第16話 本心だから

 ベッドに敷くためのマットを購入するため、エレインはルーネと共に一度、家を出ていた。

 家から少し離れているが、羊の魔物の毛を使って作った布団などを取り扱っている店がある。

 歩いて二人で向かっているが、エレインとルーネは互いに沈黙したまま、言葉を交わさなかった。


(……一緒に寝るのか、ルーネと)


 エレインの頭の中は、先ほどの彼女の発言でいっぱいだった。同性で同じベッドで寝る――特に、大きな問題があるわけではない。

 だが、エレインにとっては大きな問題がある。

 何せ、エレインはルーネに惚れているのだ。

 全く表情には出さないが、彼女のことを可愛いと思っているし、常に近くで愛でたいとも考えている。

 しかし、下手に手を出すと嫌われるかもしれない――そう思って、エレインはルーネに対しては奥手になっていた。

 普段通りの態度で接することはできるが、それ以上のことはできていない。だが、


「君がいいのなら、一緒に寝るとしよう」


 先ほど、エレインはルーネの提案を受け入れた。受け入れてしまったのだ。

 極力、彼女が望むことを受け入れることにしよう――そう考えていたからこそ、後先を考えない返事になってしまっていた。

 エレインもそうだが、ルーネも自分からあまり話すタイプではないようで、結果的にやや気まずい雰囲気のまま、二人並んで歩く形になっている。


(……そもそも、私は彼女をどうしたいのだろうな)


 不意に、そんなことをエレインは考え始める。

 確かにルーネのことを半ば勢いで買ったと言えるが、決して安い額ではないこともまた、エレインは理解している。

 たとえば彼女を自由にしたら、元王族であったのだから、国に帰りたいと思うのだろうか。

 今のルーネにそれを聞いたところで、きっと『帰りたい』とは言わないのだろうが――


「あの、エレイン様」

「! どうした?」


 不意にルーネに声をかけられ、エレインは立ち止まる。


「その……一緒に寝る、という提案ですが……ご迷惑ではなかったですか?」

「何故、そう思う?」

「いえ、先ほどからあまり、その、お話をされないので」


 どうやら黙っていたためにルーネを不安にさせてしまったらしい。

 エレインはすぐに答える。


「すまない、考え事をしていただけだ。迷惑なんてことはない」

「そうだと、いいのですが……」


 エレインの言葉を受けても、ルーネは少し納得のできない表情を浮かべていた。

 このまま歩いていても、やはり気まずい雰囲気は続いてしまうのだろう。なら、


「私は……君と一緒のベッドで寝たいと思っている。これは嘘偽りのない本音だ」

「……!」


 ルーネは目を丸くしていたが、すぐに顔を赤くして俯き加減に頷いた。

 やはり、真剣に言えば通じる――それが分かっただけでも良かったが、再び歩き出したエレインも口元を押さえながら、表情は見られないようにしていた。


(……絶対に、私のセリフじゃないな、今のは)


 言ってから後悔するが、取り消すわけにもいかない――だって、それが本心なのだから。

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