第19話 姉妹

 翌朝、荷物をまとめ出発を始めるキャラバン。

 お昼に差し掛かる頃、森の突き当りに到着する。


「何だか、不自然なんだよねぇ。」

 森の突き当りを運転席からいぶかしげに見ている園田。


「ほほう、結界が見えるか。」

 レミがニヤニヤしながら園田の方を向く。


「見えると言うよりも、道の途切れ方が不自然なんだよね。

 …何かを隠しているのであれば、納得いくんだけどね。」

「ふふふ、ここからは妾の出番じゃ。」

 園田の頬にキスをして車外に出るレミ。


 園田が不自然と言っていた森の境目に立つレミ。

 右手を差し出しまじないを唱える。


「我が結界に仇なす者は誰か?」

 雷が落ちたような轟音のような声が響く。

 が、気にする風もなく、呪いを続けるレミ。


 程なくすると、道が開けてくる…。

 トレーラー類が辛うじて通れる程度の獣道が…。


 レミがハイ○ースに乗り込むと、前照灯を点け森に入っていく園田一行。

 走ること一時間程…。

 開けた場所が見えてきたので、そこまで出たところでキャラバンを停める園田。


 園田を含め、全員が外に出ると、それまで明るかった大地が突然暗くなる。

 全員が見上げると緑色のドラゴンがこちらを見下ろしている。

「お姉様♪」

「!!!」

 レミの呼びかけに、慌てて降りてくるドラゴン。

 降りてきたドラゴンに近づいていくレミ。

「ご無沙汰してます、リカお姉様。」

「レミっ!!

 まぁまぁ、いらっしゃい。」


 獣化を解いたドラゴン。

 現れたのは、白いローブを纏った腰まで届く深緑色の髪に、赤目、黒角の女性。

 リカと呼ばれた女性は、レミと抱き合ってはしゃいでいる。

 一頻り姉妹の再会を楽しんだ後、レミがリカに同行者を紹介していく。

「お姉様、彼は私の夫、コウジです。」

「は、はじめまして。」

 お辞儀をする園田。


 そんな園田をじっと見つめるリカ。

「な、なにか?」

「ん、いいわ。」


 そういうと、リカは園田から視線を移す。

「この子は、二号さん。」

「ちょっとぉ!!

 リサといいます。

 コウジさんのですっ!!」

 レミの紹介にツッコミを入れるリサ。


「ふふふ、妹が迷惑をかけているようね。

 リカよ、よろしくね。」

 リカはニッコリ笑う…。


「それでね、リカお姉様、オイゲン親子と、猫娘たちの数名をここに置いて欲しいの。」

「いいわよ。

 歓迎するわ。」

 リカの言葉に、オイゲンたちは大きく息をつき、猫娘たちも抱き合って喜んでいた。

「であれば、ゲルを建てないと…。

 それから、お墓も建てないとね。」

 そう言って、荷物を下ろし始めるリサ。

 作業に釣られて園田とユイも手伝い出す。

 他の猫娘たちもトレーラーのラックからゲルの機材を下ろしている。


 ゲルの組み立てを始める園田たち。

「で、私を避けてたあんたが、どういう風の吹き回し?」

 レミの隣にリカが立っている。

「そうね…。

 お姉ちゃんにしか頼めないかなぁと思って。」

「この子たちの保護ってこと?」

「そう。」

「ここに連れてきたのは、この子たちだけ?」

「そうよ。

 他になにか見えるの?」

 リカの言葉に、驚いた表情を振り向け答えるレミ。

「そう…。

 私も年かしら…。」

 戯けるリカの前では、五つのゲルが徐々に建ち始めている。


 キャラバンが到着した夜、歓迎会を催し、来訪者を歓待するリカ。

 自ら仕留めてきた鹿二頭を振る舞っている。

 お酒とマタタビも入り、出来上がってくる一同。

 あちらこちらで、酌の輪が出来上がっている。


「それで、コウジさんは、うちの妹とリサの両方を娶ったというわけね。」

「ブフォッ!」

 リカの言葉に、含んでいた酒を吹き出す園田。

「え、あぁ、え?」

 パニくる園田と、その姿を見てニヤニヤするリカ。

 ようやく酔いも冷めてしまう園田。


「ひょっとして、二人揃って婚姻色になってるからってこと?」

「そうねぇ…。

 婚姻色は結果ということかな。」

「??」

 園田が不思議そうな顔をする。


 リカは大きくため息を付いて話を続ける。

「獣人が恋に落ちると婚姻色になると思ったのかしら?

 それは、半分正解で、半分間違い。」

 リカが酒を注ぎ、園田が受ける。

「獣人が婚姻色に変わるのは、夫婦になったときよ。

 祝言も契りも必要ないの。」

 ケラケラ笑うリカと、深刻に悩み始める園田。

「まぁ、自覚は無くても、娶ったんだから、大切にするのよ。

 ‥あぁ、甥っ子、姪っ子はまだ先でいいからね。」

「は、はぁ…。」

 渋々顔の園田を、ニコニコ顔で見守るリカ。

「オイゲンたちの事は引き受けるわ。

 安心して旅を続けなさい、異世界の人。」

「どうしてそれを?」

「雰囲気かしら?

 乗り物を見れば一目瞭然だけどね。」

 ケラケラ笑うリカと、後頭部をかいて答える園田だった。


 ◇ ◇ ◇


「それじゃ、気をつけるのよ、レミ。」

「解ったわ、お姉様。」

 リカがレミの頭を撫でている。

 その横では、園田がオイゲンやケニーたちと握手を交わしている。

「お世話になりました。

 余生はここで送りたいと思います。」

「それでは、達者で。」

 ユイたちも伴の猫娘たちと別れを惜しんでいる。


 トレーラーのドアをロックしてまわる園田。

 リサとレミは、ハイ○ースの前席に、ユイたち親子四人が後席に乗車する。

 全員の乗車を確認した園田がリカの前に立つ。

「では、行ってまいります。」

「よいBon Voyageを、たまには立ち寄って下さいね。

 それと、みんなが繁殖してしまったらゴメンね。」

 敬礼する園田に対し、クスクス笑うリカだった。


 キャラバンが出発し、残される人々。

「さぁさぁ、私たちの生活も始めましょう。」

 手を叩いて全員を促すリカ。

 その姿をミラー越しに見ているレミがそっと呟く。

「来てよかったかな。」

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