第19話 決定事項

「久しぶりだな、こういう手合いは」


 霧に包まれた周囲の森を見ながら、エレインは冷静に呟いた。

 つい先日――エレインかあるいはルーネを狙った刺客がやってきたばかり。

 これほど早くやってくるとは、エレインも予想はしていなかった。

 エレインを相手に、直接仕掛けてくる相手は中々いない。


「こ、この霧は……?」

「おそらく水属性の魔法だな。この一帯は霧に覆われているだろう」

「魔法……!? どうしてこんなところで……」


 ルーネはかなり驚いている様子だ。

 彼女には狙われる理由が分からない、もしくはない、といったところか。

 しかし、ルーネを買ってすぐに二人に襲われたことを考えると十中八九、彼女が狙いなのだろう。

 最初に声を発していない、男は姿を現すこともなく、黙ったままだ。


「ルーネ、私から離れるな」


 ぐっ、と彼女の身体を引き寄せ、エレインは腰に下げた剣を抜き放つ。

 視界はほんの数メートル先すら分からない状況だが、いくつか気配は感じる――人ではなく、魔物のものだ。


「なるほど、そういうことか」

「な、何か分かったんですか?」

「霧に乗じて私達を襲うつもりなのだろうが、どうやらここにいる魔物も利用する気のようだ」

「それって、どういう――きゃっ!?」


 ルーネの身体を抱えたまま、エレインは後方へと跳んだ。

 すると、先ほどいた場所の地面から、巨大な蟲が姿を現す。


「『サイレント・ワーム』。音もなく動ける魔物だ。その上、視界も満足にない状況――こいつにとっては最高の狩場だな」

「ど、どうやってくるのが分かったんです……!?」

「勘だな」

「勘……!?」

「まあ、気配というやつだ。何となく来るのは分かる――それ、後ろからもだ」


 言葉と同時に、後方からやってきたのは狼の魔物だ。

 視界が使えない状況でも、匂いで分かるのだろう。

 エレインはギリギリのところでかわし、森の中を走り始める。


「まずはこの霧を抜ける」

「あ、あの! わたし、自分で走れます……!」

「いつもならその願いを聞き入れるが、今はダメだ。はぐれたら相手の思う壺だからな」

「エ、エレイン様は相手が何者か、知っているんですか……!?」

「さて、な。私が聞きたいくらいだが、一つ決まっていることがある」

「え――」


 エレインの正面に、大きな熊の魔物が姿を現した。

 先ほどの二体の魔物も、この一帯が本来の生息地ではないはず――だが、今はそのことについて考えている暇はない。

 巨大な腕をエレインに向かって振り下ろそうとするが、その前にエレインは熊の魔物を横切っていく。

 ピッ、と剣を振るって血を掃うと、熊の魔物はそのまま腹部を押さえるようにして倒れ伏した。


「この霧を作り出した奴は――斬る。これは決定事項だ」


 狙いがエレインではなくルーネであるのなら、容赦はもうできない。

 エレインは鋭い視線で、霧の奥底にいるはずの『敵』を見据えた。

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