第15話 対等でいたい
エレインは早々に契約を終えると、ついでに冒険者ギルドでいくつかの依頼を確認した。
これといって目新しい依頼はなかったが、せっかくなので購入した家の近くにある山間での魔物狩りの依頼をいくつか受けておく。
魔物の素材については常に需要があって、基本的にはずっと仕事の募集がある、といった感じだ。
家については即日引き渡しとさせてもらったので、これから向かう。
基本的には数日かかるものなのだが、ギルド側に頼めば問題ない。
ちょうど近々で清掃なども行っていたらしく、状態としてはかなりいいらしい。
その辺り、ギルドが管理しているだけあって丁寧なようだ。
エレインは早速、ルーネを連れて購入した家へと向かった。
王都の北側になると、中心部に比べて土地を広く持ち、田畑で生計を立てている者が見られるようになる。
人口が少なく、作物を取り扱っている影響で時折、魔物が侵入してくることがあるようだ。
もちろん、城壁には騎士が常駐しており、いくつか詰所も配置されているのだが、それでも対応しきれないのだろう。
そういった魔物を討伐する依頼も、冒険者ギルドにやってくることがあった。
「ここの丘の上にあるはずだな」
「そんなに急な感じではないですね」
「家を建てるくらいだ。多少は利便性も考えているんだろう」
近場になったところで馬車を下りて、家のある場所へと向かう。
購入した家は少し高めの場所にあり、かつ大木のある場所の真下――それでも日当たりについては悪くなく、日が昇る途中であれば、十分といった感じだ。
丘を上がっていくと、一軒の家が見えてきた。
「あれが私達の家だ」
「! 結構大きいですね……」
購入する前に普通は実物を確認するのだが――エレインはそんな面倒なことはしなかった。
丘の上にあるため見晴らしはよく、ここまで来るのもほとんど一本道。
「敵が来ても守りやすそうな立地だ」
「て、敵ですか?」
「いや、こちらの話だ。一先ず、中に入って色々確認してみよう」
「は、はい」
エレインとルーネは早速、家の中へと入っていく。
しばらく人は住んでいないらしく、家具などはあまり配置されていない。
だが、一応は住める最低限の用意はされていて、いくつかの部屋に加えて二階建てと、十分な広さがあった。
それこそ、エレインとルーネの二人で暮らすには大きすぎるくらいだ。
「寝室は……ここか」
二階の奥に寝室があり、そこには大き目のベッドが一つあった。
マットがないために後で購入する必要はあるが、今日中には買いに行けば利用できる。
ただ、寝室はどうやらここだけのようで、ベッドは現状一つしかなかった。
「さすがにベッドは頼んで作ってもらうことになるか。マットはあとで買いにいくし、一先ずこの部屋は君が使っていい」
「エレイン様はどうするんですか?」
「私は――リビングに椅子があった。そこで寝れば問題ない」
「そ、それはダメですよ。昨日だって、エレイン様は椅子に座って寝ていたじゃないですか」
「私はどこでも寝られるのが特技みたいなものだ。なんだったら、外の木の上だって構わない」
「家を買った意味がないですよ……!?」
この家自体、ルーネのために買ったのだから、彼女を優先するのが普通だとエレインは考えていた。
だが、ルーネもなかなかに譲れないところがあるようで、
「今回は、私が椅子で寝ます」
「椅子は疲れが取れないからやめた方がいい」
「ほら、エレイン様もお疲れなんじゃないですか」
「私の身体は特別性でね。疲れないようになっているんだ」
「どういう理屈を……とにかく、今日はエレイン様がベッドを使ってください。そもそも――私は奴隷なんですよ……? どうして、こんなに優しくするんですか?」
どうして優しくするのか――確かに、奴隷に対してエレインのように優しくする者は多くないだろう。
何かしらの用途があり、そのために使うのというのが常だ。
エレインにとってのルーネの用途と言えば――傍にいてくれたら、それでいい。
半ば、ルーネに一目惚れした形で買ったのだから。
「優しくしているつもりはない。だが、前にも言った通り、君を奴隷扱いするつもりもない。ただ……そうだな。私が一緒にいるのに、対等でいたいと思うだけだ」
「対等……? 私と、ですか」
「偉そうなことを言っているのは分かっている」
「いえ、そんなことは……でも、エレイン様は本当にそうお望みなんですか?」
「君に嘘を吐いてどうする。私にメリットはない」
エレインがはっきりと言うと、ルーネは少し困惑した表情を見せる。
やはり、奴隷という立場にある彼女と対等でいたい――などと口にする冒険者は、信頼ならないだろうか。そんな風に考えていると、
「分かり、ました。では……対等ということなら、ベッドも十分広さもあります。だから、一緒に寝ませんか?」
ルーネから提案があった。
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