第5話 不意を突かれて

「可愛いな」


 ――ルーネ・バーフィリアは思わず飛び起きてしまいそうになった。

 疲れからか、思わず眠ってしまっていて、気付けばエレインがルーネの顔を覗いていたのだ。

 すぐに起きて謝罪しようと思ったが、耳に届いたのはそんな言葉。

 ルーネの顔は熱くなり、耳まで赤くなっている。

 このままでは起きているのがバレてしまう――そう思ったが、エレインは椅子に腰かけて、何やら考え込んでいるようだった。

 ルーネが起きていることには気付いていないらしい。

 ……心の底からホッとした。

 王族でありながら、奴隷の身に堕とされたルーネには、絶望以外の感情は存在しなかったが、ただ彼女が選んだ道は、状況を受け入れるだけだった。

 下手な抵抗は、を不幸にする。

 それが分かっているからこそ、ルーネは奴隷という身分を受け入れているのだ。

 そんな彼女を買ったのは、まさかの同性の人。

 ルーネから見ても美しい女性で、ミステリアスな雰囲気を漂わせていた。

 彼女はそれとなくルーネを気遣ってくれて、奴隷であるはずのルーネに対して、まだ会ったばかりだが――随分と優しい印象を与えた。

 宿に来てすぐに、ベッドに誘われるとは想像していなかったが。

 奴隷がベッドに誘われるということは、『そういうこと』と教えられていた。

 実際にする時は、相手がリードしてくれるから、と満足にやり方は教わっていない。

 王族という身分だからこそ、未熟なことに価値がある……と、奴隷商の館の者は言っていた。

 ルーネにはよくわからなかったが、エレインも望んでいるのだと思った。

 彼女が望むのなら、受け入れる覚悟もあった――が、まさかの勘違いで、ルーネはただ恥ずかしい思いばかりしていた。

 どうやら、エレインはルーネに対し、奴隷のような振る舞いを求めていないらしい。

 彼女のことがまだ分からないが、彼女が望むのなら――そうしよう。

 奴隷の身分を受け入れたからこそ、奴隷としてどんな命令でも拒否をするつもりはない。

 それが、ルーネの覚悟だった。

 ――なのに、『可愛い』なんて不意を打たれるようなことを言われては、ルーネの心は乱されてばかりだ。


(この人は、私をどうしたいのでしょう……)


 気付けば、エレインのことが気になっていた。

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