第17話 冒険者

 意外と早く用事が済み、まだ昼下がりの時間――後ほど購入したマットは家に届けられる予定だが、この後の予定は特に決めていなかった。


「ルーネ、どこか行きたいところはないか?」

「行きたいところ、ですか。えっと……」


 ルーネは考え込むような仕草を見せるが、中々答えは返ってこない。

 ――思えば、彼女は王都のことなど知らないのだ。

 しかし、王都を回るのは人混みをあまり好まない彼女にとってはどうなのだろう。

 一応、人の少ない場所を選べば――そうも考えたが、エレイン自身が王都をあまり回ることがないため、それほど詳しくはなかった。


(いっそ、案内人でもいれば苦労はしないのだが……)

「そう言えば、山の方でいくつかお仕事を受けられたのでは?」

「ん、確かに、急ぎではないが、仕事はあるな」


 普段のエレインなら、よほど急の要件でない限りは受けたばかりの仕事に向かうことはない。

 仕事にはある程度優先順位をつけつつ、受けた順番で処理をしていくことが多いからだ。

 ――とはいえ、せっかくこの辺りに家を持ったのだから、できる仕事はさっさと終わらせるのも悪くはない。


「そうだな。どのみち予定もなかったし、いくつか依頼を終わらせに行くか」

「! はい、そうしましょうっ」


 ルーネは笑顔で頷く。

 意外と、彼女の方が冒険者の仕事には積極的なのかもしれない。

 現状、冒険者として登録はしていないが、エレインの紹介があれば奴隷であっても登録はできる。


「君は、冒険者の仕事には興味あるか?」

「冒険者の、ですか。困っている人の助けになる仕事も多いですし、尊敬できると思います」

「そういう意味ではなく、君は冒険者になるつもりはないか、ということだ」

「わたしですか? 考えたこともないです……今は、奴隷の身ですから」

「私がギルドに話せば、冒険者として登録できるだろう。身分など気にしなくていい」

「……なるほど、そういうこともできるんですね」

「別に、すぐに登録しなければならないということもない。せっかくだから、考えておいてくれ」

「分かりました、ありがとうございます」


 ルーネの表情を見る限り、前向きには考えてくれそうだ。

 エレインとルーネは二人で、北方の森の方へと向かう。

 最近、その付近で魔物が増えているらしく、その駆除の依頼があった。

 あまり魔物が増え続けると、森から王都の方までやってくる可能性が高まるからだ。

 北方の門までの道のりは、田畑が多く静かだった。

 時折、すれ違う人も作物を馬車に積んで運んでおり、王都の中心部に比べるとかなり落ち着いている。


「……」


 ふと、エレインはすれ違った馬車の方を確認するように、振り返った。


「? どうかされましたか?」

「いや、今の馬車は何を運んでいたのかと思ってな」

「なんでしょう……? 中は見えませんでしたね」

「そうだな――まあ、いい。急ぐわけでもないから、景色でも見ながら行くか」

「そうですね、せっかくこんなにいい場所を歩いているわけですし」


 どこか、王都の人が多い場所を歩いていた時と比べると、雰囲気が明るくなっていた。

 ひょっとしたら、元々はこういう場所で暮らしていたのか――あるいは、自然のある場所を好んでいるのか。

 一先ず、気に入ってくれたようでよかった、とエレインは安心する。

 二人揃って、景色を眺めつつ目的地へと向かった。

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