特別話 ワクワク喫茶店
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この話は、短編スピンアウトにて作成されたお話です。
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久々に眺める青い空
緑の丘
丘の上には十数機の大型風車が建っている。
帰ってきたのだ、
人の気配に気づき横を見るとリサも居る。
「ここは??」
「ああ、ここはオレの故郷さ。
…って、何でリサがここに居るのぉっ!!」
キョトンとしているリサに馴染みすぎて、周りが異質に思えてしまう自分に頭を抱えるオレ、園田です。
◇ ◇ ◇
とあるクエストで神様のご機嫌を物凄く取ってしまったオレとリサ。
そのご厚意(?)で、オレは
さて、時空の井戸に入ろうとすると
「コ~~ジィ!!」
リサが抱きついてきて二人一緒に井戸に落ち…
現在に至っている。
「さてと、持ち物は…と。」
とりあえず、財布が無いのは確認できた。
胸ポケットにはスマホと見覚えのない通帳とカード。
その間、私の横で不思議そうに私を眺めるリサ。
「とりあえず、お金を下ろして、何か食べ物を買おうか?」
「うん。」
リサを従え、道なりに街を目指す。
時折通過していく自動車やトラックにびっくりするリサ。
「驚くことばかりだなぁ…。
無理もないけど。」
「え…ええ。」
流石に口数の少ないリサ。
異世界の見聞にどれだけショックを受けているのか…。
用意に想像できる。
さて、コンビニも見えてきたので、とりあえず店内へ。
「!!!」
さて店内に入って息を呑むリサ。
特にお弁当、惣菜、そしてパンコーナーで尻尾を大振りしている。
「ちょ…ちょっと、待っててくれよ。」
とりあえずカードを取り出し、二~三万円引き出してみ…特に問題なく紙幣が出てきた。
買い物かごを持ち、リサが欲しがるままに食料を買い込んでレジに行く
「買い物袋はいりますか?」
「え?
…ああ、お願いします。」
弁当五個にサラダセットが三つサンドイッチが四個に菓子パンが八つに炭酸飲料が四本…手持ちで運ぶのは確かに不便だ。
怪訝そうな店員の顔を見ると、袋は要るのだが…
金取るんかい!!
さて、コンビニの横にはベンチが置いてあるので、そこで弁当を開くことにする。
「いっただっきまぁ~~~す。」
温まった弁当から溢れる匂いに不安も何処へやら、目を輝かせてお弁当を食べ始めるリサ。
私も久しぶりにコンビニ弁当のお世話になる。
炭酸飲料も久方ぶりで、吹き出しそうになってしまう。
隣を見ればリサがまさに炭酸飲料でむせ返っていた。
一頻り食事も済ませ、ようやく落ち着いたのかリサが話しかけてくる。
「ねぇ、コウジ、ここはどこ?
これからどうするの?」
「ここは多分オレの
折角だから実家に帰ってみようかと思う。」
「それって、お義父さまとお義母さまに会うということですね。」
慌てて身なりを整え始めるリサと、その容姿を遠巻きに眺めている人々。
「よし、行こう!」
「はいっ!」
リサの手を握り、歩道を歩き始める。
幸か不幸か降り立ったところは実家の近所だったので、十分程度で実家にたどり着くのだが…。
「はっ?」
玄関に掛かっているのは、水道と電気の申込書。
「どうしたの、コウジ?」
リサが不安げに私の顔を覗き込んでくる。
すると、通りかかる近所のおばちゃん。
「あら、コウちゃん。生きてたの?」
「はぁ?」
近所のおばさんのお話によると、オレが亡くなったのは五年前。
勤務中の事故で焼身してしまった…らしい。
「ご両親は悲嘆に暮れて、ハワイに移住してしまったわよ。」
「ハワイ…ですかぁ。」
(趣味だなぁ…両親の。
労災の保険金で纏まった金が入ったのかな?)
そういうと、コロコロ笑いながらおばさんは去って行った。
「どうするのコウジ?」
「とりあえず、
…それと
幸い、ここは空港の近所。
とりあえずレンタカーを確保する手立てはある。
後は、フトコロ事情も確認する必要があるので、ATMを覗いていくことにする。
リサにとっては初体験の連続。
音楽の流れる建物、スーツケースやボストンバッグを持った人々が行き交う空間。
サングラスやメガネに始まり、服装に至るまで、見るものすべてが不思議の塊だ。
極めつけはバスの存在。
多数の人間を飲み込んで走っていく巨大な鉄の馬車。
その巨体はハイ○ースどころの騒ぎではない。
「ふへぇ~~~。」
感嘆の声をあげるリサを横に、通帳を覗くと、八桁の数字が並んでいる。
(誰の差し金?)
とりあえず、フトコロ事情を理解した所で、レンタカーの手配に入る。
「自動車って色々有るんですねぇ。」
並んでいる車を眺めながら、感心しているリサ。
「それじゃ、この車で。」
ロードスターに乗り込む園田とリサ。
「なに、このおしゃれな車?」
「良いだろう。」
早速、アパート探しとデートも兼ねて街中に繰り出す園田とリサ。
「人多いわねぇ。
…あの大きな馬車は何?」
「大きな…ああ、路面電車のことか。」
「ロメンデンシャ?」
路面電車の説明をしながら、信号停車をしている。
繰り出してくる人々に目を丸くしているリサ。
◇ ◇ ◇
さて、目当ての
「こんにちはぁ~。」
いつもなら、陽気なおじさんの返事が帰ってくるのだが…。
奥から出てきたのは、奥さんの方だった。
深々と頭を下げ、店内に案内される。
「コウジ、ここが貴方のお気に入りの店?」
「そうだったんだが…。」
この時、店内に居たお客はオレたちだけだった。
さて、奥さんの話しを聞いていると、ご主人が亡くなられて五年が経ったとの事。
知古のお客もすっかり減り、近所にコーヒーショップも出来たことから、いよいよ今月末を持って閉店する、という事だった。
不意にカレンダーを見れば…。
「そうです。
今日がその閉店の日なんです。」
奥さんがコーヒーを注ぎながら、寂しそうに微笑む。
「もう、閉めてしまおうかと思っていたのですが…。
最後に主人の思い出話を共有できる人とお話できて嬉しかったわ。」
瞳に薄っすらと涙を浮かべ、コーヒーを差し出す奥さん。
リサはコーヒーを受け取ると、美味しそうに飲み始めている。
「お店を閉めたら、どうされるんですか?」
「ここを引き払って、老人ホームにでも入ります。」
「そうですか…。」
オレは、奥さんの意向を聞いた所で、コーヒーを口にした。
この味だけは、昔と何ら変わりはなかった。
「すいません、このコーヒーの淹れ方を教えて下さいませんか?」
「あらあら、可愛いお嬢さん。
貴方のような方にコーヒーの淹れ方を聞かれるなんて…。」
突然のリサの問いかけに、コロコロと笑う奥さん。
しばらく二人が会話を楽しんでいる。
しかも、気がつけば台所に立って一緒にコーヒーを入れている。
…って、オレは何杯コーヒーを飲まされるんだ?
談笑すること三時間。
「じゃぁ、行こうか。」
そう言って席を立つと、名残惜しそうにリサが台所から出てきた。
「待って頂いてもいいかしら?」
そう言うと、奥さんも台所から出てくると店じまいを始める。
その所作を不思議そうに見つめるリサ。
きっと、私も同じ表情になっている。
食器を選別し、ポットやサイフォン、ドリッパーにヤカン、そしてコーヒー豆や砂糖の入った缶パック、複数冊のノートを手渡される。
「持って行って下さい。
ここにあっても、ゴミにしかなりません。」
「ありがたく頂こう、コウジ。」
奥さんの申し出にリサが動く。
「しかし…。」
「コウジっ!!」
オレの躊躇を制し、奥さんの申し出を押し通すリサ。
「理沙さん、ありがとう…。
この子たちの事をよろしくね。」
寂しそうな笑顔では有ったが、奥さんの瞳には確かな自信が垣間見えている。
◇ ◇ ◇
「しかし、どうすんだ、この荷物たち。」
「どうにかするんでしょ、コウジ。」
リサの解答に二人して吹き出してしまう。
とりあえず、当座のねぐらを確保するのと…。
「借り物じゃない足が要るなぁ。」
「そうね…。」
リサに促され、とりあえず高校時代の
「なんだぁ、コウジ。
生きてたんだなぁ。
おまけに、美人まではべらしやがってよぉ。」
「生きてて悪かったなぁ。」
添田、親父さんの中古車屋を引き継いでいるマブダチだ。
「で、何の用事だい?」
「車屋には、車を買いに来ると思うんだが?」
添田は笑いながら、オレとリサを事務所に案内する。
事務所で行方不明だった五年間の話を添田にする。
彼自身は話半分で聞いてくれたが、いざ住処と仕事の話になった所で、身を乗り出してくる。
「貯金なんてものは、あっという間に底をつくからなぁ。
元の職場だって、席は無いだろう?」
「そ…それは…。」
「ねぇ、コウジ、喫茶店の経営って難しいの?」
リサが、オレと添田の話に割り込んでくる。
「ん?
喫茶店っていうのは、何だい?」
リサが添田に経緯を話していく。
「そうか…。
あの喫茶店閉まったのか。
嫁にも話しておかないとなぁ…。」
そう言いながら、添田がとあるパンフレットを取ってくる。
「折角買うんだったら、こっちのほうが良いかもしれないぞ。」
と言って、手渡されたのは『キッチンカー』のカタログ。
「こいつなら、移動喫茶店も出来るし、講習会を受けることで基礎的な知識から実践的な店舗運営も出来るぞ。
仕事にもなるしなぁ。」
グイグイ押してくる添田に、キラキラ目のリサも擦り寄って来る。
「解った、解った。
それで行くよ。」
オレが折れると、ハイタッチをする添田とリサ。
支払いはニコニコ笑って現金一括払い。
「そうと決まれば、手配するが、その間はコイツを使っていてくれ。」
そう言って、軽ワゴン車のキーを放り渡す添田。
「とりあえず、荷物を移動させてレンタカーを返しに行くとしよう。
…ちょっと嫁を呼んでくる。」
程なくして、添田が嫁と子どもたちを連れて戻ってくる。
そして、リサを見るなり子どもたちが飛びついてくる。
「フサフサぁ。」
「そうねぇ。」
リサを取り囲む添田さん
「よぉ~~しっ!
んじゃ、浩二、出発するぞ。」
二台の車が事務所を後にした。
◇ ◇ ◇
「戻ったぞぉ~!」
添田が事務所の扉を開くと、コーヒーのいい香りが漂ってくる。
見れば添田さん家の人々がまったりと寛いでいる。
「何をやった?」
添田が呆気にとられている横で、リサを捕まえ、そっと耳打ちをする。
「え?
何だか疲れてたようだから、コーヒーに回復魔法をちょこぉ~っとかけてみた。」
と言って、テヘペロするリサ。
「あのなぁ、この世界での魔法はご法度だぞっ!」
「そうなのぉ?」
「そうだよ!」
まったく悪気を感じていないリサに溜息をつくオレ。
「すまんが、今日は帰るわ。
自動車来たら連絡頼むわ。」
「おお、分かったぁ。」
添田の事務所を後にして、とりあえずねぐらを求めホテルを物色する。
程なくしてホテルは見つかりチェックインした所で、重要な事実に気づく。
「で、電話機が無い!!」
そう、スマホはすでに圏外になっているのだ。
ホテルのチェックインを済ませ、慌てて携帯ショップに向かった。
その足で添田の店に向かい、電話番号を伝えた後、ホテルに戻ったのである。
◇ ◇ ◇
パンフレットに載っていたカフェオーナー育成スクールの講習会に申し込んだところ、即日受講できる運びとなり、今日、受講会場に向かうことになった。
「じゃぁ、行こうか。」
リサと二人で受けることになったカフェオーナー育成スクールなのだが、よくよく考えると、リサが日本語を理解出来ないのではないかという事を思い出す。
自分が当然のようにできたから、大丈夫と考えるのは早計だった。
…はずなのだが、リサはあっさりとスクールの内容を理解出来た。
「お前、頭良かったんだな。」
お前と言われて赤面するリサ、ケモミミがピョコピョコ動き、フサフサしっぽが左右にゆれる。
その様子を見ていた周囲のスクール生たちは、男女を問わず全員が悶絶していた。
短期集中講座を選択していたこともあり、キッチンカーが届く頃には営業の許認可の手続きも済ませることが出来た。
さて、喫茶店デビューを始めるにあたり、服装の選定を始めるのだが…。
「服装がわからん♪」
「あらあら♪」
オレが頭を抱えていると、リサがコロコロと笑っている。
「とりあえず、適当な服を探さないと…。」
というわけで、出来上がったコスチュームが次の通り。
リサ:襟なしのシャツとジーパンの上から、花柄のエプロン
喫茶店デビューから一週間。
添田のツテもあり、街中の某所で、なんとか駐車場を間借りして営業を始めたが、なかなかお客が来てくれない。
「焦っても、どうにもならんぞ。
なんせ一週間なんだから。」
添田の
リサも不満こそ言わないが、オレの姿を見て、どうしたものかと思案している姿が見え隠れしている。
そんな、ある日の休日。
今日も人通りの多い交差点の側にある駐車場で移動喫茶店をしている。
いつもと違うことと言えば、今日は車の通りも多いことだった。
お昼も過ぎた頃、事件は起こった。
歩道の信号が青に変わり、スマホをいじりながら歩いている女子高生と赤ちゃんを抱えた母親が歩道を渡り始めたところ、軽自動車がいきなり突っ込んできたのである。
「危ないっ!」
その様をつぶさに見ていたリサが言うが早いか、二人の女性を抱きかかえに走り出す。
さすが獣人ともいうべき瞬発力であっという間に二人を抱えるリサ。
「子供をしっかり抱いてっ!」
大きくバックステップを取り、遊歩道の中央まで飛ぶリサ。
一連の動作に二人の女性を含め、周りの人々も呆然と見ていた。
そして、突っ込んできた軽自動車は歩道のポールに激突し停車する。
歩道の人はリサに任せ、オレは、軽自動車の方に向かう。
激突の状態から、運転手の状態が不安だった。
幸いドアを開くことが出来、運転手の老人を助け出すが、明らかに顔色が悪い。
「リサ、こっちも見てくれないか?」
と言って、リサの方を見ると、母親に感謝され、女子高生には抱きつかれ困っている。
オレの声が聞こえたのか、頭を下げながらこちらにやってきて…。
「コウジ、この人どうしたの?」
不安そうな顔のリサ。
事故を起こした車の運転手である旨を伝え、救急車を手配していることを話すが、リサに落ち着きがない。
運転手の口元に耳を澄ませ、急に立ち上がるリサ。
「
巨大な水球が出現し、その水しぶきが老人に降り注ぐとみるみる顔色が良くなる。
気がつけばすっかり人だかりが出来上がっている。
老人の容態を見届けると、今度はリサが倒れてしまう。
地面に倒れる寸前にリサを抱きとめると、先程助けられた女子高生が友達を連れ立って駆け寄ってくる。
「おじさん、彼女大丈夫?
なんか、すごい魔法を使ってたけど…。」
まさか、女子高生の口から魔法という言葉が飛び出すとは…。
と思いながらも、救急車の音で我に返る。
「大丈夫だ。
さぁ、そっちのおじいちゃんを救急隊員に見てもらってくれ。」
女子高生たちは頷くと、駆け付けた救急隊員を先導し、運転手の老人の方へ案内していった。
応急処置を始めた隊員たちが女子高生たちと二言三言会話をした後、こちらに顔を向け、こちらの様子を確認している。
女子高生たちの話を聞き終わりこちらに歩み寄ってくる一人の隊員。
「要介護者の手当に感謝します。
彼はそのまま病院にお連れしますが、貴方のツレも倒れたということですので、大事を採ってその方も病院へお連れします。」
「…わかりました。」
「ご同行願えますか?」
「すいません、キッチンカーを閉めておきたいのですが…。」
そう言って、立ち上がろうとするとオレの肩に手をかける人がいる。
「園田さん、車の方は、私どもが責任を持ってお預かりします。
街の英雄を見過ごすわけには行きませんよ。」
そう言って下さったのは、日頃からいろいろと出店の手伝いを頂いている方だった。
「…お願いします。」
キッチンカーの鍵を預け、救急車にリサとともに乗り込むと、女子高生たち三人も同乗してきた。
軽自動車の運転手と、母親も別の救急車に乗り、病院へ向うことになったようだ。
リサは魔力消耗で寝ているだけだと思うが、女子高生たちはとても心配そうにリサの様子を見ている。
◇ ◇ ◇
一時間ほどで目を覚ますリサ。
「よか…。」
オレが声をかけ、リサの頭を撫でようとした刹那
「おねぇ~ちゃんっ!!」
「よかったぁ~、目を覚ましてくれたぁ。」
「あんた邪魔っ!」
三人の女子高生に押しのけられ、床にぶっ倒れるオレ様。
まぁ、女性が四人も揃えば、
しばし談笑が続き、一息つく頃、看護師がやって来て退院の許可が出る。
「じゃぁねぇ、おねぇ~ちゃん。」
病院の玄関で女子高生と別れる。
「ごめんなさい、心配かけて。」
リサが俯いている。
そんなリサの頭を抱き寄せ。
「とりあえず、元気になってくれてよかった。」
リサの頭をなでてやる。
リサもオレの服の裾を掴んでくる。
「車を引き取って帰ろうか。」
「ええ。」
タクシーを捕まえ、キッチンカーを引き取りに戻ると、何故か
事情を理解出来ないままキッチンカーに近づくと、こちらに気付いた人たちが、温かい拍手で出迎えてくれる。
彼らの
結果、誰も亡くならず、軽症さえ無かった事に、現場検証をしていた警察官が舌を巻いていたという事だった。
その立役者たる女性に会いたいということで、話題が話題を読んで、この人集り…のようである。
とりあえず、明日もここで営業する旨を話し、集まった方々には解散頂いたのだが…。
リサはあまりの反響に興奮気味で、夜になってもなかなか寝付けないらしく、
今もオレの横でモゾモゾしている。
…ああ、夫婦の営みではないぞ、念の為。
◇ ◇ ◇
翌日、約束通り移動喫茶店を開店すると…。
来るわ来るわ、お客様!
興味本位が大半なのだが、若干名は心底コーヒーの味を愉しんで行かれた。
さて、昨日の事故時間になると、
「おねぇ~ちゃん、こんにちは。
コーヒー飲みに来たよぉ。」
屈託のない笑顔が眩しい年頃の娘たちに躊躇してしまう自分が情けない。
が、リサはいつものように笑顔で接客している。
その様子を見ていた女子の一人がオレに話しかけてくる。
「ねぇ、おっちゃん。」
「お兄ぃ~さんですっ!」
「そんな事ど~でも良いってのっ!」
「お、おぅ。」
「おっちゃんの店、コーヒーだけは美味しいけど、他はダメダメだよね。」
「そうそう、あ~しもそう思う。」
「おねぇ~ちゃんは、やばいくらいキレイなのに服ががっかりだし、おっちゃんは残念としか言いようないしぃ~。」
ケラケラ笑い出す三人の女子にオカンムリのオレ。
「もう、スネルなし。」
「悪かったなぁ、ガッカリでっ!」
「ねぇ、ねぇ、おっちゃん。」
「だから、おっちゃんではなく…おにぃ~。」
「あ~も~、分かったしぃ~。」
「私らが、衣装を見立ててあげるよ。
ゲキヤバなの選んだげるっ!」
「はっ?」
「店終わるまで、待ってるねぇ。」
そう言うと、何処かへ消えていく女子高生たち。
あまり待たせるのもどうかと思い、本日は四時前に営業を済ませ、片付けを始める頃、彼女たちが戻ってきた。
「んじゃぁ、行こうっ!」
三人がリサと連れ立って買い物に出かける。
アーケード街に入り、とある雑居ビルに入っていく女子高生たちとリサ。
そして、三階のテナントに入ると、そこにはウェイターやウェイトレスの衣装が幾つも展示してあった。
…まぁ、ウェイトレスというよりも、メイド服に限りなく近いようにも見えるのだが。
というわけで、オレの衣装合わせは程々に、リサの衣装合わせで盛り上がる女子高生たち。
まぁ、美人な上にケモミミ、ふさふさ尻尾なのだから、そんな素材を可愛らしく着飾らせるのは、女の子だったら、誰もが夢見るイベントだろう…。
「しめて、十六万円になります。」
「カ、カード払いで…。」
勘定を済ませていると、レジの女性もニヤニヤしている。
無理もない、オレの服は着回しも含めて三セットに対して、リサの衣装は驚異のニ十セット!
そりゃぁ、レジの女性もニヤニヤするわけだ。
ちなみに試着の段階では、さらに大騒ぎになっているのだが…それは、ここだけのひ・み・つ。
「なぁ、おっちゃん。
キッチンカーもデザイン変えてみない?」
「お、おぅ…?」
手渡されたデッサンノートを見てビックリする。
薄い水色にコバルトブルーの水玉を纏ったキッチンカーが
「ボディーの中央部でツートンカラーにして、色反転しても
そう言って、二ページを見せられると…頷くしかなかった。
「やったぁ~!!」
ガッツポーズを決める少女…。
そう言えば、自己紹介がまだだったよな。
「素敵なデザイン案をありがとう。
…自己紹介がまだだったね。
園田だ、よろしく。」
「うん、よろしくな、おっちゃん。
…あ、あたしは
そんで、あっちのおねぇ~ちゃん…名前何ていうの?」
「リサだ。」
「理沙ねぇ~かぁ…いい名前。
っと、そうじゃなかった、理沙ねぇ~の衣装を選んでたのが
そんで、理沙ねぇ~に助けてもらったのが
「そうか…、今日はいろいろとありがとう。」
「えへへ、私達も楽しめたからいいや。
で、車の塗替えはどうするの?」
「ああ、心当たりがあるから、そっちをあたってみるよ。
このデッサンノートは借りてもいいかい?」
「ど~ぞ~。」
そう言い残してリサの下に走っていく萌ちゃんだった。
「そっかぁ、塗る気になったかぁ~。」
「悪いかよぉ。」
当然だよなぁ~と、したり顔でこっちを見る添田に、憮然と答えてしまうオレ。
「しっかし、面白いデザインだなぁ…。
まぁ、金さえ積んでくれれば、かっちり仕事はするけどなっ!」
「頼むわ!」
それだけ伝えて立ち去ろうとして、添田に呼び止められる。
「で、代車どうする?
軽バンでいいか?」
「ああ、それで大丈夫だ。」
「んじゃ、金払いを良くするためのおまけを…。」
「おいおい、何を言って…って、えぇっ!!」
添田が引っ張てきたのは、小型のカーゴトレーラーと、パラソルセット。
「たまたま、代車に牽引器具が付いてたからな…仕事は休ませんよっ!」
高笑いをする添田、そして振り返るとリサが目をキラキラさせている。
「…ハイ、オシゴトガンバリマス。」
荷物を移し替え、添田の事務所を去る。
「まぁ、五日後に取りに来いよっ!」
気さくに手を振り送り出してくれた添田…
さて、如何程の請求が来るのか…。
あと、気になったのはリサのウェイトレス姿を写真に抑えてたよなぁ…、
「あの野郎、美人な嫁さんもらっておきながら…。」
「???」
思わず心の声が漏れ、リサにキョトンとされてしまった。
◇ ◇ ◇
代車による移動喫茶店…正直勝手が悪く、改めてキッチンカーの素晴らしさに泣けてくる。
のだが、パラソルセットが補って余りある働きをしてくれたおかげで、何とか営業を続けられた。
というよりも、パラソルが目印になって、お客様が集まって来たのだった。
そうこうしている内に、五日間はあっという間に流れ…。
「こ~じぃ、塗装終わったぞぉ~。取りに来いやぁっ!」
という電話が添田からかかってくる。
「楽しみね♪」
「そうだな。」
もう期待で胸がパンパンのリサを横に、お財布事情に若干の不安を感じているオレ。
しかし、そんな不安を一発で払拭する秀作が眼前に現れる。
「こ…コイツはぁ…。」
「素敵っ!!」
「まぁ、こんなもんでしょ!」
呆けるオレに抱きつくリサ。
そして、胸を張る添田。
デッサンノートの色調そのままに降臨したキッチンカー。
要所要所にカップやポットの影絵が配置されている。
何より目を引くのは、カウンターの後部よりスペースににコーヒーポットを持って微笑むウェイトレス姿のリサのイラスト。
カウンターの上には、サイドオーニングまで設えられ、当たり前のように連結器も備わっている。
「あと、テーブルとパラソル…それと、椅子を少々…しめて…。」
そこまで言った所で、オレは首根っこを捕まれ事務所の方へ…。
そして請求書を見せられる。
「いつもにこにこ現金払いってね。」
「へいへい。んじゃ、カードの一括払いで。」
「まいどぉ~。」
事務所の外に出ると、早速サイドオーニングを展開し、テーブルと椅子を出してコーヒーを振る舞っているリサと、ご相伴に預かる添田さん一家が佇んでいた。
翌日から開店した移動喫茶店、車体のデザインと特徴あるトレーラー姿も手伝って、周囲の反応は上々だ。
「いらっしゃいませ!」
ウェイトレス姿のリサ。
ケモミミとフサフサしっぽが、よく映える!
そのしっぽに興味を持った女の子が触ろうとするが、寸前で左右に逃げられパタパタしている。
すると、その子の父親らしき男性が、しっぽをムンズと掴む
「ひゃんっ!」
リサが悲鳴をあげ、親子は固まり、注文しようとしていた隣のテーブルの女性たちも目が点になる。
「お客様。
お戯れは、ご遠慮ください。」
色っぽく男性客に注意を促すリサと、その表情に固まったまま赤面する男性。
…そして、向かい合って座っていた女性(奥さんだね♪)が、真っ赤な顔で怒っています。
バチィ~~ンという音と共に夫婦の
リサは、自分のしっぽに興味を持った女の子を抱き抱える。
「もう、悪い事はしないでね。」
そう言って、顔同士を擦り合わせ、女の子もキャッキャッと喜んでいる。
「あ、あの~…注文を…。」
「はい?
…すいませんでした!」
女の子を抱えたまま、注文を取り始めるリサ。
そんなのどか?な雰囲気で喫茶店は軌道に乗り始めた。
さて、一週間ぶりに、あの女子高生たちに会う時がやって来た。
いつもの場所で店舗を開くと、早速彼女たちがやって来る。
「理沙ねぇ~、こんにちはぁ~。
わぁ~、似合ってるぅ~。
お店もいい感じだしぃ~。
インスタにあ~げよっ!」
スマホを取り出し写真を撮り始める萌ちゃん。
…気のせいかもしれないが、何だかお客が増えてきたような…。
さて、テーブルの方に目を向けると、リサが亜美から手渡された袋の匂いをかぎながら、興味深そうに話を聞いている。
コーヒーを持って近づくと、リサがこちらに振り返って聞いてくる。
「ダーリン、ハーブって知ってる?」
「ああ、ラベンダーとかローズマリーとかいう、香草の類のことかな?」
「そうそう。」
サラッと聞き流したが、リサの口から「ダーリン」という言葉が出た瞬間、顔が熱くなってしまった。
さて、話を戻して…。
どうやら、亜美からハーブ・アロマの香る喫茶店というコンセプトはどうかという提案であった。
ちなみに、亜美は
イロも味気もなかった白いメニューから、可愛らしい丸文字で紹介される商品の数々と、添えられたイラストが目を引く。
そうこうしていると、いよいよお客様が増えてきて接客の手が足りなくなってくる。
すると、待ってましたと言わんばかりに少女たちがアルバイトを買って出てくれる。
早速ウェイトレスの服に着替えてくる少女たち…なのだが。
「何で、猫耳と猫シッポ?」
「だってぇ、理沙ねぇ~が犬なら、あ~しらは、猫かなぁ~…と。」
「…すまんが、よろしく頼む。」
カウンター席は勿論、テーブルにベンチも人で溢れ、ケモミミ娘たちがおぼん片手にコーヒーを届け回っている。
結果、初日はコーヒー豆の在庫切れで午前十一時に開店したにもかかわらず、午後三時には閉店するはめになった。
早速、明日の仕込みを準備するために、キッチンカーを走らせようとすると。
「おっちゃん、理沙ねぇ~を貸してぇ?」
亜美が頼み込んできた。
リサの方も懇願の瞳。
まぁ、採って喰われるようなヤバい社会でもないので、喜んで貸し出してやった。
すると、亜美とリサが手を取り合って喜んでいる。
何か入り用が有るのだろうと、五万円ほど財布に入れてリサに渡すと、他の少女たちも加わり、ウェイトレス姿のままでアーケード街に出かけていった。
「ま…まぁ、良いんだけど…ね。」
そう愚痴るのが精一杯だった。
さて、紹介頂いたコーヒー豆の卸問屋に行ってみると、オレもすっかり時の人になってしまっていたようで、到着するなり、根掘り葉掘りいろいろと質問攻めにあってしまった。
豆の方もかなり多めに頂戴し、不足気味の食器も追加で手配することになった。…到着は明後日とのこと。
ある程度の買い出しも済ませ、戻ってみると、例の女の子たちがテーブルを囲み和気あいあいとしている。
「いい買い物は出来たかい?」
「はい、とっても!」
オレの質問に嬉しそうに答えるリサ。
その姿を羨ましそうに見つめている三人の女子高生。
「あ~あ、うちも彼氏欲しいなぁ~。」
「うちらの通ってるとこ、女子校だし、無理的なぁ~。」
「はぁ~~あ…。」
悲喜こもごもの声が漏れてくる。
すると、リサが買い物袋から、何かの詰まった麻袋を取り出す。
「
小さく
すると、借りてきた猫のようにおとなしくなる少女たち…。
って、寝てしまってるんだが…。
もともと、この場所は二日程度借りる予定でいた。
…のだが、喫茶店への来客増加に近隣店舗の売上がリンクしてしまったため、しっかり泣きつかれてしまう事に…。
結果一週間の契約延長が決定してしまい、女子高生たちも夏休みに突入していたことから、一週間のアルバイトも決定した…のである。
日が経つにつれて、テーブルや椅子、ベンチが増えてしまい、知らないうちにただの駐車場が、ちょっとしたした広場に変貌してしまっている。
相変わらず、お客様は多く、みんな精力的に頑張ってくれている。
予定外だったのは、机に設えた麻布のアロマポットが人気になってしまい、「分けてもらえないか?」という相談があちこちで巻き起こってしまう。
中身はただの乾燥ハーブと香油を含んだ真綿が入っているだけなのだが、リサの
という訳で、お分け出来そうになくなってくるのだが、それを説明できず困っていると、リサがあっけらかんと答えてくれた。
「すいません、これは、私たちのお店でコーヒーを美味しく飲んで頂くための演出でして、この空間がお分けできないのと同じように、こちらもお分けできないんです。」
申し訳無さそうに笑って頭を下げられると、お客様も何も言えなくなってしまう。
最終日、お客様だけでなく近隣の店舗からも人が繰り出してきて、ほぼ夏祭りの様相を呈してくる。
三人の女子高生も、同級生や中学時代のお友だちが押しかけてきて、楽しそうにはしゃいでいる。
「今日のバイトは、アテにできそうにないな。」
「ええ。」
苦笑いをするしか無いオレと、本当に嬉しそうな顔のリサ…。
ふと、この世界で気心の知れた人間がリサしか居ないのかと思った時、涙が出そうになってしまった。
「どうしたの?ダーリン。」
どうやら、涙目になっていたらしく、不安げにオレの顔を覗き込んでくるリサ。
「あ、ああ、ちょっとな…感傷に浸っていた。」
「そう。
…なにかあったら、言ってね。
助けてあげる。」
ニコっと笑うリサがとても眩しくて仕方がなかった。
長かったお祭りも無事終わり、今日は一日オフの日。
…という訳で、なぜかプリクラの前に立っています。
「記念よ、記念!」
何の記念かわからないが、
隣では、リサが一番可愛らしいウェイトレス姿で写真に写っている。
一枚プリクラが出来上がると、オレは外に押し出され、後はお嬢ちゃんたちが、リサと同じ衣装に身を包み、リサと一緒にプリクラ大会を初めている。
御用達の文房具店、書店、洋服屋から雑貨屋…と、ウィンドウショッピングのハシゴを進める娘たち。
途中カラオケボックスに入って歌い始めると、リサが目を白黒させている。
無理もない、歌謡は勿論、歌うという行為そのものがなかったのだから…。
のわりには、二時間後にはリサも含めてみんなノリノリで歌ってたよなぁ。
「それじゃねぇ~。」
「また、明日ぁ~。」
手を振りながら三人の女子高生と別れを告げ、キッチンカーに乗る。
「ねぇ、ダーリン。
私、あの丘に行ってみたい。」
リサに促され、日本に降り立った、あの丘へ向うことになった。
◇ ◇ ◇
「事故からこっち、本当に大変でしたね。」
「そうだな。」
街の一望できる丘の駐車場、リサが注いでくれたコーヒーを片手に彼女と話している。
リサの膝の上には、今日撮られたプリクラがびっしりと貼られた写真帳が置かれている。実際、真琴がチェキを持っていたので、キッチンカーを背景に写った集合写真などもしっかり貼り込まれている。
…ちなみに撮影者はオレなので、オレの写真は微々たるものだ。
「これからが楽しみですね。」
「ああ。
…まぁ、亜美ちゃんたちの処遇が悩みどころかな?」
「そうね。」
オレのため息にコロコロ笑うリサ。
二人してコーヒーを飲み終わると、突然睡魔に襲われる。
リサがオレに寄りかかってきた感じを知覚した所で、オレの意識も無くなっていった。
◇ ◇ ◇
「パパ、ママ。綺麗だよ。」
車窓から見える街並みに感嘆している女の子。
運転席と助手席の両親は俯いたままである。
先程まで、後席で寝ていた娘が目を覚まし、前席に話しかけてきたのだ。
「そうね、綺麗ね。」
薄っすらと浮かべた涙を拭って、娘の顔を見る母親。
娘も母親の方に振り返りニコニコしている…が、母親の後ろを見て目を丸くする。
「???」
娘の反応に違和感を感じ、娘の目線に合わせて自分の後ろの車窓を見ると。
いつの間にか水玉の車が止まっている。
「ママ。あれ何ぃ?」
「な、何かしらねぇ?」
娘と会話を合わせる母親。
「オイッ!」と夫に声をかけられるが、気にする風もなく娘と一緒に車外に出る母親。
ほのかに香るハーブの匂い。
匂いに誘われて、反対側に移動する親子。
遅れて父親も外に出て、母子の後を追う。
三人の前に現れたものは、三つのコーヒーカップとコーヒーポット、お菓子の載った皿が置かれたテーブルとベンチ。
カウンターには麻布の袋が置かれており、そこからハーブが香っていることが分かる。
誘われるままベンチに座りコーヒーを口にする三人の親子。
子供が目をパッチリさせて母親に話しかける。
「ママ、美味しいねぇ。」
母親も大きくうなずき、父親も感嘆する。
「そうだね~。」
「そうだなぁ~。」
二人の言葉がハモってしまい、急に赤面する両親。
そのさまを見てニヤニヤする娘。
「お熱いですねぇ~、お二人さん!」
娘がケラケラと笑い、両親も自嘲気味に笑い合う。
「久しぶりね、こんなに笑ったのも。」
「そうだな。」
置かれていたコーヒーを飲みながら、二人の出会いを回想しはじめる夫婦。
いくつもの思い出がお題に登り…。
そして、今に至った所でポロポロと涙を流しだす。
ふと気づくと娘がどこから見つけたのか手紙と車のキーを持って燥いでいる。
「ちょ…っちょっとぉ。」
母親が娘の手から手紙と車のキーを取り上げる。
手紙には『ご多幸と子宝を』と記されている。
さて、車のキーには見覚えがなく、考え込んでしまう夫婦。
「ひょっとして…。」
夫がキーを使ってキッチンカーの鍵を開ける。
カチャンッといういい響きを持ってドアが開き、驚く夫。
運転席のドアを開ける夫と、娘の手を引きながら、傍に立っている妻。
座席には一冊のノートと銀行通帳とキャッシュカード。
ノートを開くと、コーヒーのレシピが掲載されており、通帳はといえば…。
「僕たちの名義になってる??」
八桁の金額が印刷された夫名義の通帳に、面食らってしまう夫婦。
夫はさらに車内を物色すると、車検証も保健所への届けの名義も夫のものになっていた。
「アナタ、これって?
どういう事?」
「いやぁ、僕も何が何やら…。」
夫婦揃ってやましいところは何も無いものだから、当惑し始める夫婦。
「ねぇ、パパ、ママ。
こっち、こっち。」
娘に促され、カウンター横のイラスト前に集う親子。
「この子は誰ぇ?」
そこには、リサのデフォルメイラストがウィンクしながら出迎えてくれる。
しばらくそこに立ち尽くす両親と、その姿を不思議そうに見ている娘。
「アナタ、やってみない…このお店。」
「ん…あ、ああ。」
夫は思案していた。そんな夫にトドメを刺す妻。
「私達には、何も残っていないのよっ!
どういう訳かチャンスが転がり込んできてるの!
ダメ元よやってみましょう!」
妻のアツに押される夫。
ふと妻の手元を見ると、レシピの詰まったノートとあの手紙が握られている。
『ご多幸と子宝を』
しばしの沈黙が流れ。夫も決意を固める。
「やってみるか!」
「ええ。」
「パパぁ、また食堂を始めるの?」
「ああ、パパ頑張るからな!」
「うんっ!」
親子が意気投合するその先に、日が沈んだ空に満月が顔を出している。
リサが目を覚ますと、そこは宿屋のベッドの上、左横を向くと園田が居て…。
「リサぁ~。何時まで寝てるのぉ~。」
ユイの言葉に起こされ、台所へと向かうリサ。その膝下に寝ていたレミもズリ落ちて…起こされてしまう。
レミが起きると、布団にくるまっていた手帳がレミの頭に落ちる。
「リサぁ~、落とし物ぉ~。」
レミも手帳を持って台所へ向かう。
「あ、それは、写真帳っていう…。」
「シャシンチョウ??」
台所から姦しい女性の騒ぎ声、その声にようやく目を覚まし、台所を覗く園田。
ウェイトレス姿の萌とリサのツーショット写真を皮切りに
全員集合でキッチンカーの前で撮影した写真
亜美がリサの頬に接吻している写真
真琴がリサにお姫様抱っこされている写真
リサと女子高生たちが同じ
一人一人のブロマイドのような写真
…台所では、写真帳の中身をを見ながら三人が燥いでいる。
「かわいいわねぇ、この衣装。」
ユイがニコニコしていれば
「
レミが園田を捕まえ、説教を始めている。
そして、リサが最後のページを開くと、制服姿の萌、亜美、真琴が並んだ写真と一筆。
『理沙ねぇ~ちゃん、これからもよろしくね! 萌、亜美、真琴』
「夢じゃ…なかったんだ。」
そう言って微笑むリサだった。
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