第27話 待ち人は現れないもののようだ。
さて、二ヶ月が経過し外壁も街を包囲できるほどにまで完成し、レンガ
畑は収穫期をむかえ、黄金色に輝いている。
「ようやく、ここまで来たのね。
…このまま、何事も無ければ良いんだけど。」
ロマリーは街を見ながら溜息をつく。
「んじゃ、姫様。
「ロマリー殿下、どうかお元気で。
それと、奴隷たちの処遇、くれぐれも良しなに。」
そう言って、園田一行は旅立って行った。
◇ ◇ ◇
北からのお客はやっては来なかった。
増えた住民の手によってアルザリアは見違えるほど活気に満ちている。
奴隷たちは無事に開放され、一般市民としての地位も保証された。
レンガ工場もいつの間にか製鉄所に変わり、鉄の精錬も軌道に乗ってきている。
レンガはレンガで順調に揃い、住宅の建材としても利用される事になる。
街道にもレンガが敷かれるに至っている。
「すっかり街が変わってしまいましたねぇ。
殿下」
「あなたも、優秀な部下を確保できてご満悦のようね、ジン。」
二人が一通り笑い合う。
「とりあえず、東方からの蛮族の侵攻は何時有ってもおかしくありません。
くれぐれも、警戒を怠り無きように、殿下。」
「そうね。
そのための訓練、備蓄、防御の強化、よろしく頼むわよ、ジン大臣。」
二人の視界に映るものは、露天商が立ち並び、買い物客の往来で賑わうメインストリート。
まだまだ、商店街への道は程遠いが、いずれはここがそうなるのかもしれない。
往来の客も、人種は勿論、亜人、獣人、大人から子供まで、実に豊かな多様性が広がっている。
服にしても、白と茶色ばかりだったものが、今では七色は勿論、パステルカラーも登場している。
「随分とにぎやかになりましたね。」
「ええ、年中花畑を見ているようです。」
ジンの言に頷いてみせるロマリー。
視察を終え、バルコニーから応接室に姿を消す二人。
◇ ◇ ◇
「よかったのか?
もう少しゆっくりしていけたのじゃぞ。」
「ああ、そうかもしれない…
けど、何かが違うと思ったんだ。」
「ふふ…。
難儀な性格よのぉ…。」
「…」
沈黙して俯く園田と、その顔を覗き込むレミ。
「あるいは、異世界からの転移が、影響したかのぅ?」
レミが周りを見渡す。
キャラバンの脇ではリサたちが食事の準備をしている。
赤い地表がむき出しの大地に夕日が沈もうとしている。
「まぁ、良い。
お主が尽き果てるまで伴をすることとしよう。」
ゆっくりと顔を上げた園田の頬にキスをするレミ。
タイミング悪く、現場を目撃したリサとユイが慌てて駆け寄ってくる。
「ちょっとぉ、レミぃ~何してるのぉ?」
「抜け駆けは、感心しませんよレミぃ!」
リサとユイからお説教を受けるレミ。
勿論リサもユイも事情を理解しているので、お説教も程々にじゃれ合い始めている…。
「…。」
別の意味で沈黙してしまった園田の存在に、はたと気づく三人。
「そ、それじゃぁ、私は夕食の準備を…。」
ユイがゆっくりと身を引き始め
「あ、テーブルと椅子の準備もしないと!」
リサもスッと立ち上がり
「じゃ、そういうことで!!」
ユイとリサは一目散に逃げていく。
その姿を見て何故か吹き出してしまう園田とレミ。
「行くとするか、レミ。」
「ええ。」
二人は揃ってキャラバンの方へ向かっていく。
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