第26話 増えるという事

 牽引するトレーラーの中が賑やかだ。

 全フロアーにエアーベッドを敷き詰め、その上を子どもたちが跳ねて回っている。そんなトレーラーがニ台繋がり、三台目には、ジンとエルマ、そして孤児の引率者がお茶を嗜んでいる。

 馬車部隊キャラバンを引き連れるハイ○ース。

 その先導をする園田。


「大部隊だねぇ。」

 園田の苦笑いに、娘たちが頷いている。

 出発した際は、単独キャラバン。

 ところが帰途につくのは、一ダースの馬車部隊が付いている。

 流石に強行軍をするわけには行かないが、かと言って、この人数で宿場町に押しかければ、迷惑がかかるのも必定。


「野宿だぁ~~っ!!」

「わ~~い、ノジュク、ノジュクっ!」

 娘たちがはしゃぎだす。

 …はてさて、馬車一ダース分とトレーラー三台分の住人による野宿…。

 ほぼお祭り状態ですねぇ。


 ◇ ◇ ◇


 さて野営の準備を始めると、奴隷たちが各々のスキルに合わせ、サポートを買って出てくれる。

 採取に狩猟、野営の準備に護衛の準備と、錚々そうそうたるメンバーによる賑やかなキャンプが始まる。


 この日のキャンプは、さながら屋外パーティーの様相になっている。

 無理もない、連れてきた奴隷の大半は言われもない罪で犯罪奴隷に堕とされた人々だった。

 それが「ある仕事と引き換えに市民権を与える」と言われたのだ、上機嫌になるのも無理からぬ事。

 大人が本気で燥いだ結果、出される料理も半端なものではなくなり、お腹を空かせていた子どもたちも有り余るご相伴にすっかり舞い上がっている。


 さて、空が白み始めると、野営に着いていた部隊が撤収作業に入る。

 子どもたちをトレーラーに放り込み、イビキをかいている人たちも片っ端から馬車に放り込み、夜明けとともにキャラバンは行軍を再開した。


 陽も昇り切った頃には、アルザリアの外観が見え始める。

 すると、アルザリアからも迎えの部隊が合流し、それぞれの足に合わせて街に入場していく。


 ◇ ◇ ◇


「殿下戻りました。」

 ロマリーの前に膝をかがめるジン。

「お疲れさまです。

 それで首尾は?」

「上々です。

 優秀な人物も粒ぞろいです。」

「そう。」

 微笑むロマリー。

「早速、準備にかかります。」

 そう言うと、立ち上がり殿下の居間から立ち去るジン。

 その横顔には自信がみなぎっている。


 外壁用レンガ工場こうばには、到着した奴隷たちが早速作業に入っている。

 とはいっても、レンガを持ち運ぶのが主な仕事なので、人海戦術がメインになっているだけなのだ。


 畑の方はといえば、こちらも人海戦術だ。

 これで作物の収量も上がること受けあいだ。


 そして、ジンの下にも奴隷として引き取った優秀な武官・文官が集まり始める。

 全員の奴隷契約を解除した後、必要に応じて要職に配置していく。

 もっとも、人が少ないので、彼らは精鋭として、いきなり実戦デビューとなるのだが、ジンの訓示を意気に感じたのか、全員が早速仕事に取り組み始める。

「壮観だなぁ。」

「ええ。」

 園田が感嘆の声を漏らし、にこやかに答えるレミ。

「まぁ、多少の小競り合いも有るじゃろうが、今は目標が明確じゃし、乗り切っていけるじゃろう。」


 長屋式では有るが、住宅の着工も順調に進んでおり、テント暮らしの人々も暫時解消されていくだろう。


「残る問題は、連中が何時攻めてくるか?というところかな。

 時期的にはもう半年になってきている。

 もう来ても良い頃だけど…。」

「まぁ、連中の都合は解らんじゃろう。

 出てこないのは好都合じゃし、早急な対応をしておくに越したことはない。」

「だなぁ。」


 実際、北向きの外壁は三メートル強の高さに達しており、騎馬の突撃程度では、突破が難しくはなっている。

「明日までには、土窯二つが完成するんじゃ。

 来週からはさらに忙しくなるぞ。」

「そうだな。」

 ウィンクしてみせるレミにサムアップで答える園田。

「とりあえず、ここ二ヶ月が勝負になりそうだな。」

「ああ。その通りじゃ。」

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