第6話 最初の目的

「今後のことについて、話したいと思う」

「今後のこと、ですか?」

「ああ」


 目を覚ましたルーネを隣に座らせ、エレインは切り出した。

 色々考えたが、まずは彼女とも相談しながら決めるのが正しいだろう。


「まず、私は冒険者をしている。仕事上、家に戻ることも多くないから、持ち家はない。買えはするのだが」

「冒険者様とお話する機会は、以前にもありました。やはり危険な仕事が多いという認識があります」

「そう、だな。まあ、命がけではあるが……そうでない仕事だってある。それで、君がどうしたいか聞きたいんだ」

「! それって、私も同行してもいいということでしょうか……?」

「そうだ」


 ルーネの問いかけに、エレインは頷いた。

 当然、仕事をしている間は戻ってこない――数日空けることもあり、奴隷の彼女を一人にしておくのはどうか、という話だ。


「君が嫌なら、私は適当に家を買って、君はそこで過ごしてもらおうと思っている」

「て、適当に家を買うって……そんな、私のためにわざわざ買う必要などありません」

「私が心配なんだ、君を一人にしておくのは。だから、安全な場所を用意したい」


 これはエレインの本音だ。

 ルーネの傍にいつでもいられるわけではないのなら――どこかにそういう場所は必要になる。

 エレインの数少ない知り合いの魔導師にでも頼めば、協力な結界を張った家を作ることだって難しくはないだろう。

 だが、ルーネは首を横に振った。


「いえ、私は――エレイン様についていきます」

「それはつまり、私の仕事に同行する、ということでいいのか?」

「はい」

「君も認識している通り、危険な仕事もあるんだ。強制するつもりはないから、どうか遠慮なく拒否してもらってもいい」

「ですから、私はエレイン様のお傍にいたいと思っています。それに……」


 ルーネは立ち上がると、エレインの前で構えを取った。

 手に剣を持っていないのに――まるで剣がそこにあるかのように、エレインの目に映り、思わず驚きの表情を浮かべる。


「私、剣術には少し自信がありまして」

「……そうか。君は戦えるタイプの王族なのか」

「えっと、たぶん、はい。エレイン様のお役に立てるか分かりませんが……」


 実際、ルーネの実力がどれほどなのかは、分からない。

 だが、今の構えは――素人ではなかった。

 そこにまるで剣があるかのように思わされるほどの剣士に、エレインは中々出会ったことがない。

 ルーネはひょっとしたら、かなりの実力者なのかもしれない。

 ならば、確認するにはちょうどいい仕事がある。


「王都の外れで、一体の魔物を倒す依頼を少し前に受けていてな。そろそろ倒そうと思っていた――今から行こうと思うが、そこで君の実力を見せてもらってもいいかな?」

「魔物、ですか。一体どのような?」

「詳しくは……そうだな。歩きながらでも話そう」


 そうと決まれば、とエレインは立ち上がり、荷物を手に取る――が、そこで一つ気付き、ルーネに向き直った。


「……?」

「仕事の前に、あれだな。服を買わないと、だな」


 ――ルーネの服は、はっきり言ってしまえば薄着のものだ。

 これから一緒に過ごしていくのだから、当然彼女の服だって必要になる。

 エレインとルーネの最初の目的は、服を手に入れることになった。

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