第9話 つい反射的に

「ふむ、出てこないな」


 サンッ、と小気味良い音を響かせ、飛び出してきた魔物を容赦なく切り捨てた後、エレインはポツリと呟いた。

 剣を振って魔物の血を払い、鞘に納めたところで、


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「ん、どうした?」


 突然、ルーネに呼び止められて振り返る。彼女は何やら言いたげな表情をしていた。


「い、今の魔物は違うんですか……?」

「ああ、これはたまに町中に入り込んでくる奴らだ。気にしなくていい」


 エレインが先ほど言ったとおり、魔物は町中に入っては潜伏している――彼らにとっても危険ではあるが、食料が大量にあるのが魅力なのかもしれない。

 エレインが『いい匂い』を漂わせているためにそれに釣られた魔物が、先ほどから討伐されていた。

 ルーネがもはや反応する前に、エレインは魔物を斬ってしまう。

 もはや反射的――かと思えば、たとえば魔物でも人に害のないものや、飼われているものが町中をうろついている時がある。

 そういうった魔物には全く手を出していない。

 ルーネから見れば、エレインが瞬時にどう敵を判断しているのか分からないだろうし、そもそも出番があるのか不安になっていた。

 エレインはそんなルーネの不安をよそに、討伐対象ではない魔物はその場で解体して一部の素材を持ち、残りの肉は近くにいた子供に分け与えていた。

 エレインは多くの者に畏怖されているが、彼女を知らない者からすれば――ただ食べ物を分けてくれる優しい人に見えるだろう。

 そんなことを繰り返しながら、人気のない路地裏を移動していた時のことだ。


「……ようやく狙いのやつが来たようだな」

「! わ、分かるんですか……?」

「他のやつとは気配が違う。私の剣についた血の匂いを警戒しているな。やはり、鼻が利くやつらしい」


 エレインはそう言いながら、動きを止めずに歩き続ける。その後に、ルーネも続いた。


「ルーネ、やつが姿を現したら……君に討伐を任せる。私は基本、手出しをするつもりはない」

「……! は、はい、分かりました……!」


 ようやく出番が来た――ルーネは気合いを入れた返事をする。

 瞬間、ルーネは背後に気配を感じた。

 咄嗟に腰に下げた剣を振り抜こうとするが、ルーネの身体は何かに引っ張られてバランスを崩す。


「え――」


 引っ張ったのはエレインであり、ルーネを庇うようにして襲ってきた魔物の攻撃を剣で防いだ。

 そして、すぐにハッとした表情を浮かべ、


「しまった……つい反射的に……」


 手出しをしない――言ったそばから、エレインはルーネを魔物から守ってしまった。

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