脱ぎ捨てるように放った。

 血塗れの服はどのみち、洗うよりは買い替えた方がいいかもしれない。

 適当に放っておき、エレインはルーネの方を見ないようにしながら、言う。


「入るぞ」

「は、はいっ」


 脱衣所から浴室へ。

 一人で利用するには中々の広さだが、二人となると狭いようにも感じる空間。

 少し動けば、肌と肌が触れ合う距離だが、エレインはSランクの冒険者だ――ルーネに触れることなく、狭いところで動くのは容易い。


「お背中、流しますね」


 ――かと思えば、ルーネに先制されてしまった。

 すでに彼女は位置についてしまっており、ここで断るのはおそらく気落ちさせてしまうことになる。

 故に、エレインは努めて冷静に言い放つ。


「ああ、頼む」


 ポーカーフェイスであるために、エレインが内心動揺していることは、きっとルーネには伝わっていない。

 好きな人が背後にいて、背中を流す――少し前のエレインであれば、およそ想像もできなかった展開だ。

 エレインは人を好きになったことがないのだから当たり前で、その相手が女の子になるとは考えもしていない。

 実際のところ、背中はそんなに汚れてはいないのだが、ルーネが気を遣ったのだろう。

 エレインからは見えないが、一生懸命に背中を流そうとするルーネの動きが伝わってくる。

 しばし耐えた後に、今度はエレインが立ち上がり、


「次は私が流そう」

「え、わ、私は大丈夫ですよ」

「私だけ流してもらうわけにもいかないだろう。前に座ってくれ」

「は、はい」


 ちょこん、とルーネがエレインの前に座った。

 身長差はあるが――改めてみると、ルーネは随分と小さく見える。

 当然だが、乱暴に背中を流すことはなく、エレインは優しく、ルーネの背中に触れ、


「ひゃんっ」


 そんな、可愛らしい声を聞くことになった。

 

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