第23話 提案

 襲われたついでに、ある程度の魔物は狩り終えたエレインは、ルーネと共に自宅へと戻っていた。

 まだ買ったばかりの家を血で汚すことになりそうだったが、すでに魔物の血は十分に乾いている。

 ここに戻るまでに、何人かすれ違った人はぎょっとした顔をしていたが。


「君が先に身体を洗うといい」

「エレイン様の方が汚れていらっしゃいます」


 自宅には風呂がある――それなりの値段がするだけはあるが、エレインはルーネとどちらが先に入るかで軽く揉めていた。


「私のことはいい。外で適当に待っているさ」

「それなら、私の方が――」

「君を一人にするつもりはない」

「っ」


 エレインはルーネに向かって、はっきりと言い放つ。

 狙われているのは彼女であり、家の側ならすぐに気付くことはできるだろうが、それでも一人にはできない。

 守りきる自信はあっても、不安はあるのだ。


(私は、彼女に依存しているな)


 一目惚れをして、買ったくらいだ。

 ルーネが仮に自らの意思でエレインの元を離れると言うのなら、止めるつもりはない。……ないのだが、側にいる間は、やはり彼女のことは大事にしたい。

 だから、奴隷だとかそういうのは関係なく、エレインはルーネを優先させたいのだ。

 これは、エレインのわがままに過ぎない。

 他方、ルーネはルーネで――エレインのことを考えている。

 優しくしてくれる彼女の負担になりたくない、と思っているのだ。

 互いに想いあっているからこそ、こうして定期的に意見が食い違ってしまう。


「……分かりました。では、わたしから一つ提案があります」

「提案?」


 エレインは少し驚いた表情を見せる。

 どうあれ、最終的にはエレインの意見を受け入れてくれる――そう思っていたが、ルーネがそんな風に切り出したのだ。

 真剣な表情で切り出したのに、ルーネは何故か視線を泳がせ、伏し目がちに口を開く。


「……りませんか?」

「……?」


 あまりに声が小さかったために、エレインは聞き直そうと彼女に近づく。

 すると、ルーネは少しだけ後ろに下がった。


「……」

「……」


 わずかな静寂。せっかくルーネが提案してくれるなら聞きたいと、エレインは黙っていた。

 しばらくして、小さく深呼吸をすると、


「い、一緒にお風呂に、入りませんか?」


 頬を紅潮させ、恥ずかしそうにしながら、ルーネは言った。

 両手も落ち着かない様子で擦り合わせているところを見ると、やはり相当勇気を持って提案しているようだ。

 ――同じ性別同士で入るなど、別に大したことはない。

 そのはずなのに、ルーネは恥ずかしがり、エレインは表情を変えずとも動揺していた。


(一緒に……? 私と、ルーネが?)


 同じベッドで寝る、という話もしていたが、まさか風呂まで一緒とは。

 さすがにエレインも考えておらず、すぐに返答ができない。


「や、やっぱり嫌ですよね――」

「いや、そうしよう」


 ルーネの言葉を遮って、エレインは同意した。

 せっかく彼女が提案してくれたのだから、それをうけよう――問題は、エレインが耐えられるかどうか、だ。

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