第13話 視線だけで

 ――翌日、エレインはルーネを連れて、早々に宿を出ることにした。

 昨日の刺客については彼女に気付かれることもなく秘密裏に処理をしたが、また襲ってくる可能性は高いだろう。

 ルーネにも事情を聞いた方がいいかもしれない――そう考えもしたが、まずは住む場所を見つけることが先決だ。


「家となると、冒険者ギルドが管理している家もあるはずだ。まずはそこに行こうと思う」

「ギルドって冒険者のお仕事の斡旋が主だと思っていましたが……」

「その認識に間違いはない。だが、その冒険者の暮らしについてのサポートを一応は行っている。まあ、ギルドが管理する家に住んでもらえれば、ギルドが得するわけだからな」

「な、なるほど……」


 家賃か、あるいは土地ごと家を購入してもギルドに金が入るようになっているのだから、その辺りの管理もしている。

 もっとも、借りるだけならともかく、買うとなると話は変わってくるが。

 エレインとしては、家を買うつもりではいた。


「ギルド以外にも、王都の土地の管理は騎士団でもいいし、王都外になればまた別の方法もある。一先ずは、ギルドで話を聞いてみよう……くらいだな」

「分かりました。その、いい家が見つかるといいですね」


 ルーネは他人事のように言っているが、家を買うのは彼女のためだ――ただ、あまりこう言うと性格的には遠慮しそうなので、エレインはあえて何も言わない。

 冒険者ギルドは広い王都にはいくつかあり、中央付近に本部があって、それぞれの方角に支部を展開している。

 今回は、色々と確認ができる本部へと向かっていた。

 エレインがギルドに到着して中に入ると、賑わっていたギルドが不意に静寂に包まれる。

 ――これはエレインに限らず、Sランク相当の冒険者がギルドに入るとあちがちなことだ。

 特に名の知れた冒険者であれば、やはりそれだけ注目されていることになる。

 それに加え、エレインの場合は『下手に話すと殺される』というような噂が流れているから、静かになっているのだが。

 少し困惑気味のルーネは連れて、エレインは真っすぐ受付まで向かう。

 受付嬢は慣れているために、エレインが相手だろうと怯えることはない。

 新人であれば、緊張していることは多いが。


「こちらにいらっしゃるのはお久しぶりですね、エレインさん。何かお仕事を探しに?」

「いや、家を買おうと思ってな」

「! 物件のご紹介ですか。そうなると、こちらより別の部屋でのお話の方がいいかもしれないですね」

「そうか、では案内を頼む」

「承知しました。少々、お待ちください」


 受付嬢に言われ、エレインは近くの椅子に腰かける。

 ルーネを隣に座らせるが、彼女はどうにも落ち着かない様子だ。

 ――見られている。主にエレインに視線が向いているのは当然だが、隣に座る少女は何者なのか、そういう好奇の視線なのだろう。

 エレインは別に他人の視線など気にしないが、ルーネは別だ。

 奴隷の首輪をつけた自分が、他人の視線に晒され続けることに――抵抗を感じている。


「……」


 エレインは特に言葉を発することなく、ただ視線を向けた者達に返す形で、視線を送る。

 すると、慌てて視線を逸らす者ばかりだ。

 隣に座るルーネの落ち着かない雰囲気が伝わってきたために、エレインなりに配慮した形だ。

 急に視線を感じなくなり、ルーネはホッとした様子を見せる。

 ――まさか、隣に座るエレインが目配せしただけで視線を逸らさせていたとは、彼女は考えもしないだろう。

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