第8話 魔物を誘き出すには

 ルーネが選んだのはシンプルで扱いやすそうな直剣だった。

 もっと値段の高い物を選んでもらってもよかったが、強制するものでもない。

 実際、値段に対しては『いい物』を選んだのだろう。

 腰に剣を下げた姿は様になっていて――思わず、見惚れてしまった。


「あ、あの……?」

「ああ、すまない。少し意識を失っていた」

「意識を!? 大丈夫ですか!?」

「……いや、冗談だ、冗談。そんなに真に受けないでくれ」

「! ご、ごめんなさい……」


 エレインは別に怒っているつもりもなかったが、しゅんとして謝られてしまった。

 あまり冗談を言う性質でもないが、せっかくなので和やかなムードに――そう考えたのが、裏目に出てしまったようだ。

 しばしの沈黙の後、


「……さて、服も武器も手に入ったし、そろそろ仕事に行くか」

「は、はい!」


 先ほどのことはまるでなかったかのように流して、エレインはルーネを連れて目的の場所へと向かった。

 王都の外れ――南西にある『グリウッド門』の近郊。ここでは最近、魔物の姿が頻繁に目撃されるようになっていた。

 都の周囲には外壁もあるが、それで全ての魔物の侵入が防げるわけではない。

 そして、外れの方になると、王都を守る騎士の数も減ってくる――つまり、全ての対応をするのは難しい、というわけだ。

 そこで、騎士団から正式に冒険者達に依頼が出される。

 グリウッド門はその先にある『エルベリスタの森』に向かう冒険者も多く、ついでに依頼を受けてくれるからだ。

 ただ、エレインが今回受けた依頼は『ついで』ではなく、きちんとしたものだ。


「対象はおそらく人並みかそれ以下のサイズだが、動きが早く身を隠すのが得意なようだ。未だに、その姿をまともに見た者はいないらしい」

「そのような魔物がいるんですね……」

「鼠か猿……もしくは狼の系統の魔物ではないか、とは推察している。だが、姿を隠すのが得意な鼠にしてはサイズが大きいし、猿なら動きが早すぎる――となると、狼と言ったところか」

「そ、そこまで分かるものなんですか?」

「あくまで推察だ。そして、先入観は持たないようにしている。何が相手であれ、対応できるようにするために、な」

「なるほど……べ、勉強になります」


 何かを教えているつもりもなかったが、ルーネが満足そうなので良しとした。

 目的地付近は閑静で、人通りもあまり多くはない。

 それが、魔物の姿を捉え切れていない要因でもあった。


「君の力を確かめさせてもらう――つもりだったが、そのためにはまず、対象を引きずり出さなければな」

「どうするんですか? この辺り一帯を歩いて捜す……とか?」

「それも悪くはないが、時間がかかりすぎるな。対象が留まっていれば問題ないが、動いているのであれば見つけるには苦労する。だから、襲われやすいようにする」

「え、襲われ……?」


 ルーネの擬音に対する答えを、すぐにエレインはカバンから取り出した。特に何も加工はしていない――『肉』である。


「襲われた人間は、肉を買って帰る途中だったそうだ。他にも、『食べ物』に類する物を持っていて襲われている。時間帯はちょうど今――食事の時間ってわけだ」

「な、なるほど……それを持っていれば、魔物が姿を現すってことですね?」

「あくまで可能性だ」


 もっとも――エレイン一人であれば、効率を考えるのなら王都を駆けまわった方が早い可能性もある。

 いつだって、魔物を狩る時は直接捜し出して叩く、が彼女のやり方だからだ。

 だが、今はルーネがいる――そして、今回の魔物の相手をするのもまた、彼女の役割だ。


「そういうわけで……襲われるまで、適当にこの辺りを歩いてみるか」


 言い方に多少問題はあるが、エレインの言葉にルーネは力強く頷く。

 エレイン自身、上手く魔物が誘き出せればいいが――そう考えながら、仕事を始めるのだった。

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