第14話 君の選んだ
別室に通され、エレインはギルドの担当者から様々な物件の紹介を受けていた。
いくつかの資料に目を通しながら、エレインは静かに呟くように言う。
「一番安全な家はどこだ?」
「え、安全……ですか?」
問われた担当者はやや困惑したような表情を見せた。
エレインは本気で問いかけているが、担当者からすれば――彼女自身が家にいるならそれが『安全』でしかない。
だが、エレインの隣にはルーネがいる。
彼女のことを考えての発言だろう、と担当者はすぐに理解した。
「……で、あれば、王都の中心区画がやはり人も多いですし、安全ではありますね。騎士もすぐ近くに常駐しておりますし」
「なるほど、ルーネはどう思う?」
「えっ、えっと……」
エレインの問いかけに、ルーネはどう答えたものか、と悩んでいる様子だった。
「君がよければ、王都の中心部でいい。だが、ここら人も多いと聞く。どうだ、条件として。率直な意見が聞きたい」
「……私は、どこでも――」
「ここはなしだな」
「えっ?」
ルーネの言葉を遮るようにして、エレインは言った。目を丸くするようにして、ルーネはエレインを見る。
「ど、どうしてですか?」
「なんとなく、だ。人の多いところを嫌がる節があるだろう。嫌がっているように見えたから、ここはなしだ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝る必要はない。君も住む家なのだから、君も好きなところを言ってくれ、ほら」
エレインはそう言って、手に持った資料をいくつか手渡した。
ルーネもここまで言われて、彼女の好意を無下にするようなことはできない。
ようやく、物件について確認を始めた。
(さて、あとはルーネが住みたい家を見つけてくれるのを待つだけだ。私は本当にどこでもいいからな)
あくまでもルーネのために家を買うだけで、エレインにとってこだわりはない。
さっと目を通した限り、ギルドの持つ土地や家はどれでもエレインならば購入できるものだ――何も気にせずに選んでほしい。
しばらく、ルーネが紙をめくる音だけが一室に響き、やがて一つの家を指した。
「その、わたしが見る限りだと、ここがいいと思います」
「よし、決まりだな。では、手続きをしよう」
「かしこまりました」
「えっ、エレイン様は確認なさらないのですか……?」
「私は一度、目を通してある。そこは王都でも比較的自然の多い場所だな」
王都の北側――山間近くにあり、人はそれほど多くおらず、閑散としているところだ。
主に山の方に仕事に行く冒険者や騎士が泊まる宿があるくらいで、落ち着いた雰囲気がある。
ルーネが選びそうなところだと、エレインも考えていた。
だが、そんなエレインを見てルーネはやや納得のいかない表情を見せる。
「……どうした?」
「いえ、わたしのことばかり優先されている気がして、申し訳ないと」
「そんなつもりはない」
「でも、エレイン様のお仕事に合った土地もあるのでは?」
「そういう意味なら、山間に近いのは私の仕事に合っている。魔物の素材だけでも売れるからな」
まだ何か言いたそうだったが、ルーネは押し黙った。
エレインのことなど気にする必要はないのだが、やはり彼女の立場上はどうしても、といったところか。
「……私も、人が多いところよりは君が選んだところが好きだ」
「え?」
「気にしなくていい、と言っている」
「……はい、ごめんなさい」
「謝る必要もない」
「……書類の方、準備できましたのでサインの方をお願いしても?」
二人のやり取りを見て、やや気まずそうにしながら担当者が言った。
エレインはすぐに書類にサインをし、こうして初めての家を購入したのだった。
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